豪華な安物 -- ドバイから世界が見える6
自分の常識、他人の非常識。
今日は豊かな国、日本で暮らしていると、見えなくなってしまうものに、焦点を当てました。
おはようございます。英写塾@石渡です。
今日の英文はこちら。
These people cannot afford to shop
in the Mall of the Emirates;
yet they are greedy
for the trappings
of middle-class life.
記事掲載号)The Economist April 14th 2012
邦訳)未刊行
出典記事) Schumpeter | Mall of the masses
初めてこのブログを読んで、「The Economist って何?」と思った方は2010年9月18日付「The Economistに挑戦!(1)」をご覧ください。
ここで、ドラゴンマートで販売されている商品を、少し具体的に見ていきましょう。
特徴は2つ。
ひとつ目はとにかく安いこと。
デジタルカメラが27ドル(約2000円)、ランニングマシンが190ドル(約1万5000円)!
しかも、これは値札の価格。
値切ればもっともっと安くなります。
2つ目は「こんなもの誰が買うんだ」という商品が多いこと。
ポリエステル製のペルシア絨毯、プラスチックでできた重役用の机、金メッキしたプラスチック製の本棚、やせる石けん。
極めつけは、胸が大きくなる塗り薬、その名もTouch Me Please Breast Enlarging Cream(私を触って豊胸クリーム)。
記事は、「これでもか」というほど具体的な商品を挙げ続けています。
おそらくこのパラグラフを読んだ人は、思わず笑ってしまったのではないでしょうか。
そんな読者を、記事は後続のパラグラフでドキッとさせます。
「こんなちゃちなものを作ってと、こういった中国のメーカーを一笑に付してしまうのは、愚かなことだ」
確かに、The Economist を読んでいるような、西側の世界の読者にとってみれば、「こんなもの誰が買うんだ」と思うような安物ばかりかもしれません。
けれども、いま起きている事実を捉えたいのなら、その思い込みをいったん捨て去る必要がありそうです。
こういった中国メーカーが相手にしているのは、先進国の消費者ではありません。
いま世界で最も注目を集めている消費者層を、相手にしているのです。
それは、新興中産階級。
コンサルティング会社のマッキンゼーの試算では、20億人の人たちが1年で6兆9000億ドル(約550兆円)を消費する1大マーケットとされています。
では、彼ら、彼女らはどんな人たちなのでしょうか。
英文で、見ていきましょう。
These people cannot afford to shop
in the Mall of the Emirates;
yet they are greedy for the trappings of middle-class life.
シンプルな英文をセミコロンでつなげただけですので、頭から見てみましょう。
These peopleは「これらの人々」で、具体的には「新興中産階級」を指します。
cannot afford to shopは「買い物をするだけのお金がない」。
in the Mall of the Emiratesはどこで買い物をするのかを説明し、「アラブ首長国連邦のモールで」。
ドバイはアラブ首長国連邦の1首長国です。
セミコロンは、「ピリオドで区切ると意味が途切れ過ぎてしまうので、あいまいに境目を付ける」目的で使われています。
yet they are greedyは「だが、その人たちは貪欲だ」。
for以下で何に対して貪欲なのかを説明しています。
for the trappings of middle-class lifeは「中産階級の生活を象徴するような品々に対して」。
意味を補って意訳します。
「ドラゴンマートで売られている商品は、所詮『安かろう、悪かろう』だ。そう切って捨てるのは簡単だが、それでは重要な事実を見逃してしまう。ドラゴンマートが相手にしているのは、これから中産階級に上がっていこうとしている、新興の中産階級だ。自分たちの所得のレベルでは、まだドバイなどのアラブ首長国連邦にあるきらびやかなモールで買い物をすることはできない。だが、いや、だからこそ、極めて貪欲に中産階級の生活を象徴するような品々を、ドラゴンマートで買いあさっている。ドラゴンマートの価格なら、自分たちでも手が届くからなのだ」
この視点でドラゴンマートの品々を見ていくと、別の見方ができるはずです。
記事には書かれていませんが、ここでは、ある意味で「夢」を売っているのではないでしょうか。
「もっと豊かになりたい」
そう思っている人たちが、思い描いている「夢」の中に出てくる、子供の勉強机やパティオに置く家具などを売っているのです。
豊かさに慣れた西側諸国の人たちの目からすると、「ちゃちな安物」も、スラム街に育ち、懸命に豊かな生活を目指している人たちの目には豪華な品物に映っているのです。
「そんなもの誰が買うんだ」
そう思っていた自分が、少し恥ずかしくなりました。
次回は、ドラゴンマートの持つ、重要な特徴について見ていきます。
お楽しみに。
(続)
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引用元の記事は同誌のウェブサイトのこのページで読むことができます。
定期購読者以外には公開期間が限定されているようなので、興味のある方は早めのアクセスをおすすめします。
The Economist はビジネスパーソンにとって情報の宝庫。
英語に少しでも自信がある人はぜひ定期購読をしてみてはいかがですか。
最後に「今日の英文」を、お気に入りの筆記具でノートや手帳に書き写しましょう。
These people cannot afford to shop
in the Mall of the Emirates;
yet they are greedy
for the trappings
of middle-class life.
記事にかける時間が長くなりがちなため、いつもペタ返しができるわけではありませんが、よろしければ、書き写した記録としてペタやコメントをつけてくださると、とてもうれしいです。
コメントには原則として、すべてに返信しています。
それでは今日も1日、お元気で!
