夢の世界を歩いていると、どこからともなくスピーカーからセール情報が流れてきた。
そしてそれについていく人たち。
同じく夢を行き来できる人に聞くと、潜在意識に情報を流すとものすごい経済効果だという。
ハーメルンの笛吹き男に連れて行かれるようにセール情報について行くおばちゃんたちを見守り、また夢を渡り歩いた。

そのうち外の世界から話し声が聞こえた。
自分が夢の世界を自由に歩けることに、医師たちが気づいたんだ!
秘密の行為を知られたことにあせるが、医師たちはよくあることだから、と言う。
何かの実験に使われるかもしれないと震えているうちに、ベッドごと移動させられた。
「 ああ、何か実験材料として観察されるのか… 」と思いつつ、夢の世界の人に「 部屋移動させられちゃったよー 」などと話した。
そしてこれは実際に声に出していたと思う。

たぶん夜中に独り言が多くて、同室の方が看護師さんを呼んだのかもしれない。
今思い出しても、同室の方には申し訳ない!という気持ちしかありません…


部屋を移されても、自分は相変わらず夢を渡り歩いていた。
様々な夢…

ある大きな建物の中にいた。
無機質な建物で、中にはいくつも夢の個室があるが、ある世界的企業の製品のみおいてある。
そこで子どもたちを遊ばせて、製品が欲しくなるように、潜在意識に語りかけているのだ。
ある部屋にはその会社のシャツを着た女性がいて、行列の人一人一人に新製品を見せている。
わたしが夢の世界を自由に歩けると知ると、うちと契約しないか?と持ちかけられた。
その能力は珍しく、かなりの影響力があるという。
もちろんかなりの額のギャラがあるというのだ。

こんな話なんか嫌だ!と思い、わたしは逃げ出した。
前の夢で見た頭の中でグルグル回る曲を脳内再生させると、別な夢に飛べるという技を持っていたのだ。


行った先にはアメリカ人の女の子がいた。
彼女はギャラに目がくらんだ親に契約させられたという。
彼女の生活は散々なものだった。
母親に「 仕事をしたくない 」と言えば、母親は冷たく「 なら、買っている猫を一匹処分しなさい 」と言うのだ。
彼女の側には高速で刃物が連続で流れていて、彼女は泣く泣く猫をそこに置き殺した。
そしてそれに耐えられず、自分もそこへ飛び込んだ。
でも夢の中だから死ねないのだ。
夢の中で死ぬことは夢から覚めること。
彼女は欲に目がくらんだ親に、夢の世界に閉じ込められているのだ。
そして歳も取らないから、夢の世界で自暴自棄な生活をしていた。
父親くらいの年齢の男性と付き合ったり、酒に溺れたり。
嫌になったら高速で動く刃物に飛び込んで自殺し、またやり直すの繰り返し。
あまりの恐ろしさに逃げ出した。


逃げた先にひときわ楽しい天井の高い明るい部屋を見つけた。
地面からおもちゃのブロックが泉のように湧き出し、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
「 ここ、子どもの頃よく来た夢だ! 」と一気に懐かしさに包まれた。
子どものとき一番大好きだった夢。
天井の高いドーム型の部屋の壁に、突如小窓が現れて、カーリーヘアに髭のおじさんが顔を出した。
そして面白い顔をしたり、面白い絵を見せて子どもたちを笑わせてくれる。

「 ああ!髭のおじさんだ! 」
と懐かしさに泣きそうになった。
子どもの頃いつも夢に現れていたおじさん!
おじさんはわたしに気づくと「 君も夢を行き来できるんだね 」と言葉ではなくテレパシーで話しかけてきてくれた。

そして他にも眼鏡のおじさんと、気持ちの良い目覚めをさせてくれる花のおばさんがいることを思い出した。

三人と再会して、三人について行き夢でやっていることを見た。
夢の中で子どもたちを笑わせること、そして生まれてくる赤ちゃんを「 ようこそ 」と笑顔で歓迎し、現実の世界へ旅立たせること。
自分もこの仕事をやりたいな、と思った。

それには三人と現実の世界で連絡を取らなくてはいけないという。
三人はこの世界ではかなりの有名人で、彼らの能力を狙う起業でさえ、彼らを捕まえることはできないのだ。
 
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カーリーヘアのおじさんはトルコ辺りの人で、お花のおばさんはニューヨーカー、眼鏡のおじさんはアルゼンチン辺りの人だということはわかった。

気がつくとわたしは最初に見た世界的企業の建物の中にいた。
彼らはわたしから、おじさんたちの情報を聞き出そうとしているのだ。
そして教えるまで夢から覚まさせないと脅された。
わたしはまた逃げ出してなんとか目を覚ますように努力するが、すぐ彼らの妨害にあってしまう。
その企業以外の企業もわたしの能力に気づき、自分たちの商品名を口にしろとせまってくる。
巨大なピタゴラ装置を作動させて目覚めようとしても、装置をコンクリで固められてしまう。
どうやっても起きることができない。

目が覚めるにはいくつもの人生の選択をしなくてはいけなくなった。
いくつもの選択を迫られて、自分が選んだ方は必ずダメだった。
これからの人生についても知らされた。
どっちに進むか迫られ、ダメな方を選ぶと「 もう一つの方を選んでいたら、子どもを二人授かることができたのに… 」「 あっちを選べばカルタンの病気が治ったのに… 」そんなことの繰り返し。
いい加減「 未来のことなんで何も知りたくない! 」と叫んで逃げ出した。

でも目は覚めない。
また選択のやり直し。
何度やっても選択は必ず失敗し、どんどん夢の底へと落とされる。
そこへ行くたび部屋は暗くなり、最終的にわたしは真っ暗な部屋にいた。
でも自分の姿はハッキリ見える。

その部屋には細長いベルトコンベアがあり、コンベアの先には糸状の刃物がある。
紫色のワンピースを着たわたしは、ベルトコンベアに、白い小さな玉を乗せ続ける。
白い玉は先にある刃物で真っ二つにされる。
この白い玉は命で、わたしは生まれてくるであろう命を暗い部屋でただ一人ベルトコンベアに乗せ殺す作業をしていた。

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地獄というものがあるとしたら、きっとここだと思った。