若い頃のお話。
ボクが乗っていたホンダのスクーター「リード」がある日、一瞬の隙をついて盗まれた。
静岡駅にほど近い、国鉄高架下にあった、我が社(旅行社)の駐車場に停めた時のことだった。
ボクはそれまでの人生で。
高価なものを盗まれた経験がなかったから、驚き戸惑った。
支店に戻り、支店長に「あの〜、街中営業に使っているスクーターが盗まれました」と報告すると、流石は亀の甲年の功の支店長さん。すぐさまボクに適切なアドバイスをくれた。
「警察に行きなさい」。
こうしてボクは生まれて初めて、警察(◯◯派出所)のご厄介になった。
ボク:「あの〜、スクーターが盗まれました」。
警察官:「じゃぁ、この書類に名前、住所、電話番号といつどこで何が盗まれたのかを書いてください」。
ボク:頑張って書く。「あの〜、書き終わりました」。
警察官:「じゃぁ書類そこのカウンターに置いたら帰っていいよ。ご苦労さん」。
手続きは5分ほどだった。
きっと、日本の警察の方々はお忙しいから、ボクのスクーター盗難になんかにかまっていられないのだろうな・・・。
ボクはそう思って、派出所を出た。当然。
その後、警察関係の方々から、連絡は一切なかった。
翌年のクリスマスイブ。
仲の良い女の子とお酒を飲みにしぞーかの両替町に出かけた時のこと。
途中。
呉服町の街中で。ボクは見覚えのあるホンダリードを発見した。
随分古ぼけて。シートにタバコを押し付けて燃やしたような穴が空いていたけど、それは間違いなく。
盗まれたリードだった。ナンバーが同じだったから。
買って間もなく盗まれたリードが、かなりやつれ果てた形ではあるが見つかった。ボクは彼女に注意深くリードの近くに立っていてもらい、かの◯◯派出所に向かった。スクーターが見つかったことを知らせないといけないと思ったから。
派出所に入り、我がスクーター盗難事件から発見に至る経緯を簡単に警察の方に説明した。
すると警察官はこう言った。
警察官:「じゃぁ、乗って帰っていいよ」。
ボク:「えっ?でも、盗まれたスクーターですよ。このまま乗って帰っていいんですか」。
警察官:「君、鍵持ってるんだろ?だったら乗って帰ればいいじゃん。君のなんだから」。
正論だった。
ボクのスクーターをボクが乗って帰るのに問題はない。
手続きは以上のやりとりで終了した。
きっと警察の方々はクリスマスイブで忙しいから、ボクのスクーター盗難に関してあまり興味がないのだろうな。そう思って、ボクはお財布に大切にしまっておいた鍵を取り出し、スクーターを動かし、家に持って帰った。彼女は。
警察の対応はちょっとおかしいんじゃないの?って、プリプリ怒ったけど。
今日はせっかくのイブだから。楽しい時間を過ごそうよっていうボクの一言で。
いつもの笑顔に戻り、イブとボクのスクーター奪還に乾杯してくれた。