大学に入ってから本格的に始めたバイトは、静岡市の青葉通りにある、ジローというお店。
洋食屋さんでのバイトだった。
あれは夏休みのことだ。
帰省していたカバに似たAクンとカッパに似たボクは、仲良く二人でこのお店に履歴書を持って出かけ、面接を受けた。
洋食店ジロー。
入ってみると店は意外と広かった。店内が喫茶部とレストラン部に分かれていて、それぞれに多くのテーブルが置かれていた。
そこで店長さんと面接をした。
初めて会う店長さんは優しい人だった。さすが客商売。
ニコニコ笑顔は、ボクらを安心させた。そして、店長と動物・妖怪コンビはその日その場で雇用契約を結んだ。
翌日。
出勤するとボクらは先ず、役割分担を言い渡された。
「カバクンは、ホール係をお願いします」。
「カッパクンは皿洗いね」。
んんっ?
どうしてだろう。
ボクの方が人間に近い顔をしているのに。
カッパは二本足だぞ。二本足のボクを差し置いて、どうして四本足のカバクンが一目につくホール係に任命されるのか。
任命権者の店長さんの意図を是非ともうかがいたかった。
けど、その理由はすぐにわかった。
それは、ボクの髪の毛に問題があった。そう。
ボクはその頃、長髪だったのだ。ロン毛。
「長髪は食べ物屋さんにそぐわない」。簡単な理由だった。
厨房に入れられたボクは、人生初めてのお皿を一日中洗う作業に従事することとなった。それが忙しかった。
目が回るくらい忙しかった。
キャセロールがやだった。
焦げたドリアやラザニアに乗っかっていたクリームがこびりついていた。それを、スポンジたわしでゴシゴシ擦って一つひとつ落としていった。
厨房の人たちはとても優しかった。
「おい、GIN。お前、キャベツ切れ」。
とか、「おい、GIN。お前りんごの皮を剥け」と温かな言葉で命令してくれた。
キャベツの切り方が分からなくてボクがモジモジしていると、「なんだお前。一人暮らしをしてるくせに、キャベツの切り方も知らないのか」。と優しく語りかけてくれ、キャベツの切り方を懇切丁寧に教えてくれた。
仕事中やたらとお腹が空いた。すると、厨房の人が「おい、GIN。間違ってピザを一枚多く焼いちゃったからお前食べろ」と優しく手渡してくれた。嬉しかった、ボクはそれをパクパク食べながら、皿を洗い続けた。
ホールでは、カバがてんてこ舞いしていた。あまりのお客の多さにもはや、四本足で歩いている暇がなくなったカバは、左手にトレンチを持って二足歩行していた。
う〜む、こうしてカバは人類に進化したのか。アウストラロピテクス・・・。
ボクは300万年前に、アフリカ大陸南で何が起こったのか。思いを巡らした。
2ヶ月のバイトを終え、もらった給料は格別だった。
そのお金を握りしめたボクは、夏休み明け。
軽音楽部の合宿に出かけた。