子供の頃、長く住んでいた山里は、街灯が少なく月が満ちた、よく晴れた秋の夜など、近くの神社やお寺に行くと建物が蒼く沈んで見えるんだよ。
神社も寺も祭り以外に使われず、人はなく、いつ建てられたのかも分からない古い木造のものだった。
建物や大木があちこちに黒い陰をつくり、陰をジイと見て他に眼を移すと、周りは見違えるほどの明るさである。
建物の縁側に座ってジイ~としていた。
時も自分も止まってしまってた。
学校でのケンカ、お習字、運動会、遠足、農家の垣根から飛び出している柿など、手を伸ばして食べてしまう、母親からその日、新しくおろしてもらったズック靴など、帰ってきた時など泥で真っ黒だ。川釣り、裏の山では城取ごっこ、小学生でやることはすべてやった。
ただ、お勉強だけ抜けていた。
月といえば、あの里山の月の静謐な蒼さだな。
小学生の自分はそこに浸っていた。
考えることなど何もない、ただ、そこに居た。
今、思えば、あれが幸せというものだと思う。