大通り沿いの歩道を歩いていると、前からきたママチャリがボクの前で急停車。
満面の笑みをむけてきたのは、60歳前後の女性でした。
「どうも~。ときどき犬のところにくる人ですよね?」
急に声をかけられ、
「あ、は、はい?」
とボク。
「ぬか漬け、食べますか?」
「はい?」
「ぬか漬け。みんなにあげようと思って、たくさん持ってきたんですよ。ひとつどうぞ」
「あ、え? そ、そんな、お気づかいなく……」
「いっぱいありますから、どうぞどうぞ!」
「は、はい。そ、それじゃ、いただきます……」
話しているうちに、目の前の女性が「犬の集まり」の中にいる誰かだろう、ということはぼんやりと想像できました。
ボクはときどき、近所にある八幡宮の裏手をテクテク散歩しています。
そこは、愛犬家の方々が愛するワンちゃんを連れて集まっている、知る人ぞ知る地元のワンワン・スポットなのです。
ボクは、犬を飼っていません(ペット不可の賃貸物件に住んでいますので……)。
愛犬を連れているワケでもないのに、ちょくちょく通るので、いつの間にか顔馴染みとなり、ときどき声をかけてもらったり、犬をナデナデさせてもらったりするようになりました。
ぬか漬けの女性も、おそらくその中のひとりなのでしょう。
が、デレデレと犬ばかり見ているボクですから、飼い主さんのお顔までは覚えていません。
ぼんやりと、「もしかしたら、いらっしゃったかも……」という程度です。
飼い主さんは10人以上。
ワンちゃんは10匹以上。
集まっているメンバーさんやワンちゃんたちも、常連組なら記憶しているのですが、ときどき参加組はさすがに記憶の映像がぼやけてしまいます。
しかしながら、道端で親しげに話しかけられ、ビニール袋に小分けしたぬか漬けを頂くなんて経験は、都会ではなかなかできません。
ぬか漬け入りのビニールをさげると、足どりが軽くなるという経験も、新鮮でした。