アルがいつもの山の一本道を歩いて行くと、イーグルさんもまた、いつもの大きな樹の下に作られたテーブルとベンチのところで春めいてきた野に目をやっていた。
「最近きみのことを見かけなかったようだね」
「ぼく片付けをしていたの」
「片付けをして、どうだった?」
「片付けるのはかなり大変だよね。ぼくはわりあい、いらないものは持たないのだけど、持っているものはいるものなんだよね」
「いるものなのに片付けたの?」
「うん、少し多くなったから」
「それで、何か感じた?」
「うん、少しくたびれた。
でもね、運動の後のような爽快感もあるかな、いやそうじゃないや、成し遂げた後の達成感のような? それも違うな、
ホッとした感じもあるよ」
「それで、何か残ったものはあるのかい?」
「モノの重さと愛情とどっち重いか、それを天秤にかけて、愛情がカタンと下がったモノは捨てないんだと思ったんだけど、
そうじゃない、愛情は大きな玉になって、大きくなるほど軽くなって、淡いピンクの雲のようになって空に浮かんで行くんだ、どんどん大きくなってね。
だからね、ピンクの大きな雲になったモノは捨てないことにした。
でも、思い出せばいつでもピンクの大きな雲は見えるから、捨ててもいいのかもしれないな。
だからね、片付けは続いているんだ。
あ、うっかり、必要な道具は捨てないように気を付けながらね。道具ではないモノもね。
以前、ぼくは捨て方がよくわからなくて、どんどん捨てないといけないのかと思って、手当たり次第捨ててしまい、ものすごく後悔したモノがあるんだ。
捨てる達人になるのは難しそうだね。基準だって、みんな違うんだと思うな」
イーグルさんは今日の空のようなやわらかな顔をしてアルの話をきいていた。
アルも今話したことについて、イーグルさんがどう思うか求めることはしなかった。