※当時の記録をもとに記しています。
- 2010年9月 -
巨大卵巣腫瘍の開腹手術当日。
朝食がないので、点滴開始。
病室に、初めて見る男性医師が
勢いよく入って来た。
名乗らぬこの先生は誰?
エライ先生なのか??
と、頭の中で疑問が渦巻く。
初対面さを気にする素振りも見せずに、
先生の言う通り、腕を差し出し、
手術用リストバンドと点滴をつけてもらう。
気難しい先生だったらどうしよう…
と、思いながらも、
「針が刺さってるんですか?」
と、聞いてみると、
「フニャフニャのだよ」
と答えてくれた。
一見、俳優の細川茂樹さんに似た
クールな感じの先生だったので、
「フニャフニャ」と言われて、
ちょっと心が和んだ。
(あとで、看護師さんに聞いてみたら、
研修医のM先生でした。)
*・*・*
手術は午後から。
床を掃除してくれるおじさんと
「今日、手術なんですよ~」
なんて他愛もない話をして気を紛らわす。
15時過ぎ、
手術着に着替えて、部屋でスタンバイ。
16時近くに看護師さんが、
「もうすぐです!」と、伝えに来る。
それを聞いて、手術前に
トイレに行っておこうと思い、
部屋のトイレに入る。
すると、近づいてくる足音と共に、
私の名前を呼ぶA先生の声が聞こえた。
トイレのドアの向うから
「もうすぐだからねー」
と、元気よく声をかけられる。
私はトイレの中から控えめに
「ハイ」と返事をした。
*・*・*
再び、看護師さんに呼ばれ、
手術室まで一緒に歩いていく。
エレベーターで手術室のある4階へ行くと、
フロアー全体の空気がヒンヤリしている。
緊張感が漂う…。
手術室の自動ドアが開き、
看護師さんと一緒に中に入っていく。
少し進むと、緑色の術衣を身にまとった
小柄な女性3人が
急にワーッと私に寄ってきた。
3人が順番に、サササッと名乗り、
パパパッと私の術衣、リストバンドなどを
確認する。
とても手際がよい。
*・*・*
手術室に案内され、中に入ると、
部屋はかなり広く、ガラーンとしていた。
“これが手術室かぁ~ ”
ドラマでしか見たことがない場所だ。
何かBGMが流れている。
A先生が現れ、
「CHEMISTRY」と言っていた。
部屋の中央には細い手術台があった。
意外と狭い。
手術台に上がって仰向けになる。
看護師さんたちが私をのぞき込む。
なんだかこれから調理される感じ。
仰向けになった目の前には
テレビでよく見る手術室の輪になったライトが
私を見下ろしている。
思わず、「こわ~い」と言ったら、
同時にA先生がチラッと私の顔を覗き込んだ。
看護師さんが、
「先生がのぞき込むと怖いよねー」
と言った。
“あ、私が「怖い」と言ったのは
私を見下ろしているライトのことで、
A先生のことじゃないんだけど…。“
そう思いながらA先生を目で追ったら、
部屋の隅へ行って屈伸運動を始めた。
そして、手術台の上で私は
指示されるがままに
横向きになり、背中を猫のように丸めて
痛み止めの注射をされる。
口に酸素マスクがつけられる。
「目をつぶって大きく深呼吸してー」
と言われ、
1~2回深呼吸…
(すると、意識がなくなる)
*・*・*
次の瞬間、
「…終わりましたよ~!」
と、看護師さんの声で意識が戻る。
えっ?
さっき目をつぶったのに?!
もう手術が終わったの?!
一瞬にして時を越えた
不思議な感じ。
手術時間は約1時間。
予定では2時間半だったが、
癒着がなかったので早く終わったようだ。
のどに管が入っていたらしく、
のどが痛くて、
なかなかしゃべることができない。
急に起こされて
目もすぐに開かない。
ベッドごと動いている。
いつの間にか手術台から
病棟用のベッドに移されている。
「○○さん、終わりましたよ!」
と、右の方から聞き覚えのある
A先生の声。
私は目を開けられず、
声の聞こえる方へ向かって
「(腫瘍)大きかったですか?」
と思わず聞いた。
「大きかった。6kgあったよ!」
と、A先生。
そして、いつの間にか
病室に戻っている。
意識はあるが、酸素マスクをし、
喉が痛いのでよくしゃべれない。
脚にはマッサージ機がついていて
身動きできない。
なんとも言えない嫌な感じ…。
今が何時なのか分からない。
もう消灯時間なのか…。
頭が熱いので
アイスノンをして
ぐったりとしている。
さっき目を覚ましたばかりなのに
再び眠りにつく…。