乳房再建には、大きく分けると一般的にインプラントと自家組織再建の
2種類があります。これらのメリット・デメリットについては、また後日
詳しく書こうと思います。
その前に、私が心構えのためにも「事前に調べておいてよかった」と思ったことは:
- 全摘手術後は、再建をしてもしなくても、胸の感覚はなくなる
- 再建するかしないかは、できれば全摘手術までに決めたほうが良い
- 一般的に乳房再建は最低でも半年はかかる(乳頭再建希望の場合はもっと)
- 傷が完全に癒えるまで2年はかかる
- 乳頭・乳輪の温存は気をつけないと再発リスクも伴う
① 胸の感覚がなくなる
まず、意外と誰も教えてくれないのが、胸の感覚がなくなることです。
乳房を取り除く際に神経も持っていかれてしまうので、そのあと再建手術をしても、感覚はありません。いずれ感覚が少し戻ってくる患者さんも中にはいますが
少数派と言われ、殆どは戻らないとされています。また、神経の成長は非常に
ゆっくりなので、感覚が戻る場合も主に年単位・数十年単位で、戻る範囲も
端の方だけなど、胸全体の元々あった感覚とは異なります。
再建手術をする場合も、期待は現実的なものに留めることが大事とされ、個人的に
一番しっくりきた説明が「人工乳房が体にくっついてると思って」です(笑)。
現在はもう自家組織再建済みですが、あながち間違ってはいません(笑)。
よく、豊胸手術と似たものだと勘違いされるようですが(私も始めは前向きに
そう捉えるようにしてました)、残念ながら現実はもう少し厳しいものでした。
また、近年アメリカでは、Resensation や Advance Nerve Graft など
自家組織再建の際に神経も繋ぎなおす技術(breast neurotization) が少しずつ
用いられるようになりましたが、いずれにしてもまだ駆け出しでとても新しく、
実際の効果もまだ検証中、加えて、より高度な技術を必要とするため、
アメリカでもこの手術を行える医師はまだ一握りとされています。残念ながら、
日本でこのような技術が導入されるのはまだ遙か遠くの話のようです…
ちなみに、今になってようやく神経も温存する技術が注目されているのは、従来
再建手術を行う医師は主に男性で、乳房再建の基準も男性の視点からしか考えられていなかったから
(すなわち見た目重視)、という説もあるようです。そのため、女性自身の胸の感覚を失う悲しみに
気づくことや注目することが遅れてしまった、とのことです。
② 再建の決断のタイミング
よく、「再建手術をするかしないかは後からでも決められる」と言われますし、
確かに間違ってはいませんが、全適時に「今はやらない」となった場合は
膨らみの部分の皮膚を極力平らになるように取り除かれてしまいます。そうなると、
後から再建手術を試みても(いわゆる二次再建)、その部分の皮膚をまず胸の形に
伸ばさなくてはならず、元々の胸の大きさにもよりますが、やはり皮膚の感触
(突っ張りなど)や出来栄えは、同時再建よりは劣ると言われます。また、二次再建
の場合は、胸の大きさや皮膚の状態によって、自家組織再建しか選択肢がないこともあります。
伸ばさなくてはならず、元々の胸の大きさにもよりますが、やはり皮膚の感触
(突っ張りなど)や出来栄えは、同時再建よりは劣ると言われます。また、二次再建
の場合は、胸の大きさや皮膚の状態によって、自家組織再建しか選択肢がないこともあります。
逆に、同時再建の場合、どの再建術にするかは、インプラントでも自家組織再建
でも、一般的にまずはティッシュエキスパンダーという風船のようなものが数ヶ月間
は入るので、その決断は全摘手術の日にまだ迷いがあっても考える時間は
設けられます。
こちらは英語となりますが、UCLAのこのビデオには各種再建術の細かい説明と
その術後の症例写真があります。(←日本ではなかなか症例写真が見つかりません。
実際に形成外科で尋ねても、見せて頂けるものはありませんでした。)
皮膚を温存できた例とできなかった例など、様々なパターンが紹介されていて、
とても参考になりました。初めて見る時は、殆どがまだ術後数週間や数ヶ月と、まだ
完全に癒えきっていない状態の写真ですので、腫れや赤みなどもあり、
やはり衝撃を受けますが、逆にこれを見たおかげで実際に自分の傷を見る前の
心の準備もできて、その時の衝撃がかなり軽減された気がします。
ちなみにこのビデオ、情報はためになりますが非常に地味です(笑)。私は再生速度1.5倍で見ました。
③ 再建は時間(年月)がかかる
同時再建でも、一般的にはまず、生理食塩水を数週間おきに注射で足しながら
胸の皮膚を伸ばすティッシュエキスパンダーが入ります。入れている期間は
日本では大体半年ほどと言われます。その期間を経てから乳房再建が行われ、
乳頭再建も希望する場合は、一旦再建した胸の皮膚が癒えるのを
待たなければならないため、また更に半年〜1年後となります。乳頭再建後に
医療用タトゥーで乳頭に色をつける場合は、また皮膚が癒えるのを待つ必要が
あるので、これも更に数ヶ月後となります。
「再建」と一言で言っても、最初から最後までは年単位になることが多いので、
とても長い目で見る必要があります。最初は「全摘の時に全部終わって、
目が覚めたら、感覚がなくてもとりあえず胸の形と特徴が全部揃ってるものが
あるのかな」なんて思ったりしましたが、そんな都合のいい話ではありませんでした
(笑)。
④ 傷が癒えるまで2年
傷が完全に癒えるには最低2年はかかると言われています。また、紫外線は傷の回復を
妨げるため、術後6ヶ月(1〜2年とも見かけます)は直射日光が当たらないように
気をつけないといけません。(あるいは日焼け止めを塗ります。) 更に、できるだけ傷跡をきれいに残すためのテーピング療法というケアもあり、傷に垂直にサージカルテープなどを貼って留めることにより、皮膚が伸びたり引っ張られたりすること*を抑えます。こちらも術後6ヶ月は続けたほうが良いとされています。
*ケロイドの原因になります
⑤ 乳頭・乳輪温存のリスク
乳頭・乳輪の温存については今でも賛否両論のようで、一番懸念されるのが
再発のリスクです。
ここ数年の研究発表によりますと、以下の場合は乳頭・乳輪温存が危険
(再発リスクが高い)と言われます:
- 放射線治療を受けたことがある、または受ける予定
- 胸が大きい
- 胸が垂れている
- BMIが30以上
- 喫煙者
- がんが多発性または多中心性(しこりが複数ある)
- 浸潤性に加え非浸潤性の乳がんも多く見られる
- しこりの大きさが3cm以上
- 乳頭・乳輪組織の2cm以内にしこりがある
- HER2陽性
- 高グレード
ちなみに私はしこりが乳頭下にあったため、問題外でした(泣)。
各種再建術や私が自家組織再建を選んだ理由などについては、また次の記事で
詳しく書こうと思います。
出典
胸の神経を温存する技術 Resensation
2020年12月から進行中のジョンズ・ホプキンス大学の Advance Neuro Graft を用いた神経温存法の臨床試験
特に乳頭再建について詳しい図があります
米MDアンダーソンがんセンターによる同時再建と2次再建の比較
2次再建の場合は同時再建より移植する皮膚が必要、との図があります
(delayed = 2次再建、immediate = 同時再建)
UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の各種乳房再建術の説明ビデオ
予防目的の全摘手術をし、乳頭温存した患者に見られる再発率やリスク
Overview of indications for nipple sparing mastectomy(Tousimis et al. 2018)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6006023/
韓国の大規模調査によって見受けられる乳頭温存と再発リスク