睡眠があらゆる面で体に良いことは今や一般常識かと思いますが、調べていく内に、がん予防・再発予防にも重要であることが分かりました。
メラトニンの制がん作用
寝ている間に体内で分泌されるメラトニンには制がん作用があることが、これまで数々の論文で発表されています。元々は乳がんにまつわる研究から始まりましたが、近年は卵巣がん、すい臓がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、白血病など、様々ながんに対する有効作用が注目されています。
メラトニンの効果は色んな場面で発揮されるようで、抗がん剤やホルモン剤に耐性を持ってしまったがん細胞に再び薬が効くように働きかける作用や、がんの脈管侵襲を妨げる作用、血管新生(がん細胞の増殖と転移に必要)を阻害する作用、がん細胞の周りの細胞への広がりを抑える作用などが報告されています。
メラトニンの分泌は体内時計とも深く関わっていることから、これらの効果は正常に機能している体内時計(circadian rhythm)も前提とされます。
また、2012年には細胞がアポトーシス・細胞死の一歩手前 (言わば臨死状態)でとどまり、周辺の環境が望ましいものに変化した際に細胞が蘇る過程アナスタシスが発見されましたが、メラトニンはがん細胞のアナスタシスを防ぐ(アポトーシスを続行させる)一方、健康な細胞のアナスタシスを促すことがいくつかの研究で発表されています。
誰であっても体内にがん細胞は少なからずあるとはよく言われますが、それでも殆どの人ががんの発症までに至らない理由には、正常な体の機能として、日中にその少数のがん細胞が活発になり、夜になるとメラトニンの作用によってそれらが除去される、という周期が大きく関係しているのではないかと言われています。
メラトニンは真っ暗じゃないと分泌されない
メラトニンは、光によってその分泌が抑制されてしまいます。ここまでは一般的にも知られているかと思いますが、驚いたのがその感度です。
2014年の研究(ネズミを用いたラット実験)では、睡眠時の環境にたったの 0.2 lux の光があるだけでもメラトニンの分泌が阻害されることが判明されました。0.2 lux の明るさは、月明かりに相当すると言われています。更に同実験ではヒトの乳がん細胞をネズミに埋め込んで観察した結果、かすかな光のある環境で寝ていたネズミたちの腫瘍は、メラトニンに妨害されることなくどんどん大きくなる上に、タモキシフェンへの耐性まで持ってしまったと報告されています(!!)。
最下部にリンクしますが、実際のネズミたちの写真も載っていて、光あり・なしの腫瘍の大きさの差が衝撃的です。←ネズミが苦手な方はもちろん、ネズミ好きな方も見ないほうがいいかもしれません…(かわいそうな面も含め)
世の中の近代化と共にがんの発症率が上昇傾向にある原因の一つは、日没後も明るい光に当たる環境が増え続けているからではないか、との説もあり、アメリカがん協会(American Cancer Society) の乳がん情報ガイドには、夜間を含むシフトワークが多い職業には発がん性があると記載されるほどです。これまでの調査では、夜間勤務が多い看護師や、時差ボケで体内時計が狂いやすい客室乗務員などの乳がん発症率が、一般に比べ2.5倍まで上がることが報告されており、そのリスクは特に閉経前、比較的若い頃からこれらの職についている、夜間勤務が週3日以上、夜間勤務時間が10時間以上、就業期間が10年以上、など、若齢・高頻度・長期間などの要因によって更に上昇することが発表されています。
また、乳がんでも有名な米ブリガムアンドウィメンズ病院 (Brigham and Women's Hospital) が盲目の女性の乳がん発症率を調べたところ、全く光を感知できない 場合の乳がん発症率が、かすかに光を感知できる場合と比べ、大幅に低いことが分かりました(11人 vs 55人)。更に興味深いことに、全く光を感知できない女性たちの方が初経が早かったことも報告され、これは通常では乳がんリスクが上がる要因なのにもかかわらず発症率が低いことから、やはりメラトニンと関係しているのではないかと推測されています。
現代のブルーライト問題
*最近のスマホやPCには色合いを赤くするナイトモードなどが搭載されてますが、これをONにしても、明るさが暗く調整されていないとあまり意味がないそうです。ちなみにナイトモードの効果自体も、「無いよりはマシ」という程度で、やはりメラトニンの抑制は見られるようです。
私が実践している対策法
メラトニンは、高齢になるほど分泌量が減少していきますが、私はまだ閉経前・30代なので、まだ自力でそこそこ作れる(はず)ということで、今はそのポテンシャルをできるだけ引き出すことに努力しています(笑)。
実践していることは:
*ある研究では乳がん患者の平均睡眠時間と再発率を調べたところ、一番低い再発率は睡眠時間6〜9時間の枠で、6時間以下・9時間以上は、いずれも再発率が比較的高いことが報告されました。寝過ぎもよくないのですね。
愛用しているグッズ(と言っても2つしかありませんが 笑)の紹介もしようかと思いましたが、長くなってしまうので次回の記事にします。
