世の中にはがん予防の効果が謳われる食材など沢山ありますが、ものによっては健康な状態で食する場合とがん治療中とでは話が変わってきます。
化学療法中の場合、抗酸化作用が強いものは要注意
抗酸化作用には、言葉どおり体内にある活性酸素・フリーラジカルを消去する働きがあります。これは健康な場合はとても体に良いことで、がん予防に繋がるとも言われますが、既にがんになってしまった場合、抗がん剤にはフリーラジカルを発生させ、それによる酸化ストレスを用いてがん細胞を消滅させるものが多いため、化学療法中に抗酸化作用が強いものを体に含んでしまうと、むしろ薬の邪魔をしてしまい、効果が薄れてしまうと言われています。
一方、「抗がん剤から健康な細胞を守る」とも言われていますが、一緒にがん細胞も守ってしまう点が懸念されます。
一例としては、ポリフェノールを多く含むグレープシードエキスやパインバーク(松樹皮)エキスなどが挙げられます。
ハーブやスパイスもあなどれない
現代の薬に比べると弱いものの、人類の歴史上ほんの一昔前までは主にハーブが「薬」の役割を果たしていたほどですので(今でも漢方薬などがそうですが)、その効果もあなどれません。
タモキシフェンや抗がん剤と相互作用が確認されているものではセントジョンズワート、エキナセア、バレリアン、銀杏などが挙げられ、更にラベンダーやフラックスシード(アマニ)はエストロゲンと似た特徴を持つため、ホルモン療法の邪魔をしてしまう可能性があると言われています。
また、腸の働きを活発にするものも、薬の吸収率を結果的に下げてしまう可能性が懸念されます(十分に吸収できる前に排出されてしまうため)。
タモキシフェンと相性最悪:グレープフルーツ
グレープフルーツは様々な薬と相互作用があり、「The Grapefruit Juice Effect(グレープフルーツジュース効果)」と言われるほどです。タモキシフェンに限らず、抗がん剤(パクリタキセルなど)や抗凝固薬など、ありとあらゆる薬との相性が悪いことが知られています。
タモキシフェンは酵素によって代謝される
そもそもタモキシフェンの主な作用は、がん細胞にタモキシフェンをエストロゲンだと思わせ、受容体に結合させてアポトーシスに導くものですが、実際にがん細胞と結合する成分はタモキシフェンではなく、その活性代謝物であるエンドキシフェンとなります。
エンドキシフェンは、体内にある数種類の酵素がタモキシフェンと結合することによって作られますが、中でも主なものがCYP3A4とCYP2D6と呼ばれる酵素です。(ちなみにこの図によると、どちらも重要なようです。)
タモキシフェンに限らず多くの薬はこれらの酵素と関係しているそうです。
グレープフルーツはCYP3A4と結合してしまう
具体的にはグレープフルーツに含まれるフラノクマリン類と呼ばれる成分ですが、これがCYP3A4と結合してしまうため、タモキシフェンと結合できる酵素が減ってしまい、結果として薬の効果が弱まってしまうと言われています。
これは「◯◯分以内には飲まないように」というレベルではなく、一度グレープフルーツやグレープフルーツジュースを飲んでしまうと、体内のCYP3A4を持ち返すには何日もかかると言われており、治療中は一切口にしないことが推薦されています。
コップ一杯のグレープフルーツジュースだけでも効果絶大だそうです。
グレープフルーツと相互作用がある薬を服用中の場合は、似たような作用が確認されていることからザクロ、ブンタン*、クランベリー、ビターオレンジ**(ダイダイ)とそのジュースも避けた方が良いと言われています。一応レモンにも同じ作用があると言われてはいますが、時々食事に一切れ分のレモン汁を絞る程度なら大丈夫だそうです。フェンネルシード、セロリシード、クミン、ローズマリー、オレガノなども比較的フラノクマリン類が豊富ですが、現時点の研究ではお料理に使う程度ならそれほど心配はない(だろう)と言われています。
*柑橘類は、例えばブンタン✕オレンジ=グレープフルーツのように、交配種が多いので特に要注意です
**ビターオレンジは一般的にマーマレードの原材料に使われています
ちなみに、薬や食べ物によっては逆にこれらの酵素を増やしてしまう作用もあり、一見「それは良いことなのでは?」と思ってしまいますが、酵素が何倍にも増えることによって、薬が効果を発揮できる前に体内から排出されてしまったり、薬によっては吸収率が危険なほど上がってしまったりと(一度に数回分投与するように)、やはり酵素関連の相互作用は厄介なようです。この問題を回避すべく、現在はエンドキシフェンの治験薬(Z-Endoxifen)の開発が進んでおり、2017年に発表された臨床試験の結果は良好で、更に2020年にはタモキシフェンよりも効果的とまで発表されました。その内、次世代のホルモン療法に使われるのでしょうか?期待してしまいます。
その他の要注意食材
一部に過ぎませんが、他にもCYP3A4あるいはCYP2D6と関連する作用が確認されているものは:
