《初めてのパーマ 

 

「さあ、どうぞ お席へ。」

   と、良子に声を掛けられ R席]の方へ歩み出す リカ。 クリーム色のタオルターバンと、クリーム色のカットクロス姿に関しては先程と同じだが、その肩に白いタオルが掛かっているのだけが異なっている点だ。

   股間に感じる、熱い ほとばしりによって、歩き方がギクシャクとなりそうになるのを必死に堪えている。 そうやって精一杯、普通に歩きながらその視線の先に、サブ用具室に居るマリ店長の姿を見つけた。 その為、良子と同じ様に やはり急激に ドキドキと胸を高鳴らせて、更に愛液を沁み出させてしまう。

   そして、セット椅子に到着して腰掛けると クリーム色のターバンが外され、良子の手により 渋いグリーンのハンド・ドライヤーで軽く髪の余分な水気が飛ばされ始めた。 それで、あたり一面に 上質な トリートメント剤の良い香りが漂い出す。

   いつ迄も無言でギクシャクと、ぎこちなくしている訳にもいかないので良子は、出来得る限り 自然体の明るい口調で、

「さあ! それじゃあ、パーマに入ります。」

   と、声を掛けながら リカの肩から白いタオルを外し、光沢の有るクリーム色のカットクロスをも脱がせる。 そして、更に首元の白いタオルも外すと、それらの全てをワゴンの横に掛けた。 すると、この[パーマ]という言葉に 敏感に反応をした リカは、とたんに表情を強ばらせる。 その様子を、瞬間的に察知して リカの心を読み取った良子は、

「そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。」

   と、優しく声を掛け 今度はクリーム色のタオルを リカの首に巻く。 そして、ワゴンサイドから綺麗なパール状に光沢の有る、グリーンの袖無し塩化ビニール素材のパーマクロスを取って、まとわせる。 更に 肩にもう1枚、クリーム色のタオルを首の後ろの方から掛けて、胸元でブルーのダッカールで留めた。 これ迄 美容室でカットだけしか経験した事が無い リカ。 その為、ポリエステル素材のカットクロス、もしくは ナイロン製カット・パーマ兼用のクロスという、いずれも軽いタイプしか まとわされた事が無かった。それが今回、初めてその身に掛けられた防水性の高い、塩化ビニール製のパーマクロス独特の重量感に少し戸惑っている。 それに、鼻腔をくすぐるようなクロスに沁み込んだパーマ液 独特の匂いで、否応無しに緊張の度合いが増すのだ。 そんな状態の所を 良子に、

「これ迄に、他のお客様がパーマをかけていらっしゃる所を ご覧になった事が おありでしょうから、大体 どんな風にするのかはご存知ですよね?」

   と、優しく丁寧に問い掛けられ、

「えええ、 まあ

   と、緊張の面持ちで答える。 すると良子は、にっこりと微笑みながら パーマ用ワゴン 2段目の、パーマロッドが太さごとに綺麗に並べられたトレイに手を掛ける。 そして、それをガシャガシャッと引き出して、リカの目の前に差し出した。 すると、プラスティック製のロッド同士が擦れ合う ジャラジャラッという音を間近に聞いて、リカの緊張が更に増す。

「先程も言いました通り、くせ毛風に緩く 大きなウエーブを創ります。 ですので、使うロッドは ご覧のように、これらの中太サイズです。」

   という、良子の言葉を聞きながら 自分の目の前に差し出されたトレイの中にある カラフルなパーマロッド群を見て リカは、

ああ…  これが今から、私の頭に次々に巻かれていくんだ

   と、思うと 余計に緊張で顔をこわ張らせてしまう。 良子は、確かに大きなウエーブをと言っているのだが、どうしても自分の髪がチリチリの爆発頭になってしまうんでは? という疑心暗鬼が、湧き起こってしまうのだ。

   目の前にある 使い込んだロッドやペーパー、スティックピン等が乗った このトレイ。 そこからは、クロスに沁み込んでいる柔らかな匂いよりも更に、パーマ液の残り香が強烈に漂ってくる。 しかし、それらの香りを嗅ぎ続けているうちに リカは、

この、パーマの匂いって…  決して嫌いじゃ無い。 むしろ、何だか とっても良い感じ

   という思いをいつの間にか抱き始め、胸がドキドキするような軽い興奮を覚え始めていた。 その、何かを期待するような 心の微妙な変化は、緊張の為に堅くなっていた表情を和らげるのには充分であった。リカの顔に、微笑みが戻り始めたのである。 そんな 微妙な変化を 元々、心理学専攻である良子が見逃す筈は無く、素早く次の行動に移った。

「そうだ!  すみません 柴崎様、一寸これ 持っていて下さいませんか?」

   と言うと、リカの目の前に ロッド類の乗ったトレイを差し出す。 すると、リカは 光沢有る綺麗なグリーンの袖無しパーマクロスにスッポリと覆われて 隠れていた両手を、反射的に クロスの両脇から出した。 良子は、その手に トレイを預けて、

「今、私のイメージしている髪型のワインディング状態の写真と、完成写真とを お見せしますので。」

   と、弾んだ口調で言いながら 鏡の右下の方、リカの足元部分にある書棚の前に 彼女に背を向ける形で屈み込んだ。 そして、そこに数冊置いてある 美容業界誌の中から、パーマ特集号を取り出し、そのページをめくり始めた。

??」

   と、突然の事に 鳩が豆鉄砲を食ったような思いで戸惑っていた リカ。 それで今、自分が持たされているパーマロッドのトレイを 改めて目の当たりにして、そのたち込めるパーマの香りに、更に興奮が高まる感覚を覚え始めていた。 無意識に、ゴクリと生唾を飲む。 そしてついつい、トレイの中から そっと、そこに在る中では一番細い、白っぽく淡いクリーム色のニューエバー2号ロッドを1本取り出した。 それを鼻に近づけて、沁み付いたパーマ液の匂いを思いっ切り吸い込んでみる。 パーマ特集号のページを一生懸命めくっている、後ろ姿の良子に悟られないよう、音が発たないように細心の注意をはらいながら。

