生活レベル5ランクダウン。 | Kuroのカナダ旅行記

生活レベル5ランクダウン。

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早朝、誰かが窓をコツコツ叩く音で目が覚めた。
コインランドリーから盗んできた毛布で作った即席のブラインドを開けて窓の外を見ると、巨大なカモメが目の前にいた。
カモメは昨晩僕が窓辺に置いて冷やしておいたパンの袋をくちばしで引っ張ってる。
冗談じゃない。
僕は両手を大きく広げて「ガオーーーッ!」と叫び、威嚇した。
人間慣れしているのだろうか、まったく逃げる気配がない。
僕も必死でパンを引っ張り、数秒間綱引き状態になった。
さすがに人間の力には勝てないと思ったカモメは一目散に向こうへ飛び去った。
アニメかよ。
もう一度寝ようとすると、今度は洗面台から巨大なピアノを引きずるくらいにデカい音が鳴り響き、再び飛び起きた。
とても2度寝できるような状態じゃない。
轟音が鳴り響く中、僕はベッドの上であお向けになり昨日の出来事を思い出していた。


昨日僕はずっと住んでいたホームステイ先を出て、中心街にダウンタウンに引っ越してきた。
家から職場までの距離があまりに遠いため、中心街に引っ越す必要があったからだ。

ステイ先のオーナーと別れの挨拶を交わしたあと、既に部屋の料金を払ってある引っ越し先のホテルにでかい荷物を運んだ。
この超ボロホテル、月$360と超破格な安さなのだが(普通この場所で一人部屋を借りるとなると、$600~$700はかかる)、価格相応なクソ物件だ。

まず全体的にむちゃくちゃボロい。
天井の至るところが崩れかけている。

そして周りの住民がうるさい。
廊下を歩いていると、至るところからクラブ並みの巨大なヒップホップがガンガン流れてくる。

電気があまり使えない。
ポットとトースターを一緒に使うなどの行為をするとブレーカーが落ちる。

などなど、クレームを言い出したらキリがないくらいの閑静な住宅だ。

早速荷物を部屋に置こうと、受付のアラブ人に部屋の鍵をくれというと、「その部屋はまだクリーニング中なんだ。ほかの部屋を使ってくれ」と言われた。
...えっ?この野郎はなにをサラッとぬかしているんだ?
1週間前に金を払ったのにまだ部屋を用意できていない?
「いつクリーニングは終わるんだ?」
と聞くと、
「わからない」というアッチョンブリケな答えを残し、向こう側へ歩いていった。
さすがにちょっとムカっとして、机をバンッと叩いて、
「じゃあ俺はどこに行けばいいんだ!?」
と怒鳴ると、向こうからそのfuckin'アラブ人は平然と歩いてきて、
「この部屋を使ってくれ」
と言い、まったく別の部屋のキーを渡して、どこかへ去っていってしまった。
僕は小学生並みに
「死ねっ!」
と叫んだ。

当然日本語でだ。

怖いからだ。

しばらく一人ぼっちになって途方にくれてしまったが、ヨロヨロと歩き始め、渡されたルームキーの番号の階までエレベーターで行こうと思った。
エレベーターに乗り、「閉」のボタンを押そうとしたが、ボタンが無くなってて空洞になっていた。
その空洞に指を入れたが、案の定指先にはなんの感触もなかった。
その途端とても空しくなり、大きなため息を一つついた。
すると、エレベーターのドアは「ゴゴゴゴゴッ...」という音とともにゆっくりと閉まった。
このエレベーターはため息に反応するのか、とか考えて、さらに空しくなった。

渡されたキーの部屋は結構広い部屋だった。
大きな荷物を運んだせいでかなり疲れていたため、荷物をそのままにして同じフロアに住む友達の部屋へ行った。


話は変わるが、このホテルには友達が3人住んでいる。
一人は井野ヒロ君。
スケートボードパークで知り合った彼は、以前ヨーロッパに3年間住んでおり、現在はカナダで暮らしている。
英語堪能。カナダ人のべっぴんさんと付き合っている、なんともうらやましい男だ。
こないだ日本に帰国する予定だったが、飛行機に乗り遅れてしまったらしく、結局「このままカナダに残ります」といい、このホテルに引っ越してきたクールガイだ。

そして船橋はるぴょん。
同じくスケートパークで知り合った彼は、スケーターの間では相当有名な存在であり、僕も会う以前から雑誌やDVDなどで何度もお目にかかっていた。
僕と同じジャパニーズレストランで働き、夜は大好きなアニメを没頭している。
彼の部屋には日の出まで明かりが電気が灯っている。
いったい何時に寝ているのだろうか。

