ボクの通った中学校の放送では、歌詞のつく曲を流すのが禁止されていた。
歌詞がついている歌は、クラシックでなく、高品質でなく、上品でないと、音楽家のKね高先生世界の旅が言っていたからだ。
だから。
ボクらが毎日毎日、給食のたびに聞かされる音楽は、格調の高いものばかりだった。
ピアノと、バイオリンと、ホルンが奏でる美しい旋律。
格調という方面だけで考えると、東京タワーよりもはるかに高い楽曲。
あまりの格調の高さに、ボクら頭の悪い男子は、その音楽を聴くたびにコッペパンが喉につっかかった。
だからボクらは、音楽家のKね高先生世界の旅に直々にお願いに行った。
もうちょっと、格調の低い音楽も流して欲しいとお願いに上がった。
Kね高先生「あら。GINクン。今日はどうしたの?」
ボクら「あのぉ・・・」。
Kね高先生「先生に何か用事かしら?」
ボクら「あのぉ・・・。実は、パンが喉につっかかるんです」。
Kね高先生「えっ?」
ボクら「あのぉ、だから、ボクら毎日パンが喉につっかかります」。
Kね高先生「まぁ、それは困ったわね。だったら、牛乳を飲むといいわよ。そうすれば、コッペパンが喉につっかかることはなくなるわよ」。
ボクら「なるほど。ありがとうございました」。
ボクらはすごすごと帰っていった。
「う〜む。さすがKね高先生世界の旅。なかなか一筋縄ではいかないぞ」。
自分たちのネゴシエーション能力の低さに全く気付かず、おバカなボクらがうつむいていると。「ボクが行くよ」。
と、ズンベラMのるクンが立ち上がった。
顔がズンベラに似ているMのるクンは、顔はズンベラだったけど、頭はとってもよかった。
そして彼は、単身Kね高先生世界の旅のところに行って、なんと!!あっという間に話をつけてきてしまったのだ。
「昼の放送でビートルズを流してもいいぞ」。
噂は、学校中を駆け巡った。全てはズンベラのおかげだった。
カッパやサルが為しえなかった偉業を、ズンベラはあっという間に果たしたのだ。
翌日。
昼の放送で、「イエスタデイ」が流れた。
ポールの優しい歌声を聴いてボクらは。
もうコッペパンが喉につっかからないことを、大いに喜びそして。
むせび泣いた。