ちなみに、アメリカではメラトニンはサプリ(主に睡眠薬)として販売されていますが(日本からもiHerbなどで購入可能)、長期服用の安全性はまだ確認されておらず、がん治療との兼用についてもまだ臨床試験が極めて少ないことから、メラトニンをサプリとして服用する場合はやはり注意が必要です。(有効性を発表する論文もあれば、体内のエストロゲンを増やしてしまう可能性が懸念されるものもあり、やはり研究がまだ足りていないのが現状のようです。)
※薬との相互作用などもありますので、サプリと薬の兼用はどうぞ医師とのご相談の上で。
最後に:思い当たる節、大あり(笑)
私は18歳まで比較的田舎の地域に住んでいたので、夜はカーテンを閉めなくても真っ暗で、朝日の光で目が覚めることに慣れてました。その後は大学も含め、ずっと都会暮らしですが、出窓など一部カーテンを閉めない癖は変わらず、十年以上は「暗闇」で寝ることは殆どありませんでした。また、仕事で疲れてテレビや電気をつけっぱなしで寝落ちてしまうことも多々あり、もちろん現代人として、夜にPC・スマホ・テレビを見る習慣もついていて、これらの論文を読んだ時は、「そりゃがんになるわ」と自分でも思ってしまいました(笑)。
もちろん今はカーテンを閉めて寝ています(笑)。
出典
寝ている環境が「真っ暗 」vs「 かすかな明かりがある」を比較したラット実験 (2014年)(英語)。
メラトニンの制がん作用について詳しく書かれた論文 (2017年)(英語)。
メラトニンと薬の関係性 (「効果が増して体への負担が減る」)にまつわる研究を総括した論文 (2002年)(英語)。※殆どの研究は臨床試験ではなく、動物を対象とした in vivo 実験
メラトニンの制がん作用、がん治療との兼用、各種がんにまつわるこれまでの動物実験や臨床試験などが細かく総括された論文 (2018年)(英語)。
Mechanisms Underlying Tumor Suppressive Properties of Melatonin. Bondy et al. (2018).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6121612/
「アナスタシスとは」(英語)
アメリカがん協会の乳がん情報ガイド。乳がんのリスク要因、サブタイプ、治療法などについて詳しく書かれています。(英語)
Breast Cancer Facts & Figures 2019-2020, American Cancer Society.
看護師の夜間勤務と乳がんリスクを調べた研究発表 (2017年)(英語)。
Rotating Night-Shift Work and the Risk of Breast Cancer in the Nurses' Health Studies. Wegrzyn, et al. (2017).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5856106/
夜間勤務と乳がんの関係性を、5カ国のデータを総括して調べた研究結果 (2018年)(英語)。
盲目の女性の乳がんリスクと発症率を調べた際のプレスリリース (英語)
↑プレスリリース内のリンクが2つとも壊れているので...
完全に光を感知できない方が乳がん発症率が低い、と発表された研究結果 (2009年)(英語)。
Total visual blindness is protective against breast cancer. Flynn-Evans, et al. (2009).
完全に光を感知できない方が初経が早い、と発表された研究結果 (2009年)(英語)。
睡眠時間と乳がん再発率を30年間に渡って調べた結果 (2017年)(英語)。ちなみに、がん発症前から十分な睡眠を取れていた場合の方が、がんになってから睡眠時間を増やした場合より再発率が低いとのこと。
ブルーライトの悪影響について (英語)。
LEDが放つブルーライトによって人体のメラトニンが抑制される (2011年)(英語)。
Blue light from light-emitting diodes elicits a dose-dependent suppression of melatonin in humans. West, et al. (2011).
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.01413.2009?rss=1
「iPadのナイトシフトモードはメラトニンの抑制を防ぐか?」(英語)
Does the iPad Night Shift mode reduce melatonin suppression? Nagare, et al. (2019).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6561503/
米メモリアルスローンケタリングがんセンターのメラトニンに関するページ (英語)。
英国NHSのメラトニンに関するページ。イギリスでは55歳から不眠症治療として処方可能 (英語)。












