功利主義の功罪--ハーバード白熱教室4 | ビジネス英語と知識を学ぶ 英写塾

功利主義の功罪--ハーバード白熱教室4

おはようございます。英写塾@石渡です。

哲学は企業の戦略や政府の方針にも影響を与えています。

今日はそんな事例を見てみましょう。

英文はこちら。

And it often goes, this utilitarian logic
under the name of cost/benefit analysis,
which is used by companies and
by government all the time.


出典)NHK DVD ハーバード白熱教室1

講演者)Michale Sandel

$ビジネス英語と知識を学ぶ 英写塾-MichaelSandel1



前回、紹介したサンデル教授の考えは以下のようなものでした。

人権の問題、公共政策の問題など、私たちの市民生活は哲学的な問いと密接に結びついている。

そして、哲学的に考えるということは、避けて通れないものである。

とはいえ、そう言われてもピンとこない人も多かったはずです。

そこで、今日は教授の取り上げた2つの具体例を見てみることにします。



ベンサム、という人名を聞いて何を思い浮かべますか。

私は共通一次試験(古いですね)を世界史と倫理社会で受験したので、おぼろげな記憶があります。

そうです。

「最大多数の最大幸福」の考え方、功利主義を提唱したイギリスの哲学者です。

個人の幸福の総合計から苦痛の総合計を引いたものを、最大化することが、正義であるという主張です。

この考え方は何かに似ていませんか。

得られる便益の総合計からかかったコストの合計を引いたものを、最大化することを目的とする、費用便益分析です。

ベンサムの功利主義は、費用便益分析の基本となる考え方で、行政や企業の戦略に影響を与えています。

それを端的に表現したのが、今日の英文です。

英文はEpisode 02: Putting A Price Tag On Lifeの3分31秒付近に登場します。

ハーバード大学のサイトは現在一時的に見ることができないようなので、YouTubeのサイトのリンクにしました。


And it often goes, this utilitarian logic
under the name of cost/benefit analysis,
which is used by companies and by government
all the time.



幹になるのは、It goes under the name of A.(それはAという名前で通っている)。

itは直前に話題になっていた、「最大多数の最大幸福」の考え方を指します。

oftenは「しばしば」。

this utilitarian logicは、itをさらに言い換えています。

意味は、「この功利主義の論理」。

go under the name of...は「・・・の名前で通っている」。

cost/benefit analysisは「費用便益分析」。

which以下で、費用便益分析について補足説明をしています。

which is used は「使われている」。

by companies and by governmentは、使っているのが誰なのかを示していて、「企業や政府によって」。

all the timeは「いつも」。

意味を補って意訳すると、次のようになります。



「ベンサムの提唱した『最大多数の最大幸福』の考え方、この功利主義の論理は、しばしば『費用便益分析』と名前を変え、広く知られるようになった。そして、この手法は企業や政府によって、常に利用されている」



サンデル教授は、常識ある人であれば眉をひそめるような例を挙げています。

政府が利用した例としては、チェコ共和国のタバコ政策を挙げています。

国民の喫煙を規制するかどうかの判断材料として、タバコメーカー、フィリップモリス社はチェコ政府に次のような費用便益分析を提供しました。

国民が喫煙することの「費用」には、タバコが原因となっている疾患に対する医療費の増加を挙げました。

一方、「便益」としては、タバコ税による歳入の増加、タバコが原因となって早く亡くなってしまう人の分だけ、医療費、年金、住宅費が節約できるとしています。

フィリップモリス社の推計によると、便益から費用を引いた純益は147億ドル、早死による節約は1人当たり1,227ドルとなりました。

この推計に対しては、非難の嵐が巻き起こり、フィリップモリス社は自社の行った非人間的な分析について謝罪しています。




企業の例としてはフォード社のピントの例を挙げています。

ピントはサブコンパクトカーと呼ばれる、やや小型の自動車で、全米で1000万台以上売れたヒット商品でした。

ところが、ガソリンタンクの配置に構造上の欠陥があり、後ろから追突されて炎上する事故が多発しました。

フォード社は裁判で訴えられ、社内のメモが発見されました。

それによると、同社は早期の段階で、欠陥の存在、それが引き起す結果を知っていました。

そして、費用便益分析を行っていたのです。

費用は、欠陥を解消するための修理費です。

1台11ドルで、1250万台に適用すると、137億ドルかかります。

一方、便益は、推定死者数180人に対しひとり20万ドル、負傷者180人に対しひとり6万7000ドル、事故を起こした車2000台の修理費用に1台700ドルかかります。

合計すると、49億5000万ドルとなりました。

両者を比較した結果、フォード社は事故を防ぐ措置を取らないことを決めました。

このメモが決め手となり、裁判は敗訴。

多額の賠償金を課せられました。



後者の企業の例は、ひょっとしたら他人事ではないかもしれません。

日本でも、多くの人の命にかかわるような事業をしている企業には、費用便益分析だけに頼らない、経営判断が求められるのではないでしょうか。

何が正しく、何が正しくないのか。

正義とは何か。

政治家も経営者も、そして政治家を選ぶ私たち国民ひとりひとりも、真剣に考え論じるべき時期に来ていると、私は思います。

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最後に「今日の英文」を、お気に入りの筆記具でノートや手帳に書き写しましょう。


And it often goes, this utilitarian logic
under the name of cost/benefit analysis,
which is used by companies and
by government all the time.



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それでは今日も1日、お元気で!

tourokuBTN