僕らの街には、
ヒーローがいる。
ヒーローといっても、
本当の正義のヒーローなのだ。
野球のヒーローとかそんなんじゃない。
僕も何度か見たことがあるが、
彼は、
非常に個性的なファッションで、
ちょっと弱そうな感じで、
だけど、
ひったくりを見事に、
捕まえて見せたのだった。
緑色のくたくたのパンツに、
グレーのシャツ、
ドレッドとはいえないもじゃもじゃの髪に、
オペラ座の怪人みたいなマスク、
金田一よろしくマントを羽織っていた。
結構、細身である。
正体は不明。
でも、
よく警察署長から表彰もされているし、
新聞にもよく載っている、
有名人だ。
ヒーローはいつも弱いものの味方だ。
(本人のほうが病弱そうだということは、
みんな黙っている。)
さて、
昨日朝、
僕はとんでもないことをしでかしてしまった。
とてもたくさんの人に迷惑をかけてしまった。
何百人という罪も無い人に、
迷惑をかけてしまった。
こんなときは、
ヒーローの出番だったはずなのだが、
そのときは、
ヒーローは忙しかったのか、
来てはくれなかった。
他力本願で申し訳ないのだけど、
彼が来てくれたら、
こんなことにはならなかったのではないかと、
考えてしまう。
自分にはもうどう償っていいのか、
わからないまま、
途方にくれている。
ヒーローが来てくれたら、
『退治』されるのは僕だったのだろうけど、
それでも、
みんなに迷惑をかけてしまった後悔より、
彼に『えいっ』とやられてしまうほうが、
よかったような気がする。
そんなことを考えながら、
公園のベンチでぼんやりしている。
遊んでいる子どもたちも、
まるで僕がここにいないかのように、
完全に無視して、
きゃあきゃあはしゃいでいる。
僕は、悪者なんだよ?
気をつけなきゃだめだよ。
自嘲気味につぶやいていると、
隣に人が座ってきた。
(ヒーローだ!)
ああ、高鳴る鼓動が抑えられない・・・・
『・・あの・・・ヒーローさん、ですよね?』
僕の問いかけに、
ヒーローはカンペキ無視をした。
ただ、
自分のケータイをプチプチいじっている。
(うわ、感じ悪っ!)
そこに、
彼のケータイが鳴った。
着メロはクイーンだった。
彼は、
猛ダッシュで行ってしまった。
ああ、
きっと、事件なんだ・・・・
なんだかがっかりした気分で、
ベンチに置き去りにされている新聞を見ると、
僕の起こした事件が載っていた。
『〇〇線列車飛び込み、300人の足に影響。』
