この映画も見開きのチラシの中からリストアップした18作品の一つです。

「妻は告白する」

 

チラシにどう書かれていたかというと

殺人か自己防衛か?

人妻の微妙な心理を抉った衝撃の人間ドラマ

岸壁の遭難事故で、ザイルを切って夫を落下させた妻(若尾)が裁判にかけられ・・・。

若尾がスターから演技派女優へ、少女から大人の女性へと変貌する転機となった、既存のモラルを激しく揺さぶる増村最高傑作のひとつ。

 

この映画祭のはじめに観た「祇園囃子」から8年あとの作品です。

その作品のことを書いた記事ではワタクシ若尾文子さんのことはほとんど書いていません。あの映画は木暮美千代さんと浪花千栄子さんの演技が見どころだと思いました。

もちろん、その二人の女優さんで霞んでしまうことのない存在感がしっかりあるから若尾文子さんはスターだったのですね。

 

 

さて、チラシの宣伝文は嘘ではありませんでした。

楽しい話でもないし美しい心映えが描かれているわけでもありませんが、若尾文子さん演ずる彩子の存在感がありました。確かに傑作だと思います。

 

 

画像はamazonのDVD商品のものです。

 

あらすじはムービーウォーカー プレス(サービス名が変わりました)さんからのコピーです

 

初夏のある日、北穂高滝谷の、第一尾根岩壁にしがみついていた、

三人のパーティの一人が足を滑らせて転落、ザイルで結ばれていた真中の女も、引きずられて宙吊になった。最後部の男によって辛うじて支えられたが、宙吊の男が、近くの岩に飛びつこうと体を揺らせ始めたので、重みに耐えかねた男は絶叫し、その手から血がふき出していた。その時女はナイフで自分の下のザイルを切った。男は落下し、女は引き上げられた。

 

死んだのは女の夫で大学の薬学の助教授滝川、もう一人は、愛人の幸田だった。

妻滝川彩子は告発されて法廷に立った。彩子が幸田と情を通じていた事、夫に五百万円の生命保険がかかっていることをもとに、検事は有罪を主張し、弁護士は殺意を持っていなかった点、自分の生命を守るためのやむを得ぬ行為という点から、無罪を主張した。

 

夫の死体を引きとる時にも涙一つ見せない彩子は、性格のきつい女だった。

幸田を愛していた婚約者理恵は、この事件で幸田の愛情を疑い始め、裁判中というのに秘かに二人が逢っているのを見て絶望的になった。

戦災孤児で親戚にひきとられていた彩子は、薬剤師を目ざして勉学する傍ら、滝川の雑用をしていたが、過労と栄養失調で自殺も考えたほどだ。そんな彩子を滝川が拾うように結婚した。子供が出来ても生ませない、便利で安上りの家政婦のような生活に、離婚を迫った時もあったが、彼は逆に一生飼殺しにして自由を奪ってやる、と広言したのだ。

 

そんな時滝川に連絡に来ていた製薬会社社員幸田と知り合った。

幸田が滝川に保険を勧めた時、二人の関係に気づいていて自分の収入の半分もの金を掛けたのは、生活費を減らして彩子を苦しめるという、彼らしいやり方だったのだ。

判決は無罪だった。

杉山弁護士の奔走によって二人の間柄はこくめいになっていった。

二人は互に愛情を持っていったが、体の関係は持っていなかった。彩子の方が、幸田に積極的だったのだ。ザイルを切り離したのは、殺意ではなく幸田を救おうとしたためというのだ。幸田は彩子との結婚を心にきめたが、噂を嫌った彩子はアパートに越した。幸田は汚なくても自分の所に住もうと口論した。

 

「あの時本当に分ったわ、私が愛していたのはあなたなのよ」この言葉に驚いた幸田は大阪への転勤を申し出、受理された。幸田は彩子との結婚に危惧を抱いたのだ。

出発の日、やせ細った彩子が幸田を社へ訪れた。結婚を哀願しても冷くされ、彼女は玄関先で毒をのんで倒れた。遺留品の中に幸田が受取人の五百万円の小切手があった。医務室の外にいた理恵は吐き出すように幸田に言った。「奥さんを殺したのはあなたよ、奥さんが人殺しならあなたも人殺しよ」。

 

この映画は1961年の作品です。ほぼ60年前。

映画をほぼ1週間たって思い出そうとすると浮かんでくる裁判所でのシーン、大学の研究室(狭い)で大学助教授に襲われてしまうシーン、裁判結審の前の日に(弁護士から会うなと言われているのに)彩子と幸田が二人きりの砂浜を走って遊ぶシーン。彩子と夫の住まいや幸田のアパートもなんとも貧しい住宅で、どれもこれも今の自分からはけっこう違和感のある部分が多いです。

 

裁判官は偉そうにしているし、検事(2枚目の画像の高松英雄さん)は彩子を有罪と決めつけて責めて執拗に自白を迫りますし、夫である大学助教授を演じた沢栄太郎の厭らしさは天下一品でした。60年前ってこんな時代だったのでしょうね。

今どきの男性は見た目が若いし、優しいわ・・・・・映画を観ていて実感しました。ただし、今どきの男性のほうが魅力的、と話が繋がっていくわけではありません。

ですが、裁判シーンをみているとき、現代の、たまにニュースで映る裁判官や、その場所の明るさが頭に浮かびました。

 

あらすじにあるように、彩子は無罪判決をえましたが、物語の結末は悲しいものでした。

プロポーズしてくれていた幸田と一緒に暮らすアパートを夫の死亡保険金を使って広くてきれいなところを借りたことがきっかけて彼と口論のようなことになり、事故のときの自分の気持ちを口にしたことから彼女の人生が破綻してしまいます。それを聞いた瞬間から、自分を愛して守ってくれるはずの幸田が急に冷たくなってしまいます。

このあたりの幸田を見ていると、熱血漢だと思っていた人が急に薄っぺらな正義感だけの人に変わってしまって、あれれ?・・・・です

 

彩子が今の時代に生きる女性だったら、捨てられてもたくましく立ち直っていくだろうになぁ・・・・・

と思いながらも、若尾文子さん演じるヒロインにはしっかりした存在感がありました。

悲しいストーリーではありましたが、本来であれば敵の立場の幸田の元婚約者がすべてを見通して彼の愛情の薄さを指摘する場面で、観ているワタクシの気持ちは晴れました。

 

by マヌカン☆