夕方、仕事が終わったあと、家から徒歩5、6分の場所にある公園へ散歩にいきました。
日曜なので、ほとんど葉桜になっているにも関わらず、大勢の花見客で賑わっています。
人が少ないとろを選んだため、普段はあまり通らない公園の隅を歩くことに。
そこで、公園に面した民家から、ずっと吠え続けているワンちゃんが……。
ぶんぶん尻尾を振りながら、ワンワン、というよりもギャンギャン吠え続けています。
ボクが近づくと、門の内側を走りはじめたため、しばらく眺めていました。
ボクの実家も犬を飼っています。猫もいます。
動物は大好きです(攻撃的ではない、という条件付きで……)。
30秒ほど眺めていると、ひとりのご婦人が歩み寄ってきました。
60代前半、くらいでしょうか。
「この子、たぶん噛まないから安心してね」とニッコリ。
たぶん、って……。
「この子、ナミエマチの知り合いからもらったの……」
「そうなんでうかぁ、ナミエマチの、お知り合いから……って、ナミエ、マチってあの浪江町ですか?」
「そう、あの浪江町」
ご婦人の言葉が、いまでも頭に残っています。
「この子、九死に一生を得たのよね。人間の言葉を話せたら、いろいろ言いたいことがあるでしょうに」
ニュースで聞いていただけの浪江町。
ボクはただ、その町の名前を「知っていた」だけでした。
大変だな。
もしボクの実家が、避難区域に指定されたら……。
子犬や子猫の頃から育てているペットたちが、何カ月も置き去りにされたら……。
といった程度にしか考えていませんでした。
しばらく、そのワンちゃんを眺めていました。
「あの浪江町、ですか?」
「そう、あの浪江町」
これで通じてしまう現実に気づいたとき、ちょっと怖くなりました。
いまも、いろいろ続いています。
いろいろ、心に留めておきたいです。
いろいろ、忘れたくないです。
ワンちゃんは、ずっと吠え続けていました。