大学を卒業した後、ボクは旅行会社に就職した。

そこで、平日は営業マン。多くの土日は添乗に出かけた。

いろいろなことが起こった。

まず最初の出来事は、東京ディズニーランドにお客さんを置き去りにしたことだった。

吉田拓郎さんの歌にあったね♪

「おきざりにした悲しみは・・・」いい曲だった。

でもボクがおきざりにしたお客様は悲しみを通り越して、怒っていた。

人の感情は単純ではないのだ。

主体の意図は悲しんでいるのに、受け手側の反応は怒りに包まれている。

世の中は複雑だなぁと感じた。



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その後、ボクは天橋立にも酔っ払いのお客様を置き去りにした。

那覇空港にも一人。

ボクは、おきざりにした悲しみをたくさん味わった。

伊豆に向かうはずのおばあちゃんを、京都に連れて行ってしまったこともある。

ツアーバスで添乗した時、伊豆へのツアー客のおばあちゃんを間違えて京都行きのバスに乗せてしまったのだ。

人生はわからない。自分が求めている結果を、いつだって確実に得られるわけじゃない。

でも、おばあちゃんは怒らなかった。むしろ、京都旅行を楽しまれた。

その前向きで、清々しい姿のおばあちゃんにボクは感動した。そして、添乗の醍醐味を新たに知った。えへへ。

 

しばらくして。

ボクは惜しまれながら、旅行会社を去ることになる。

宴会の隠し芸では、拍手喝采を浴びたボクだけど。

同期社員の中でも、トップクラスの売り上げを誇ったボクだけど。

残念ながら、やりたい仕事を見つけてしまったのだ。

若かったから。

人生の方向転換に、ためらいはなかった。むしろ・・・。

周囲の人たちの方が心配をしてくれた。

会社を辞めることが、今よりずっとずっと重大事な頃だったから。

20代。多くの人が激動だったのかもしれない。そして、それが落ち着いて、だんだん人は本物の大人になっていく。

ボクもこの歳になって、ようやく少しは大人になったなぁと感じる。