すっかりお気に入りの作家になった奥泉氏の二冊目。どれを読むか悩んだけれど、片っ端から読んじゃえ!って気合だけはいれてみた。しかし、先週は泳ぎ疲れと、91歳の母のコロナワクチン予約で、体力と気力消耗して、やっと一冊。

 

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この物語は、将棋ミステリだそうで、確かに読了後に、謎が残りなかなかこの備忘録をかけずにいました。

 

それにしては、TVで対局するプロ棋士たちのすごさが実感できます。プロ棋士になる為に将棋を極めるという人間の業、そして敗退した者たちの行き場の失った魂が、幻想の世界に彷徨いだします。


事の起こりは、矢文についた「図式」です。図式とは将棋図式すなわち詰将棋のことと説明されています。奨励会員たちが、それを解こうとしているところに、奨励会退会後に、将棋関連の物書きとして生計をたてている北沢と、先輩物書きの天谷氏が遭遇します。その図式を持ち帰った夏尾も奨励会を退会している一人です。

 

天谷氏の告白が始まります。矢文の図式をみるのは二度目であること、同門のプロ棋士の門弟であった十河と共に、その大事な局面で、図式が気になってプロ棋士に昇格できずに終わったこと、そしてその後消息を絶った十河を一枚の葉書をヒントに北海道まで探しに行ったことなどです。そして十河が、どこかの神様から特別にもらったという龍神棋、すなわち金剛龍神教に入りこんでしまったという疑惑に、小さい頃から天才としてプロ棋士を目指す者の栄光と挫折、天才と狂気が表裏一体となって、天谷氏も北沢自身も、十河の痛みを全身に受け、いかにプロ棋士になることが過酷な道程かを物語っています。

 

やがて、最初に矢文を見つけた夏尾が失踪します。十河も見つけたという図式との関連性はあるのか?取材で海外に出てしまった天谷氏との連絡も途絶えたある日、夏尾の同郷であるという女流棋士玖村が尋ねてきます。実はギャンブル好きだったという夏尾の別の顔も知らされます。そして北海道に向かったという夏尾が、今も行方不明の十河と共に、龍神棋にからめとられたかもしれない予感と共に、美しい女性棋士玖村のために夏尾探しが始まります。

 

さて、この先はネタバレになるのでこの辺にしておきます。もちろん私のパソコンを打つ手が、この壮大なミステリの謎を解いて公表したいくらいですが、多方面からの推理で、じっくり驚きをもって謎ときをする方が良いかもしれません。

 

(以下ちょっとだけネタバレ)

 

この物語は、謎が謎を呼ぶ仕掛けに引き込まれます。そして将棋の世界の厳しさに息苦しくなります。北沢は、人生を将棋盤に例え、自分自身が将棋の駒であったことを、迷い込んだ幻想の世界で知ったのではないでしょうか。そして盤上を外れた駒たち夏尾と天谷氏。人生の将棋盤からおりられなくなった女流棋士の玖村の終着点は、すずらん厚生病院で意識を回復した「死神」がチェックメイト?そういうことなのだろうと解釈しただけですが。文中に出てくる将棋については、さっぱり理解不能でしたが、十分に面白く、またしても著者の筆力に圧倒されました。