乳がんがホルモン受容体陽性で年齢が35歳未満の場合は、卵巣が機能している上に、閉経までの期間もまだ長いことから、35歳以上に比べて乳がんの再発率が比較的高いことが知られています。

 

2003年には若年性の乳がん治療に卵巣機能抑制を加えることにどれほどのメリットがあるのかを調べるべく、2つの大規模臨床試験 SOFT (Suppression of Ovarian Function Trial) と TEXT (Tamoxifen and Exemestane Trial) が開始されました。

 

当初、両試験の参加条件は:閉経前*、ホルモン受容体陽性**、リンパ節以外に転移なし、局所治療済み・残存病変なし。

*化学療法済みの場合はその後も卵巣が機能していることを確認

**10%以上

 

SOFT・TEXT のいずれも、まず参加者を「化学療法あり」「なし」の2つのグループに分け、そこから更に以下の治療法のサブグループに分かれました:

    

SOFT

  1. タモキシフェンのみ
  2. タモキシフェン+卵巣機能抑制*
  3. エキセメスタン**+卵巣機能抑制*
    *ホルモン剤(ゾラデックスなど)、卵巣摘出、卵巣に放射線を照射、のいずれか
    **アロマターゼ阻害薬

TEXT

  1. タモキシフェン+卵巣機能抑制*
  2. エキセメスタン+卵巣機能抑制*
    *
    ホルモン剤(ゾラデックスなど)

 

結果

SOFT・TEXT は2018年8年間の追跡結果が発表され、中でも主な結果は:
 

  • 閉経前で、ルミナルA (ホルモン受容体陽性・HER2陰性)、再発リスクが高い場合、エキセメスタン+卵巣機能抑制によって10%〜15%*の上乗せ効果が見られる
    *「タモキシフェンのみ」・「タモキシフェン+卵巣機能抑制」のいずれに比べ
     
  • ただし、再発リスクが低い場合、卵巣機能抑制の上乗せ効果は約1%
    SOFT・TEXTのいずれも、化学療法なしのグループは必然的に再発リスクも比較的低いため、SOFTの場合は「エキセメスタン+卵巣機能抑制」、「タモキシフェン+卵巣機能抑制」、「タモキシフェンのみ」の各治療グループの8年後の無遠隔転移率99.3%98.3%98%と殆ど変わらず、TEXTでも「エキセメスタン+卵巣機能抑制」と「タモキシフェン+卵巣機能抑制」の差は1%未満でした。唯一、TEXTでは化学療法なしでも比較的再発リスクが高い場合のみ、エキセメスタン+卵巣機能抑制による上乗せ効果が2.5%〜4%とのことです。
  •  

    更に35歳未満に注目した結果*も発表され、それによりますと:
    *これは5年後のデータしか解析されていないようで、8年後のものは見つかりませんでした
     

  • 35歳未満は35歳以上に比べてハイリスクの特徴が多い(腫瘍の大きさ、
    グレード、リンパ節転移数、Ki67値など)
    (ご参考までに、これらを比較した表
     
  • 上記の要因を取り除いても、やはり年齢だけでも予後予測因子となり、35歳未満の場合は再発・遠隔転移・二次がんなどのリスクは35歳以上に比べ約1.5倍
     
  • SOFT・TEXTいずれの「35歳未満・化学療法あり」の結果は:
     
      タモキシフェン タモキシフェン+
    卵巣機能抑制
    エキセメスタン+
    卵巣機能抑制
    SOFT
    5年後の
    無再発率
    67.1% 75.9% 83.2%
    TEXT
    5年後の
    無再発率
    -- 79.2% 81.6%

     

  • SOFT・TEXTで35歳未満・化学療法なしの人数は極めて少なく、更に卵巣機能抑制もなしとなると該当する参加者はたったの6名であったため、データ数も足りず、このように35歳未満で低リスクでも卵巣機能抑制を用いる価値があるか否かは、5年という短い期間では判断しかねる、とのことです。
    (ルミナルタイプの再発は約半数5年後以降に現れるそうです…)
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    結論

    これらを考慮した上で、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)の若年性乳がんガイドラインでは、化学療法の必要なしとみなされた低リスクの女性にはタモキシフェンのみのホルモン療法が未だ基準とされ、高リスクの場合はタモキシフェン、あるいはエキセメスタン*卵巣機能抑制を加えることによって予後が大きく改善されるとあります。
    *ちなみに閉経前の女性がアロマターゼ阻害薬を使用する際、卵巣機能抑制との兼用は必須だそうです。
     
    更に、韓国で行われた大規模臨床試験 ASTRRA (2019年発表)では、2年間の卵巣機能抑制でも恩恵を受けられるとの結果が注目されましたが、ESMOのガイドラインには、これは閉経前でも比較的高齢の女性に適しており、35歳未満の場合、卵巣機能抑制は従来の5年間が推薦されるとあります。
     
    また、卵巣機能抑制は毎月の通院*などの負担もあることから、やはりぞれぞれのがんの特徴やリスクを十分に見極めて、副作用**や本人の意思なども考慮した上で判断することが大事、とのことです。
    *通常ゾラデックスなどは4週に1回前腹部に皮下注射 (12週に1回という選択肢もありますが、35歳未満は可能な限り4週に一回が推薦されるとESMOのガイドラインにあります)
    **タモキシフェンの場合はホットフラッシュ、血栓、卵巣腫瘍など、アロマターゼ阻害薬の場合は骨折や骨粗しょう症などのリスクが上がります。
     
