居れない、もう二度と①☆
この日が終われば
魔法は解ける。
二人の間には、ゆらゆらと揺れるロウソク。真っ暗な中にオレンジ色の小さな光だけが
私たちを照らしていた。
「俺たちらしいから」って選んだケーキは、普通のホールケーキより一回り小さくて安っぽいもの。
それでも良かった。
お互いに顔を寄せ合って、飽きるくらいにそのロウソクを見つめていた。
「あと10分だな」
腕時計をロウソクに近付けながら呟く。
「もう二十歳になるんだょ、私たち」
誕生日がお互いに同じで、毎年こうやって1つのロウソクを二人で消して静かに祝っていた。
そんな細やかな幸せも、きっと今年で最後になる。
何も知らない直樹は隣で「早すぎ」と笑った。
「なんだかんだ、ケンカばっかしてた気がする。ホラ、お前がくだらない事に突っ掛かってくるから」
「言い返してくる、そっちにも責任があると思うけどなぁ」
洗濯機を回して、セーターを縮められたり。目覚ましをセットしてなかったり。焼き肉に行った時も
「俺(私)が育ててたの食べた!?」
って小学生みたいに。
「本物に子供だよな、俺たち」
そう、言いながらも頬が弛んでいるのは声を聞いただけでわかった。
「仲直りなんて、したことなかった。自然と忘れて普通に話してたりしてたな。」
「うそ、そっちが謝ってばっかだったくせに。」
「謝ってくれないから、謝ってあげたんだよ。俺よりお子ちゃまなんだからさ♪」
「誰が見てもお互い様だと思う。……ん、今何時?」
ロウソクの炎を頼りに直樹がまた、腕時計で確認する。
お互いの肩が触れて胸の鼓動が早くなるのを感じて、改めてまだ子供だなって一人で笑った。
でもそれは、すぐに淋しさへと変わる。
「あと1分だよ」
あと1分。私たちに残された時間はたったそれだけ。数十秒後には二十歳になり、一人の大人になり、そして…
「俺たち、もう子供じゃいられないよな」
「ん?」
不意に落ち着いたトーンになり、優しく頭を撫でてくる。私は思わず首を竦め、猫のように目を細める。
直樹の大きな手が、ゆっくり降りてきて頬に触れる。
今までに見たこともない表情をしてた。
真剣で、私の目をじっと見つめていて、それでいて優しくて…
…綺麗だった。
「俺と結婚して下さい」
その瞬間、ピピピッと深夜0時を告げるアラームが鳴り響く。
私たちは二十歳になった。
それまでの表情とは一転、直樹はいたずらっぽく笑い私にデコピンした。
「お誕生日おめでとう、
ずっと、ずっと大好きな人。
…と、俺♪」
フッと炎が吹き消され、目の前の笑顔が一瞬にして消え去った。
私が最後に見た笑顔は
照れ臭そうで、恥ずかしそうで、
とっても…
幸せそうだった。