※以下の成分を含んだサプリは問題外である一方、日常生活で摂取する量が安全か否かは賛否両論のものもあり(黒コショウなど)、それに関しては未だ不明のままです
*マーマレード、レモンパイ、オレンジピールチョコ、レモンカードなど
**主に柑橘類の皮に含まれますが、シークワーサーは果肉にも含まれるそうで、要注意です
***ベルガモットの皮と果肉はベルガモチンといフラノクマリンを多く含みます
****カレー粉の主な原材料の一つ
また、ルイボスティーやたんぽぽコーヒーなどはエストロゲンと似た作用があるため、ホルモン受容体陽性の乳がん患者は避けた方が良いと言われています。
緑茶は少々複雑で、それに関してはまた後日書こうと思います。
原則としてサプリは要注意
がん治療中でも、日常的に摂取する量であれば問題ない食べ物が殆どですが、過剰摂取やサプリなどはなるべく控える方が無難と言われています。特にサプリは、通常ではありえない成分量が含まれていることが多く、成分そのものも食材として摂取する場合とは違い、吸収の仕方も異なるので、要注意です。
ホルモン受容体陽性の場合は、食事で摂取する程度の大豆製品は問題ないとされていますが、大豆サプリは避けた方が良い(再発率が上がる)と言われていたり、2019年に発表された研究結果には、タモキシフェン服用中にクルクミンやピペリンのサプリを毎日飲んでいた参加者の2割〜4割は、体内のエンドキシフェンの数値が薬効基準値を下回っていたとあります。
化学療法とサプリ:新しい研究結果
2019年には、MDアンダーソン含む数々のがん専門病院が共同で行った6年間の追跡調査の結果が発表されました。この調査の対象はドキソルビシン、シクロフォスファミド、パクリタキセルのいずれかの抗がん剤治療を受けている高リスク・早期発見の乳がん患者で、サプリの服用による経過への影響を調べた結果:
がん治療とサプリについてはまだ賛否両論で*、薬同士の相性などはデータベース化されている一方、サプリや食材についてはまだ大きく研究不足なのが現状です。上記の論文には、サプリががん治療に及ぼす影響を決定づけるにはまだ研究が足りないとありますが、今回の結果は「がん治療とサプリの兼用は医師との相談の上、慎重に行う必要がある」という従来の注意事項を裏付けるとしています。
*例えばこの研究ではマルチビタミンとの相互作用は確認されませんでした
相互作用のデータベース
米メモリアルスローンケタリングがんセンターは、ハーブや食材と薬の相互作用に特に力を入れているようで、独自のデータベースを無料で一般公開しています*。ちなみにアプリまであります。注目すべき項目は:Do Not Take If、Contraindications、Adverse Reactions、Herb-Drug Interactions、Herb Lab Interactions、など。
*ハーブ名や食材名はページ下部から検索可能
こちらの欠点は、定期的に更新はされているようですが、やはり最新の情報はまだ追加されていなかったり、また、薬の名前で検索すると相互作用がない場合やページにその文字があるだけでもヒットしてしまうので、ちょっと手間がかかる…、などの点でしょうか。
他にも「一番信ぴょう性が高い」と言われるナチュラルメディシン・データベースもありますが、こちらは有料で1年の年会費が$182となります。
日本でもこのようなデータベースが必要、との呼びかけが何年か前からありますが、今のところまだ実現できていない様子です。現時点では上記のナチュラルメディシン・データベースを情報源としているこちらの辞典が一番近いものでしょうか。
最後に
いつになく長くなってしまいましたが、前述したとおり、がん治療とサプリ・食材の関係は多くがまだ十分に理解されておらず賛否両論で、その幅が広い分、やはり研究も遅い印象を受けます。また、「〇〇の場合のみ安全」など、ものによっては特定の条件が多いことも近年の研究発表で明らかになってきています。
そのため、数年前までは「がん治療中に〇〇を食べると生存率が上がる!」と発表されていたものでも、最新の研究で「実は逆だった」「◯◯の場合だけだった」となることも多々あるため、今回は悪影響が報告されているもの重視にしました。(これらがいずれ「実は大丈夫だった」となる可能性もありますが、そうなってもあまり害はないかと)
また、あまり神経質になりすぎるとストレスが発生して本末転倒となってしまいますので、自分が納得のいく範囲で良いのではないかと個人的には思います。
出典
『タモキシフェンのCYP阻害作用に関連する相互作用情報』(日本語)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdi/18/2/18_64/_pdf
『グレープフルーツ以外にも注意したい食材』大阪国際がんセンター
『グレープフルーツとの相互作用の注意記述がある・関連が懸念される薬剤』大阪国際がんセンター
薬と相互作用についての簡単な説明
『グレープフルーツと薬物の相互作用について』(2009年?)
