医療保険の財政危機についても、年金とまったく同じごまかしがあった。
もっとある。厚生省は平成7年、30年後の医療費推計値を発表した。高齢化でいかに医療費が増大するかを示すためである。
なんと141兆円という巨額だった。平成7年の国家予算は70兆円だから、ちょうど倍である。
「これは大変、医療費の削減が必要」と思わせるためであろう。
しかし、誰が考えても急増のしすぎだ。医療関係者から疑問の声が挙がった。
そのせいかどうか、これが時を追うに従って減っていくのである。
平成9年104兆円、平成12年81兆円、平成14年70兆円、そして、平成18年65兆円である。こんないい加減な予測に基づいて、医療費を削っているのである。
さて、年金をはじめとして社会保障費は、高齢化の進展に伴い毎年7000億円程度の「自然増」がある。
小泉政権は発足直後、社会保障費の自然増を5年間で1兆1000億円削減すると決めた。平成14年以降、毎年2200億円削減し、毎年5000億円程度の増加にとどめるのかと関係者は思った。
ところが違ったのである。
「毎年2200億円」のはずだったのに、「毎年2200億円を追加」して減らしているのである。
つまり、初年度は2200億円、2年目は4400億円という具合で、平成18年には、1年で1兆1000億円削減された。
5年間で1兆1000億円の削減のはずが(それでも十分ひどいが)、実際には、5年間で3兆3000億円を削減したのである。
しかし、このインチキに気がついたのは医師会だけ。実は私も医師会の資料で知った。新聞をはじめマスコミはまったく問題にしていない。
こんなに削ったら、ただでさえ、足りないのに、日本の社会保障は壊れてしまう。
いや、もう壊れてしまった。年金はそう簡単には減らせないから、しわ寄せは医療費に向かった。医療崩壊である。
診療費も引き下げられ、各地で病院、医院の倒産、廃業が相次いでいる。まさしく医療崩壊である。
また、平成18年には療養病床を38万から15万に減少する方針を打ち出し、療養病床の診療費を大幅に引き下げた。医療の要らない社会的入院がほとんどというのが理由だが、これが医療難民の最大の原因になった。
小泉政権は平成15年、サラリーマンの自己負担を2割から3割にアップした。
しかし、実は平成9年橋本政権の厚生相として、1割から2割に引き上げたのも小泉氏である。ちなみに昭和59年までは、サラリーマン本人の自己負担はゼロであった。
国保の保険料を1年以上滞納すると保険証を取り上げられ、全額自己負担になるという仕組みを決定したのも同じく平成9年で、平成12年から実施された。
失業、倒産などで所得を失うと、前年の所得で決まる保険料を、40万、50万と納めなければならず、払えないと、資格証明書が交付され、保険料を納めると自己負担以外の分を返却してくれるという仕組みである。
平成10年以降、自殺者が3万人を超えるという事態がこの10年続いているが、保険証を取り上げられて、医師にかかれず、助かる病気で亡くなる人は、それ以上いるといわれている。
ちなみに国保は最初から自己負担が3割であり、小泉政権はこれをその他の保険の自己負担引き上げの理由とした。
しかし、公的医療保険で自己負担が3割の国はなく、国保を引き下げるべきだったのである。
『平成経済20年史』 紺谷典子
