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限定本 谷崎潤一郎『潤一郎自筆本蘆刈』


洋書が、残り少なくなったのでしばらく日本の限定本の記事が続いています。

私が、挿絵の入った限定本や初版本を集めるきっかけは、洋書でも和書でも同じなのですが、たいていが文庫や全集本などに紹介されている挿絵を見て、是非ともその原典をみてみたいという衝動からです。普通は図書館へ行けば良いのでしょうが、私の場合は物欲からどうしても購入をしてしまう、ということになります。
本書と、昨日記事にした『吉野葛』を蒐集したのも、実は岩波文庫から刊行されている『吉野葛・蘆刈』による影響が大きいです。この文庫には、潤一郎六部集『吉野葛』から貴重な写真が全数ではないものの収められており、ほぼ原本の雰囲気が伝わるような編集がされています。作品にも写真にも感動しましたが、しかしながら…、それだけでは満足できないのが、我ながら情けなく、実物を古書店で探すことにしました。そう思うと不思議なもので、探すまでもなくある古書店から「谷崎潤一郎特集」のカタログが届き…という按配。

本書は、昭和八年に創元社から刊行された、限定五百部版『潤一郎自筆本蘆刈』です。この本に附せられた「お願ひ」という文章は、谷崎潤一郎の本へのこだわりが良くわかって興味深いので、書影に含めて掲載をいたしました。この文章によると、谷崎は自ら和紙の好みを伝え、何度も印刷所に訪れて印刷具合を監督していたことがわかります。また、題箋の極薄の吉野紙を表紙の古代モミ紙に貼り付けるという技術は、表具師の「秘術」などと書かれており現在の製本では考えられない手間がかかっていることもわかります。表紙といえば、昨日掲載した『吉野葛』の表紙には谷崎潤一郎自ら、吉野で集めてきた葛の葉が用いられている、ということです。このような谷崎潤一郎ご自身の関与を含めた手作り本の醍醐味というものは、やはり文庫では伝わらないものでしょう。

5枚目の写真は、達筆なのと仮名遣いが違うために読みにくいですが、『蘆刈』の冒頭です。
「まだおかもとに住んでいたじぶんのあるとしの九月のことであった。あまり天気のいい日だったので、…」