   すると、先程迄のトレイ全体から立ち昇っていた、ほのかなパーマの香りとは比べ物にならない程の良い匂いに身が震える。 そして何より、良子に隠れて密かに匂いを嗅いでいるという、今の自分の行為自体に まるで全身が痺れるようなある種、興奮の高まりを感じ始めていた。 只、この時点では まだ リカ自身、ハッキリとは自覚してはいなかった。 先程のマリ店長から受けた、執拗な迄の 言葉と手のひらによる愛撫攻めにより、性的な興奮神経が研ぎ澄まされている という事を。

 

というよりも、これ迄 仕事一筋で男性経験が極端に乏しかった リカ。 その為に、秘部から愛液が次々に溢れ出しパンティーを濡らす という感覚に、決して 慣れてはいないのだ。 そんな彼女にとって、とても異質な 不思議な感覚なのだろう。 それに、まさか美容室でトリートメント中に、そして今[パーマ]という言葉に、又 パーマ用具の匂いに興奮しているという事自体が信じられない事象なのである。

   普段、その美し過ぎる容姿の為 世の男性達から逆に敬遠されている リカ。 その為、女企業戦士として仕事上で その男性達の優位に立つ事によってしか、気持ち上の復讐を果たす方法を無くしているのだ。 それでいつの間にか、男性との縁を自ら断ち切ってしまっていた現実。 しかし その実、本当は寂しい という その矛盾した心の本音・隙間を、マリ店長は鋭く察知した。 元々 リカが持っている髪フェチとしての感性・資質を見事に見抜いたのだ。 そこでまず、優しくそして激しく言葉をかけて、又 そうしながら同時に ソフトなボディータッチを施す。 同性であるが故の安心感から逆に、次第に 官能的な同性愛の世界へと、誘ない始めたのだ。 髪フェチという感覚を絡めながら、巧みに。

   こういった才能に関しては、心理学者である良子の学問的観念よりも、マリ店長の方がより数倍も優れていると言えるのかもしれない。 正に、動物的とも言える感覚で嗅ぎ分けるという点では

 

   そうやって、興奮によるトランス状態の為に パーマロッドの匂いを貪るように嗅いでいた リカ。 彼女は 堪え切れずに、良子に聞こえないように気を付けながら、

「はぁ〜

   と、押し殺すような 長いため息を漏らしてしまう。 そしてそんな自分が恥ずかしいやら、可笑しいやらで 一人で顔を赤らめてしまっていた。 その一部始終を サブ用具室からジッとうかがっていたマリ店長が、

してやったり

   という顔で、ニンマリと微笑んだ事等、知る由も無く。

 「見つけましたよ! こんな感じです。」

   と、満面の笑顔で立ち上がりながら良子が振り返った。 そしてその手に持った美容誌の、お目当てのページを開いて 嬉しそうに リカに見せる。 すると、まだ クリーム色のロッドを手に持ったままだった リカは、ドキッとしながらそれを慌ててガシャッとトレイに戻した。 そこで、ほんの少しの間だけ 沈黙の時間が過ぎる。

私、パーマ道具の匂いなんて嗅いじゃって。 しかも、それを持っている所見られてしまって。 良子さんに 変に思われたかな?}

   と、心臓をバクバクさせながら良子の反応を待つ リカ。 すると良子は、初めてのパーマなので、単に ロッドに興味があって見ていたのだろうとでも思ったのか、そんな事等 意に介せずに 優しく、

「そんなに沢山のロッドが、これから自分の頭に巻かれていくって思うとドキドキするでしょ? でも そこにあるロッド全部を巻く訳じゃありませんし、この写真みたいに一本一本が太めですので、そんなに思った程 ビッシリって感じでは無いでしょう?」

   と、 美容誌の ワインディング状態の写真を指差しながら説明する。 良子の、その淡々と話す様子に リカは、

良かった…  気付かれていない。}

   と、安堵の ため息を漏らしながら、

「そそうですね。」

   と、何とか 搾り出すように 返事をする。

 そう…  リカがロッドの匂いを嗅いでいる時はまだ良子は背を向けていたので、全く気付かれずに済んでいたのだ。

 良子は、笑いを取って リカの緊張を更にほぐしてあげようと、他のページをパラパラとめくりながら、

「このページの方なんて、凄くロッドも細いですし、ビッシリと いっぱい巻いてあるでしょ?」

   と、指差す写真は 確かに年配のモデルさんに、極細ロッドが 細かく 綺麗にビッシリと100本以上も 平巻きに巻かれている状態であった。 いわゆる[オールパーパス]という、パーマの最も基本的な巻き方だ。 当然 仕上がり状態の写真も、年配女性特有の 大仏パーマになっている。

「くくく。」

   リカは苦笑する。 良子は ウケた事に安心して ページを元に戻すと、

「それに比べて、こちらは仕上がりも くせ毛風で自然な感じですし、同じ パーマと呼んでいても、全く違う物でしょう?」

   と、明るく 問い掛ける。

「そうですね、凄く自然で良い感じですね。」

   と、まだ心臓はドキドキしながらも、少し安心した様子で答える リカ。

「そうでしょう? 一言で パーマと言っても、色んな 様々なスタイルがあるんですよね。 今回の パーマは決して、いかにも パーマをかけましたって感じではありませんから、どうぞ ご心配無く。」

   と、良子が言う頃には もう、すっかり安心出来たようだ。