化学療法中の乳がん患者の生存率にサプリが及ぼす影響 (英語)
Dietary Supplement Use During Chemotherapy and Survival Outcomes of Patients With Breast Cancer Enrolled in a Cooperative Group Clinical Trial (SWOG S0221). Ambrosone, et al. (2019).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7062457/
↑の研究結果の分かりやすい説明 (英語)
CYP2D6とタモキシフェンについて2021年現在までに把握されていること(英語)
Clinical CYP2D6 Genotyping to Personalize Adjuvant Tamoxifen Treatment in ER-Positive Breast Cancer Patients: Current Status of a Controversy. Mulder, et al. (2021).
https://www.mdpi.com/2072-6694/13/4/771/htm
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16137701/
エキナセアとCYP3A4の関係 (英語)
In vitro inhibition of CYP3A4 by the multiherbal commercial product Sambucus Force and its main constituents Echinacea purpurea and Sambucus nigra. Schroder-Aasen, et al. (2012).
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22319006/
クルクミンがタモキシフェンに及ぼす影響 (英語)
Impact of Curcumin (with or without Piperine) on the Pharmacokinetics of Tamoxifen. Hussaarts, et al. (2019).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6468355/
治験薬Z-エンドキシフェンの臨床試験結果(2017年)(英語)
First-in-Human Phase I Study of the Tamoxifen Metabolite Z-Endoxifen in Women With Endocrine-Refractory Metastatic Breast Cancer. Goetz, et al. (2017).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5648176/
耐性をもった腫瘍に治験薬Z-エンドキシフェンはタモキシフェンより効果的 (英語)
Antitumor activity of Z-endoxifen in aromatase inhibitor-sensitive and aromatase inhibitor-resistant estrogen receptor-positive breast cancer. Jayamaran, et al. (2020).
https://link.springer.com/content/pdf/10.1186/s13058-020-01286-7.pdf
ローズマリー、オレガノ、バジルなどの酵素への影響(フラノクマリン類合量)(英語)
Antimicrobial and P450 Inhibitory Properties of Common FunctionalFoods. Nguyen, et al. (2014).
https://journals.library.ualberta.ca/jpps/index.php/JPPS/article/download/21868/16524
スターフルーツによってCYP3A4がほぼ完全に抑制 (英語)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15155547
ニガウリ (Momordica charantia) と酵素の関係 (英語)
タンジェリンの果肉や柑橘類の皮に含まれる成分タンジェレチンとタモキシフェンの関係(英語)
タモキシフェンと酵素(特にCYP2D6)の相互作用の重要性について(英語)
The Underrated Risks of Tamoxifen Drug Interactions. Hansten (2018).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6133076/
タモキシフェン服用にあたっての注意事項 (英語)
Precautions for Patients Taking Tamoxifen. Heery, et al. (2018).
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6296418/
『乳がん患者の殆どはサプリを飲みながらホルモン療法との相互作用に気付いていない』(英語)
複数のがんセンターが2013年に共同で発表したサプリと薬のガイドライン(少し古いのでご参考までに)
Integrating Dietary Supplements Into Cancer Care. Frenkel, et al. (2013).
米メモリアルスローンケタリングがんセンターの相互作用データベース(英語)
同がんセンターの乳がん患者への食生活ガイド(英語)
ナチュラルメディシン・データベース (有料:年会費 $182から)(英語)
↑の和訳本(最新版は2019年?)¥9800
同出版社が編集した、相互作用に注目した本(2021年発売)¥4730