そして最後にタイラン。
ドイツ人の彼とははるぴょんを通して知り合った。
英語がよくわからない僕に対する配慮なのか、とてもわかりやすい英語で会話してくれるので、話していると非常に英語の勉強になる。
僕と同じ26歳で、ソムリエやパティシエ、レストラン経営の資格などを持ち、料理に精通している。


同じフロアに住むはるぴょんの部屋に行った。
引っ越してきて10分ですでに他に引っ越しを考えていた僕に、はるぴょんは
「すぐ慣れますよ。」
と言った。彼の部屋はきれいに整頓されており、限られた部屋のワット数をうまく活用している。
一見タコ足配線になっているコンセントも、よくよく見ると、うまく低電力の電化製品だけを繋ぎあわせている。
「とりあえずラーメンでも食いますか?」
と言った彼は、手馴れた感じで間接照明の電気スタンドの明かりを消し、変わりにポットのスイッチを付けた。
両方一気につけると電力オーバーでショートする恐れがあるからだ。
しかも彼が取り出したラーメンは、お湯を注いで3分とかのタイプではなく、鍋で沸騰させて麺をゆでるタイプのインスタントラーメンだ。
どうやって食べるのか観察していると、彼はさっそうとタッパーを取り出し、その中にお湯と麺をいれ、ふたをした。
「こうやると食えるようになるんですよ。」
と、髪をかきあげながら言った。

かっこいい。

こういう先人の知恵は大事にしていかなければいけない、と思った。
部屋の壁にはたくさんスケート雑誌のスクラップが貼ってある。
僕も早く自分の部屋に生活感を出したい、と思った。

腹も満たされ、自分の部屋に戻った。
とりあえずシャワーを浴びよう。
以前はるぴょんから聞いた、うんこが落ちていたシャワー室を避け、別のシャワー室に入った。
シャワー室の天井は今にも崩れ落ちてきそうで、シャワーを浴びるのさえ命がけだ。
部屋に戻って髪を乾かすためにドライヤーのスイッチを付けた。

すると突然「プツンッ...」という音とともにドライヤーと部屋の明かりが消えた。
やばいっ!!!
そうだった!!!
ドライヤーの消費電力が凄まじいことをこの時初めて思い出した。
部屋の電気を慌ててカチカチとやってみたが、電気が灯く気配はまったくない。
慌てて部屋のドアを開けると、廊下もなぜか真っ暗になっており、変わりに非常灯の薄暗い明かりが静かに灯っていた。

しばらくするとホテルのセキュリティらしい2人が廊下のブレーカーの場所に来て、修理し始めた。
「今日中に電気は復旧するのか?」
と聞いたら、
「わからない」
と答えた。
どうやらこのホテルは区画ごとに最大電力が決まっており、それを超えると区画全体の電力がストップするようだ。
なんて環境にやさしいホテルだ。
「誰かが高電圧の電化製品を使ったらしい。お前ヒーターとか使わなかったか?」
と言われたが、
「いや、使っていない」
と答えた。
こんな巨大な黒人さんに本当のことを話そうものなら、きっとつまみだされてしまうと思ったからだ。
僕はその日携帯の明かりだけで過ごした。

寝る前にちょっと泣きそうになった。


それが昨日起きた出来事だ。
ちなみに今朝になっても電気は復旧していない。
ブレーカーを直すのはそんなに難しいことなのだろうか。
眠い目をこすって仕事の支度をし、部屋を後にした。
二度と戻ってきたくない、と思った。




以上が引っ越した日の日記です。今はすでに当初入る予定だった部屋に移り、部屋を掃除し、家具の配置を変え、前よりましな生活を送っています。

引っ越してからそろそろ10日目を迎えます。

こないだろうそくの火を灯けていたら、火災報知機が無駄に感知して、深夜にもかかわらずとんでもない音量のサイレンが鳴り響きました。

世界屈指のクソホテルですが、この先もなんとかはるぴょんとヒロ君、タイランと共に笑いながら過ごしていけたらな~っと思っております。


時々上のフロアからゴミや家電が降ってくるので、窓から身を乗り出す危険性を知りました。

あのカモメはまだ来ます。

最近のバンクーバーは一段と冷え込んできました。

スケートの撮影はすごい順調で、はるぴょんのパート分の映像はもう少ししたら撮り溜まりそうです。
ただ彼は自分に対してものすごくストイックで、ちょっとでも自分が気に入らないと、
「この映像は本編では使わないで、セカンドフッテージにしてください」
という。
アツい男だ。
今後公開していく映像はセカンドフッテージを中心としていきます。(それでも充分見ごたえあります!)
明日あたりパソコンを買って編集できるようになるので、楽しみにしておいてくださいねん(^^)