昨年秋頃から、コーチングの認定資格を取得されているコーチの方々からのお問い合わせや、講座の受講が増えています。
そして、ペップトークに対する反応は2通りに分かれます。
一方の方々は「コーチングは本人の意思決定を導き出すものだから、無理やり行動を起こさせたり、行動指針を明確に打ち出して伝えるペップトークはコーチングの理論に相反する」
他方の方々は「自分たちが学んだコーチングに欠けていたのはこれだ!」と興奮される方です。
私たちの話に耳を傾けてくださるのは、明らかに後者が多いようですが、だからと言って絶対に私たちが正しいと言うつもりはありません。
実はどちらも正しいからなのです。本人が必要かどうかの違いだけなので・・・
では、なぜコーチングを学んだ方々にこのような違いがあるのかを説明しましょう。
ペップトークを日本で普及・推進している岩崎由純さんは、アメリカのシラキューズ大学の大学院で学び、日本人で初めて全米アステティック・トレーナーの認定資格を取得して帰国した、日本アスレティック・トレーナーの草分け的な存在です。
彼は、資格取得のためにコーチングも学び、そしてトレーナーの実習としてコロラド・スプリングスにあるオリンピック・センターで修行したり(現在は、アメリカ人以外は受け入れてもらえない)アメリカンフットボールのプロチームのフィラデルフィア・イーグルスでトレーナーとして働いたり、ロサンゼルス・オリンピックではマラソンで金メダルを取ったカルロス・ロペス選手をトレーナーとして影で支えてきました。
ペップトークは、試合前のロッカールームで行われる、監督・コーチと選手だけの「神聖な儀式」のような時間です。映画で観るペップトークのシーンも、確かにチーム関係者以外は排除されています。
岩崎さんは、アメリカでの修行時代にアスレティックトレーナーとして、多くの競技で全米チャンピオンを争うシラキューズ大学のスポーツチームのトレーナーとして係れたこと、オリンピックに出場するチームやプロのアメフトチームに携われたことで、本場の生のペップトークに触れることができた・・・この経験ができた日本人は稀有な存在で、自分はとてもラッキーだったと語っています。
スポーツにおけるコーチングを学び、生のペップトークを体感した岩崎さんにとって、「ペップトークの無いコーチングはあり得ない」と断言されるのは当然のことだと思います。
スポーツの現場で行われるペップトークは、多くの場合は試合前やハーフタイムです。緊迫した場面で選手をリラックスさせたり、燃えるような闘魂をふるい起こすために短いスピーチを行います。
試合の直前に、相手はスタミナがあるから、スタミナで負けないようにしよう・・・と思っても、現状で相手が勝っていれば、いまさら改善はできません。相手のスピードが上回っていたとしても、試合の直前に自分たちの筋肉やポテンシャルが変わるわけではありません。
ある意味では、スポーツにおけるコーチングは、試合前の段階で全ては終わっているし、またそうでなければなりません。試合が始まると闘うのは選手です。コーチはベンチで見守るしかないのです。
しかし、試合直前の言葉がけやハーフタイムのショートスピーチで選手の心理状態をポジティブに変えてあげることは可能です。
それがペップトークであり、優秀な監督と称される方々は間違いなくペップトークが上手く、岩崎さんが「ペップトーク」こそコーチングの最終仕上げであり「究極のテクニック」と呼ぶ意味がよくわかるのです。
ところが、コーチングをビジネスに持ち込んだ場合には「ペップトーク」の必要性は立場によって大きくかわります。
この立場の違いとは、
◆上司が部下を育てるとか、人事部の方が社員の能力アップのために行うといったように組織の中で行う場合
と
◆組織の外から、コミュニケーション手法としてコーチングを教えるとか、コーチングのスキル・資格を使って、相手の悩みや問題解決のお手伝いをする
の違いです。後者は「コンサルティング」や「カウンセリング」に近い業務であったり、イコールであったりする場合が多く、クライアントが自分自身の中から問題解決できるようにサポートすることが主業務となりますから、おそらく「ペップトーク」という手法は必要と感じられないと思います。
しかし、前者の場合は、スポーツの現場と同様に明らかに必要なスキルです。
この違いは何にあるのか?
それは、自分がコーチしている相手をマネジメントしているか否かによります。
コーチングは相手の能力を引き出す最高コミュニケーション手法です。コーチングでは相手の意思を尊重しますし、相手の思考や判断を支えてあげます。しかし、これは成長のためのサポート手段であり、現場の統率とはことなります。
スポーツでもビジネスでも、「人を育てること=組織を盤石にすること」ですから、コーチングは欠かせない手法です。
しかし、組織のマネジメントとはマネージャーの意思の元に組織を動かさなければなりません。相手の得意不得意に関係なく「指示」として、ときには「命令」「服従」させなければならないこともあるのです。
多くのマネージャーのジレンマはここにあります。
「命令」「服従」させなければならない・・・でも、嫌々やらされているのではモチベーションは上がらないし、モチベーションが上がらなければ成果は出ない。
嫌なことでも、前向きに進んで取り組む姿勢、無理難題に対して果敢に挑戦して問題解決しようとする積極的な取り組み姿勢・・・組織のトップは部下たちにこのような取り組み姿勢を望みますが、その実現のため、組織の統率にはコーチングで築き上げた信頼関係だけでは足りないものがあります。
それは、間違いなく「悩んでいるときに背中を押してくれる上司」であり
怯んでいるいるときに「背中を押してくれる上司」であり、「励ましの言葉をかけてくれる人」なのです。
コーチングが上手にでき、そしてこのような言葉がけができる人、それはすなわち
「リスペクトされる人」「理想の上司」「理想の指揮官」
「メンターと呼ばれる人」
なのです。
それを叶えるのが「ペップトーク」であり、「ペップトーク」は指揮官にとって「コーチング」と「マネジメント」を橋渡しするコミュニケーション・スキル・・・とも言えるのではないでしょうか?