私はお腹のお肉を移植する乳房再建をするにあたって、とにかくサプライズは嫌だったので、心の準備のためにも事前に色々調べました。個人差や、医師によって異なる部分もあるかと思いますが、その時集めた情報と私自身の経験も兼ねて、以下まとめてみました。

 

そもそも DIEP Flap(深下腹壁動脈穿通枝皮弁)とは
簡潔に言うと、お腹の脂肪と血管を切り取って、切り取った部分の血管を胸の奥にある血管と繋げて、切り取ったお腹の脂肪で胸を詰める、というものです。切り取った脂肪の縦幅が、再建される胸の横幅になります。お腹の血管は腹筋の裏にあるので、取り出すために筋肉に切り込みが入りますが、従来の TRAM Flap のように筋肉が切り取られることはありません。胸の血管も軟骨の裏にあるので、そこも少し削られます。軟骨は乳頭再建の際に再利用されるので、傷口付近に埋め込まれて「保管」されます(場所は医師によるようで、私はお腹の傷の横でした)。傷口を閉じる際は、セーターを下ろすように上の皮膚を下に引っ張って縫い合わされます。その際、おヘソのために新しく穴が作られ、元々のおヘソ(皮膚から回りを切り取って、裏はまだ繋がった状態)が新しい穴にくっつけられます*
*具体的にどうなってるのか気になったので、症例写真付きの論文なども探しました。最下部にリンクを載せておきます。実際の手術写真ありなので、苦手な方は見ない方が良いかもしれません…

 

見た目の変化

  1. 胸の形は、本人の視点から見ると歪んでいたりする
    私の場合、正面から見るときれいな胸の形をしていても、本人の視点から見ると、きれいなドーム型の曲線ではなく、ところどころ尖っていたり、歪んでいたりします。術後直後は特に目立ちますが、回復につれて、全体の形はそんなに大きく変わりませんが、曲線はなだらかになってきます。
    ※私はまだ再建後の修正はしていないので、それで更に改善できる可能性ありです
     
  2. 腹部がめちゃくちゃ腫れる・突っ張る
    胸からおヘソにかけて(要は、傷口を閉じるために引っ張った皮膚)、「これは形容範囲内⁉」と心配になるほど突っ張ります。触ると硬く感じ、「全く余裕がない」という感触で、私の場合は少しでもお腹を引っ込めるようになったのは、術後6週間を過ぎた頃でした。
    ※便秘すると輪をかけて酷くなります
     
  3. 胸が硬く感じる
    私は術後1〜2週間ほどから段々胸が硬くなり、術後3ヶ月ほどになるとまた柔らかくなっていきました。
     
  4. 再建した胸からは産毛が生える
    冷静に考えると、お腹にも産毛は生えているので当たり前なのですが、意外と言われるまで気づかない点です。
     
  5. 気をつけないと再建した胸からアンダーヘアが生えることも⁉
    掲示板サイトを観覧しているとたまに見かけますが、医師がそこにアンダーヘアの毛穴があることに気づかず、毛穴ごと移植してしまう、ということです。(それが嫌で私はあえてトリミングだけで、事前に脱毛処理や剃ったりはしませんでした。)
    特に欧米では、手術の前に必ず切り込む部分の毛を感染防止のために剃るので、こういうことが起きてもおかしくないのですが、私は目が覚めてから確認しても、どこも剃られておらず、産毛が生えたまま移植されていて、それはそれで衝撃でした(笑)。
     
  6. アンダーヘアの生え際が上に上がる
    切り口を縫うと、その周辺の皮膚が傷口に寄って引っ張られるので、アンダーヘアの生え際も一緒に上に上がります。その度合には個人差があると思いますが、私は思った以上でした(汗)…(ユニクロのヒップハンガーでギリギリです)
     
  7. お腹の傷も意外と位置が高い
    同じくユニクロのヒップハンガーを履いていると、私の場合は傷が完全に露出状態です。ヒップハンガーの3〜4cmは上でしょうか。欧米では「ビキニを着れるように」と考慮して、傷が隠れるよう、なるべく低い位置を心がける医師も多いと聞きますが*、日本ではあまりお腹を出す文化がないからか、思いの外高い位置でした。
    *ゆえにアンダーヘア事件なども起きるのでしょうが(笑)
     
  8. ウエストラインが変わる(可能性がある)
    胸の大きさや必要な脂肪量にもよりますが、量が多い場合、傷口がぐるんとウエストを回るほど長い傷になり、その傷の両端が、曲線を縫い合わせることで「ポコン」と少し出っ張ります(ある程度は医師の腕にもよるのかもしれません)。この「ポコン」が、正面から見るとちょうどウエストラインと重なってしまい、きれいな曲線ではなくなってしまいます。
    ※どうしても気になるようなら、外来手術(脂肪吸引など)で修正可能だそうです
     