    そしてとても残念なことに、日本では閉経前の場合はタモキシフェンのみが保険適応となり、エキセメスタンなどのアロマターゼ阻害薬やゾラデックスなどの卵巣機能抑制は保険適応外となります。
    閉経後はアロマターゼ阻害薬も保険適応のそうですが、なぜその区切りがあるのか…従来、これらの研究が発表される以前はアロマターゼ阻害薬は閉経後のみの治療法でしたが、その名残でしょうか?早く追いついてほしいものです。
     

    SOFT・TEXTの限界

    2003年スタートのSOFTとTEXTは、その年月から生じるいくつかの欠点があり、
    例えば試験が開始された当初はまだハーセプチンの使用が標準化されていなかった
    ため、HER2陽性の参加者も含まれており、それらの参加者の生存率はハーセプチンの効果も影響しているため、主な解析からは除かれましたが、その分最終的な参加者数が減ってしまったため、統計的に検出力がいささか弱ってしまったとされています。

     

    また、現在では一般的となりつつあるオンコタイプなどの遺伝子検査も当時はまだ出回っておらず、遺伝的再発スコアとの関係性が把握できていない点も大きく懸念されています。
    先月行われた2021年のESMO乳がん学会では、遺伝的高リスクの場合はゴセレリン(ゾラデックス)から受ける恩恵が大きく、遺伝的低リスクの場合はタモキシフェンが効果的、とスウェーデンの研究チームが発表しています。

     

    ただ、たったの15年で (データが解析された2018年の時点で)これ程までにも状況が変わることから、がん治療が目まぐるしいスピードで発展していることが伺えますし、それによってデータの正確性は多少落ちてしまっても、最終的にはとてもありがたいことではないかと感じます。

     

    *おまけ* 試験上で自分に匹敵するリスクは?

    SOFT・TEXTの試験では独自の方法再発転移のリスクを定めていますが、
    しこりの大きさやグレードなどを入力してそのリスクを出力できるオンラインツールが公開されています。
     
    このツールは、自分と同じリスクの試験参加者の結果を見るためのもので、
    予測ツールではありませんので、その点ご注意ください。
     

    ツールの使い方は割と単純で、まず Characteristics の部分に自分に匹敵する特徴を
    入力します。(年齢、ホルモン受容体のパーセンテージ、リンパ節転移数、など)

    すると試験内のリスクスコア Composite risk が出力され、右側に各試験グループのデータに同リスクの配置が反映されます。

     

    グラフは合わせて8個あり、試験のグループが各段によって分かれています。
    上の段から順に:

    • 「TEXT 化学療法あり」
    • 「SOFT 化学療法あり」
    • 「TEXT 化学療法なし」
    • 「SOFT 化学療法なし」

    各グラフ、マウスをホバーさせると具体的な数値が確認できます。

     

    左側のグラフは、そのグループの参加者数をリスク別に表し:
    以下リスク0の場合。中央値全4グループのデータを合わせた中央値となります。
     

     

    右側は各治療グループ(卵巣機能抑制あり・なし、など)の参加者の8年後の無遠隔転移率がリスクスコア別に表示されています:
    リスクスコアのデータ点は、左側のグラフの各黒い横棒の中央値であり、この黒い横棒は、参加者をより細かく分けて分析したもので(STEPP解析というそうです)、↓の見方としては「この棒の範囲の参加者の内、無遠隔転移率は…」を意味します。
     

     

     


    出典
     

    SOFT と TEXT の試験構造 (英語)

     

    (2018年)

     

    (2017年)

     

    (2017年)

     

    国立がん研究センターによるアロマターゼ阻害薬の説明

     

    ページの中間部分、「ホルモン療法薬 その特徴と使われ方」→「1.閉経前の女性の場合」に閉経前のアロマターゼ阻害薬と卵巣機能抑制についての説明文あり

     

    35歳未満のSOFT・TEXT データ解析 (英語)
    Treatment Efficacy, Adherence, and Quality of Life Among Women Younger Than 35 Years in the International Breast Cancer Study Group TEXT and SOFT Adjuvant Endocrine Therapy Trials. Saha et al. (2017).

    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5597253/


    SOFT・TEXTの全体の上乗せ効果 (英語)
    Absolute Improvements in Freedom From Distant Recurrence to Tailor Adjuvant Endocrine Therapies for Premenopausal Women: Results From TEXT and SOFT. Pagani, et al. (2019).

    https://air.unimi.it/retrieve/handle/2434/729290/1456960/Pagani_soft_text.pdf

     

    若年女性における乳癌のためのESO-ESMO第4版国際コンセンサスガイドライン(BCY4) (英語)

    ESO-ESMO 4th International Consensus Guidelines for Breast Cancer in Young Women (BCY4). Paluch-Shimon, et al. (2020).

     

    SOFT・TEXT8年後の結果発表を解説した記事 (英語)

     

    SOFT・TEXT8年後の結果発表や長所・短所を解説した記事 (英語)

     

    ASTRRAの結果発表 (英語)
    Adding Ovarian Suppression to Tamoxifen for Premenopausal Breast Cancer: A Randomized Phase III Trial. Kim, et al. (2019).

    https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.19.00126?rfr_dat=cr_pub%3Dpubmed&url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori%3Arid%3Acrossref.org&journalCode=jco

     

    2021年ESMO乳がん学会で発表された遺伝的リスクとホルモン療法の関係性。(英語)

    Risk of distant recurrence of ER-positive breast cancer in premenopausal women according to 70-gene risk signature. Johansson, et al. (2021).

     

    SOFT・TEXTのオンラインツール (英語)