12月のオランダ旅行記は時間切れでオペラ観賞について書けなかったので、今回のパリはまずそれから始めます。

 

 

 

ベルリオーズのトロイヤ人(邦題はまちまち)は5幕のグランドオペラ。木馬で有名なトロイ戦争から逃れたトロイの勇将エネアスが、立ち寄ったカルタゴで女王ディドと恋に落ちるが、ローマ建国という使命を背負ったエネアスがカルタゴを去るとディドは絶望して自害ガックリドクロ、というスケールの大きな古代のロマンです。

 

オペラとしても素晴らしいのですが、ロンドンでは2000年にバービカンでコンサート形式(たしかこの時は2部に分かれてた)、2012年にROHでフルにやってくれただけ。 巨大な木馬(メタルですが)も作ってすごくお金が掛かったに違いないマクヴィッカー演出の豪華プロダクション(→こちら)はあれから一体どうなったのかしら? 

 

2月12日にパリのバスティーユで久し振りに観たのは、翌日フォークト様が出るルサルカのついでだったわけですが、このついでがなかったら王子様の出番は少ないルサルカだけで果たしてパリまで行ったかどうかあやしいので、今回パリに行けたのはトロイヤ人のおかげだったとも言えるかも。 キャンセルされちゃったけどガランチャが出る予定だったしね(→こちら)。

 

Music :Hector Berlioz

Libretto :Hector Berlioz - D’après L’Énéide de Virgile

Conductor :Philippe Jordan

Director :Dmitri Tcherniakov

Set design :Dmitri Tcherniakov

Costume design :Elena Zaytseva

Lighting design :Gleb Filshtinsky

Video :Tieni Burkhalter

 

1La Prise de Troie (トロイの陥落)

2Les Troyens à Carthage (カルタゴのトロイ人)

 

家プロダクション

本来は正味4時間半のところを勝手に2時間35分に短縮しちゃった今回のパリ版、ブーイングの理由はカットの仕方が良くなかったと思った人がいたのも一因らしいのですが、座り心地の良くない簡易椅子の席だったので(それでも190ユーロもした)、短くしてもらってありがたかったです。私にはどこか抜けてたかわからないですが、一部の「トロイの陥落」が1時間半、2部の「カルタゴのトロイ人」が1時間20分と45分だったので、きっと前半を中心に削ったんでしょうね。

 

ROHのは時代読替はしててもマクヴィッカーだから美しくてまともな設定だったけど、パリの新プロダクションはきっとヘンテコなんだろうなあと覚悟してました。なので、初日にすごいブーイングだったと聞いて、一体どれだけメチャクチャなのか楽しみでした。

そしたら、一部はそれほど風変わりでもなく、メラメラ火だるまになった人がゆっくり舞台を横切っていったのには度肝抜かれましたが叫び、ブーイングは出ず。

二部のセットは幕がないので始まる前から観客が写真撮ってました。設定通りの古典的なプロダクションを期待してた人は(そんなのパリであるわけないけど)、古代カルタゴの代わりに現代の戦傷者の病院或いはリハビリセンターに読み替えられてポップな色調でやたら明るく、ヨガやりながら歌ったりするのでそりゃ面食らうでしょう。歌の合間やインターバルにブーイングが出ましたブー。特に前半の終わりはたくさんの人からブーイング。歌は皆さん上手なのでプロダクションに対するブーイングに違いないのですが、それが段々減って、甘美で切ない主役二人の二重唱で皆さんとろけたんでしょうラブ、最後は賞賛だけになりました拍手。それだけで面白い展開でしたが、この日は千秋楽で、幕が降りた途端に舞台で出演者が大歓声を上げて喜んでたのが聞えてきて客席も更に盛り上がりました。

私は演出家のエゴで音楽をないがしろにするのは大嫌いですが、不思議なことに、このプロダクションはスケールの大きい甘美なベルリオーズの良さを損ねるとは全く感じなかったし、いつも人がたくさんいてアクション満載なので退屈しなかったし、ダイドーとエネアスの悲恋物語の邪魔にもなりませんでした。結構好きかも、このプロダクションハート

 

 

 

音譜パフォーマンス

ガランチャは抜けたものの、脇役にジャンス、ドゥゴー、デュボワが出てくる贅沢なキャスト。

前半は悲劇の王女カッサンドラの一人舞台なのですが、 ROHのアントナッチの鬼気迫る熱演に比べるとステファニー嬢は声は軽いし個性も強くないのでちょっと物足りなかったかな。

 

 

 

初日の3週間前に降板が発表されたガランチャの代役はエカテリーナ・セメンチュク。そりゃあ美人のガランチャだったらドラマとしてもっと盛り上がったでしょうが、見掛けは小太りのおばさんでも優しい美声にはうっとりで、当然、拍手も彼女が一番大きかったです。

 

エネ役は、べちゃっとつぶれた声が嫌いなブライアン・ハイメルだったので「ロンドンで聞き飽きてるのに嫌だなあむっ」、と思ってたらキャンセルしてくれたのはラッキー。 リハーサルの最初の方にはパリに来てたそうなので、デブだから立ち回りもある激しく動きが出来なくてクビになったのかもにひひ

代役のブランドン・ジョナノヴィッチは長身で精悍な風貌が戦士にはぴったりだし、二枚目役としての魅力も充分。しっかりした声と歌唱も立派で素敵なエネでしたラブラブ。 ディドとエネの切ない二重唱

楽しみにしてたのは、一昨年ガルニエのコジ・ファン・トゥッテで聴いてファンになったシリル・デュボワ君。アリア一曲のみだけど、細くて甘い声でしっかり存在感ありました。もっと聴きたかったチュー

 

 

 

というわけで、皮肉なことに、特に後半の代役二人のおかげでとても楽しめたし、一年前に続き、コーラスで出演なさってる伊藤真矢子さんとオペラの前に短い時間でしたがお話することが出来てたのも嬉しかったです。