  9. 新しいおヘソの位置が若干オフセンターだったり…の可能性あり(笑)
    全体で見るとそんなに大したことはありませんが、私は上から見ると、おヘソが若干、ほんの数ミリですが、中心からズレてます(笑)。これも気にしなければ問題ないのですが、たまにふと気づいた時は、なんともムズムズすると言いますか、中心に動かしたいのに動かせないもどかしさでいっぱいになります(笑)。

 

体や日々の変化

  1. くしゃみが、あり得ないくらい痛い
    術後6週間ほどは、くしゃみをしたり、ったり、をしたりするとお腹が痛みます。(術後2週間ほどは、裂けるような激痛です。)私は術後3ヶ月たっても、くしゃみと大笑いの際はまだちょっと痛みを感じるほどでした。
    看護師さんに教えて頂いたくしゃみを止める方法:鼻の下を強くつまんで下に引っ張る
    (間に合あわない時もあります。泣)

     
  2. 術後しばらくは真っ直ぐ立てない
    お腹のお肉を結構取られるので、真っ直ぐ立つには皮膚が足りず、術後数週間は前かがみになります。欧米では術後4週目から真っ直ぐ立ってよいとされていますが、私はそれ以前から「もう、いいですよ」と言われていたものの、体が追いつかず、やはり最低でも術後一月はかかりました。
     
  3. 術後しばらくは仰向け意外で寝られない(寝返りも打てない)
    ↑と同じ原理で、寝る時も平らにはなれません。また、腹圧がかかるので横向きに寝ることもできません。欧米ではいずれも術後4週目から試みてよしとされています。私は術後2ヶ月を切って、ようやく平らで仰向けになっても不快感を感じなくなりました。それまでは、ベッドの頭の部分にソファの座面クッション(+枕やクッション)を立てかけて、膝の下にはソファの背もたれクッションを置き、横から見てV字型になるように寝ていました。(回復するにつれ、だんだん枕だけでも十分になっていき…という流れです。)
     
  4. 腹筋を使えないので横になる時・起き上がる時も一苦労
    私は寝る時は一旦ベッドに立ち上がって、そこからしゃがんで腕で支えながら徐々に後ろに倒れていく、という方法が一番楽でした。起きる際は、まずベッドの端まで、腕で体を持ち上げながら移動し(引きずると傷口を引っ張ってしまうので痛いです)、ほぼ転がり落ちるように起きてました(笑)。
    「横向きになってから反対の腕で押し上げるように」という方法も見かけましたが、私の場合はこれも意外と腹筋を使うので、痛くてできませんでした。
     
  5. 真っ直ぐ立てないので腰痛が半端じゃない
    個人差があると思いますが、真っ直ぐ立てない上に腹筋にも力を入れられないので、腰痛がものすごかったです。洗顔など、中腰にならければいけない作業は椅子がないと無理でした。術後2週間ほどは、歩くのも何かにつかまりながらでないと立っていられないほどでした。
    ちなみに、私は普段は腰痛持ちではありません。
     
  6. 術後3ヶ月ほどはヘルニアのリスクが上がる
    お腹を切っているので腹壁が弱っており、その分ヘルニアになりやすく、術後3ヶ月まではシャワー意外の時は常にサポートベルトをつけている必要があります。腹圧をかけないようにと支持されますが、普段意識していないだけで結構お腹は動いており、意外と難しかったです。
     
  7. ↑のため重いものを持ったり、押したり、引っ張ったりもしてはいけない
    重いものを持つと腹圧がかかるので、2キロ以上のものは持たない方がいいそうです*。欧米では術後6週間目から、4キロ程のものを持ち上げること・引くこと・押すことが許されます。
    *退院時に、買い物など日常生活の範囲の物は持ってOKと言われましたが、私はとりあえずこの欧米のアドバイスに従って過ごしました(「日常生活の範囲」も人によって違いますし…)
     
  8. 術後はカフェイン摂取を控えた方が良い
    血管を繋ぎ直しているので、特に術後直後の1週間ほどはカフェインを摂取しない方が良いそうです(お茶やコーヒー、チョコレートなども)。私は退院した時にOKをもらいましたが、念のため2ヶ月ほどは全てノンカフェインで過ごしました。
     
  9. しばらくは入浴禁止でシャワーのみ
    お風呂好きの日本では入浴の許可が出るのが術後3週間ほどと割と早いですが*、私はやはり、水に浸かると感染しやすいのではないかと心配だったので、こちらも欧米のアドバイスに従って最低6週間は待ちました。(実際はシャワー生活に慣れてしまってお風呂に入れることを忘れてしまい、気がついた頃には既に術後3ヶ月経っていました 笑)
    *私は40度以上の熱めのお風呂が好きなのですが、「温泉は患部が落ち着いてから」とのことで、恐らく「入浴=38度ほど」を想定した上での許可かと思われます
     
