ちっちゃな頃。
我が家で重大な事件が発生した。
それは、買ったばかりのカルピスがグングン減っていくという謎に満ち満ちた事件だった。
父も母も、首をひねった。なぜ、これほどまでにカルピスが激減するのか。
真相を究明すべく、両親は姉とボクに事情を聞いた。
残念ながら。ボクはその問題に大きく関与していた。
「それならボクが飲んだよ」。
「へっ?」。両親は驚いた。「GIN、お前カルピスをどうやって飲んだの?」。
両親の問いかけに対し、ボクはことのなりゆきをありのままに話した。カルピスとコップを居間に持ってきて、実況見分だ。
その過程で、ボクはある大きな間違いをおかしていたことに気がついた。
ボクは・・・。
ボクは、カルピスを原液のまま飲んでいたのだ。
「う〜む、そうか。どうりで濃いと思った」。
ボクも両親も納得した。全ての謎が一気に解明できて、ボクら家族は皆ほっとした。
翻って考えてみるに。
ボクの味覚は、幼い頃からかなりぶっ壊れていた。
だって、カルピス原液吸入事件の前にボクが飲み干したのは、母親の香水だったから。
随分いい匂いがする飲み物だな。
そう思ってボクは母の香水を飲み干した。
それも、家族中の問題になった。
母親はいろんな意味で悲鳴をあげた。
でも、父親は冷静だった。冷静で、懸命で、決然としていた。
「GINに水を飲ませろ!」。
ボクは、水をがぶ飲みさせられた。それはそれは驚くほどの量の水だった。
母の香水。
オーデコロン・・・eau de Cologne。
コローニュ地方(ケルン)の水。
なんだい、なんだい。もともと水じゃねーか。しかも、ドイツのコローニュ地方(ケルン)の人たちはみんなこれを飲んでるんだろ!!
な〜んてことはまだあの頃は言えなかった。だって子供だったから。
その後、あまりの量の水をがぶ飲みしたことによって目が回ったボクを前にして、両親は誓った。
「GINは、もっと見張らないと危ない」。
ご飯に牛乳をかけて食べるボクの身に、安心安全で平和な社会を提供する義務を。
その時両親は強く感じた。
そうした重大な事件でもあった。