今日は豊かな国、日本で暮らしていると、見えなくなってしまうものに、焦点を当てました。
おはようございます。英写塾@石渡です。
今日の英文はこちら。
These people cannot afford to shop
in the Mall of the Emirates;
yet they are greedy
for the trappings
of middle-class life.
記事掲載号)The Economist April 14th 2012
邦訳)未刊行
出典記事) Schumpeter | Mall of the masses
初めてこのブログを読んで、「The Economist って何?」と思った方は2010年9月18日付「The Economistに挑戦!(1)」をご覧ください。
ここで、ドラゴンマートで販売されている商品を、少し具体的に見ていきましょう。
特徴は2つ。
ひとつ目はとにかく安いこと。
デジタルカメラが27ドル(約2000円)、ランニングマシンが190ドル(約1万5000円)!
しかも、これは値札の価格。
値切ればもっともっと安くなります。
2つ目は「こんなもの誰が買うんだ」という商品が多いこと。
ポリエステル製のペルシア絨毯、プラスチックでできた重役用の机、金メッキしたプラスチック製の本棚、やせる石けん。
極めつけは、胸が大きくなる塗り薬、その名もTouch Me Please Breast Enlarging Cream(私を触って豊胸クリーム)。
記事は、「これでもか」というほど具体的な商品を挙げ続けています。
おそらくこのパラグラフを読んだ人は、思わず笑ってしまったのではないでしょうか。
そんな読者を、記事は後続のパラグラフでドキッとさせます。
「こんなちゃちなものを作ってと、こういった中国のメーカーを一笑に付してしまうのは、愚かなことだ」
確かに、The Economist を読んでいるような、西側の世界の読者にとってみれば、「こんなもの誰が買うんだ」と思うような安物ばかりかもしれません。
けれども、いま起きている事実を捉えたいのなら、その思い込みをいったん捨て去る必要がありそうです。
こういった中国メーカーが相手にしているのは、先進国の消費者ではありません。
いま世界で最も注目を集めている消費者層を、相手にしているのです。
それは、新興中産階級。
コンサルティング会社のマッキンゼーの試算では、20億人の人たちが1年で6兆9000億ドル(約550兆円)を消費する1大マーケットとされています。
では、彼ら、彼女らはどんな人たちなのでしょうか。
英文で、見ていきましょう。
These people cannot afford to shop
in the Mall of the Emirates;
yet they are greedy for the trappings of middle-class life.
シンプルな英文をセミコロンでつなげただけですので、頭から見てみましょう。
These peopleは「これらの人々」で、具体的には「新興中産階級」を指します。
cannot afford to shopは「買い物をするだけのお金がない」。
in the Mall of the Emiratesはどこで買い物をするのかを説明し、「アラブ首長国連邦のモールで」。
ドバイはアラブ首長国連邦の1首長国です。
セミコロンは、「ピリオドで区切ると意味が途切れ過ぎてしまうので、あいまいに境目を付ける」目的で使われています。
yet they are greedyは「だが、その人たちは貪欲だ」。
for以下で何に対して貪欲なのかを説明しています。
for the trappings of middle-class lifeは「中産階級の生活を象徴するような品々に対して」。
意味を補って意訳します。
「ドラゴンマートで売られている商品は、所詮『安かろう、悪かろう』だ。そう切って捨てるのは簡単だが、それでは重要な事実を見逃してしまう。ドラゴンマートが相手にしているのは、これから中産階級に上がっていこうとしている、新興の中産階級だ。自分たちの所得のレベルでは、まだドバイなどのアラブ首長国連邦にあるきらびやかなモールで買い物をすることはできない。だが、いや、だからこそ、極めて貪欲に中産階級の生活を象徴するような品々を、ドラゴンマートで買いあさっている。ドラゴンマートの価格なら、自分たちでも手が届くからなのだ」
この視点でドラゴンマートの品々を見ていくと、別の見方ができるはずです。
記事には書かれていませんが、ここでは、ある意味で「夢」を売っているのではないでしょうか。
「もっと豊かになりたい」
そう思っている人たちが、思い描いている「夢」の中に出てくる、子供の勉強机やパティオに置く家具などを売っているのです。
豊かさに慣れた西側諸国の人たちの目からすると、「ちゃちな安物」も、スラム街に育ち、懸命に豊かな生活を目指している人たちの目には豪華な品物に映っているのです。
「そんなもの誰が買うんだ」
そう思っていた自分が、少し恥ずかしくなりました。
次回は、ドラゴンマートの持つ、重要な特徴について見ていきます。
お楽しみに。
(続)
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引用元の記事は同誌のウェブサイトのこのページで読むことができます。
定期購読者以外には公開期間が限定されているようなので、興味のある方は早めのアクセスをおすすめします。
The Economist はビジネスパーソンにとって情報の宝庫。
英語に少しでも自信がある人はぜひ定期購読をしてみてはいかがですか。
最後に「今日の英文」を、お気に入りの筆記具でノートや手帳に書き写しましょう。
These people cannot afford to shop
in the Mall of the Emirates;
yet they are greedy
for the trappings
of middle-class life.
記事にかける時間が長くなりがちなため、いつもペタ返しができるわけではありませんが、よろしければ、書き写した記録としてペタやコメントをつけてくださると、とてもうれしいです。
コメントには原則として、すべてに返信しています。
それでは今日も1日、お元気で!