  10. シャワーも傷に当てないよう一苦労
    術後1〜2周間は、シャワーだけでも腕が上がらないことやお腹の突っ張りなどもあり、めちゃくちゃ時間がかかりました。また、直接シャワーを傷に当てないようにとの支持もあり(ドレーンの傷口も含め)、お腹で再建をしていると当てていい範囲が非常に狭く、私は首や鎖骨にシャワーを当てて泡を流していました。
     
  11. 胸を圧迫してはいけない*
    なんせ麻痺しているので、ちゃんと意識しないと気づかないこともあります。机やソファに寄っかかる時など要注意です。車に乗る際も、シートベルトの下にクッションを置くなど、対策が必要です。(私は手で少し浮かせてました。あまりシートベルトの意味がなくなってしまいますが。笑)
    *圧迫してしまうと壊死の原因になります。
     
  12. 腹部の麻痺もあり
    あまり話題に上がりませんが、胸や肋骨・脇などに加え、お腹もある程度感覚が鈍ります。(術後は痛みや突っ張りなどで、それどころではなかったりしますが。)
     
  13. 鼻血が出やすくなる(?)
    私だけかもしれませんが、術後一月ほどは、血糖値や血圧が上がるようなものを食べると、鼻血が出やすくなりました(甘い物やバターを含んだものなど)。ただ、何もしなくても急に出ることもあり、恐らくですがロキソニンの長期服用に伴う副作用だったのではないかと思います*(この時期は一日3錠飲んでいて、ちょうど重なります)。ロキソニンを止めたら鼻血も出なくなりました。
    *ロキソニンの他、アスピリンやイブプロフェンも含まれるNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)は出血しやすくなる傾向があるので、欧米では術後の服用は控えた方が良いとされており、術後の痛み止めにはアセトアミノフェンの方が推薦されています。ただ、長期服用となるとアセトアミノフェンの方が肝臓へのダメージ大きいので、その点だけ要注意です。私は鼻血が酷くなるとロキソニンを一時止めてアセトアミノフェン(タイレノール)に切り替えてました。
     
  14. 腕が上がるように、一日3回のリハビリ運動は大事
    「いつまでにどこまで上がるように」との決まりはないそうですが、術後一ヶ月ほどが大事な時期*で、その後の経過が影響されるそうです。「"痛い"のちょっと先」を目指すのがコツとのことで、私はヨガのように深呼吸を意識しながら、10〜20秒ほど各体制をキープしてストレッチしました。術後2ヶ月頃には可動域も以前の範囲に戻っていて、看護師さんには「突っ張りを感じなくなったらもう止めていいです」と言われていたので、やらなくなっていたのですが、気づけばまた少し突っ張りを感じるようになり、念のためしばらくは続けた方がいいようです。
    *逆にこの期間は、頑張りすぎると胸の血管が狭まってしまい壊死してしまう恐れもあるので、適度の範囲で、という点も大事だそうです。

 

 


出典
 

おヘソの再建手法の比較(楕円形の切れ込み vs U型の切れ込み)。アンケート調査の結果、丸型の切れ込みで再建されたおヘソの方が高評価だったそうです。「View All 6 Figures & Tables」から比較写真も見られます。ちなみに、実際どの手法で再建されるかは医師によるそうで、私は楕円形でした。

 

こちらも上記のU型の手法の紹介ですが、おヘソをくっつけ直す際の図がより詳しく書かれています。


ジョンズ・ホプキンス大学の患者向けハンドブック(33〜34ページに、術後9週間分の「いつから何をしていいか」の表があります。「X」=OK)

https://www.hopkinsmedicine.org/breast_center/treatments_services/reconstructive_breast_surgery/final%20supplementary%20file.pdf

Brigham and Women's病院の資料。記載されているエクササイズを病院からもらったものに追加しました。

https://www.brighamandwomens.org/assets/BWH/surgery/surgical-oncology/pdfs/activity-after-diep-with-exercises.pdf

 

静岡がんセンターの冊子。特にヘルニア予防に関して参考になりました。

https://www.scchr.jp/cms/wp-content/uploads/2018/03/cb59ba4840259be34cdb87ece540e996.pdf

 

タイレノール(アセトアミノフェン)。何故かなかなか薬局では見かけません。

 

バファリンルナJ。一錠の含量はタイレノールの約3分の1ですが、こちらもアセトアミノフェンで、薬局でもよく見かけます。