冬から春になるあの瞬間が嫌いだ
空気の匂いも日差しの色も
街の人々の雰囲気も表情も
春ならではの食べ物も
春ならではの行事も
卒業式も春休みも入学式も
出会いも別れも自己紹介も
その全てが嫌いで仕方がない
生ぬるく中途半端に心が揺さぶられ
パワーがあるんだかないんだかわからない春が嫌いだ。
人々の大多数は、春が好きだ。
物理的な別れと出会いにかこつけて
気温の変化に伴う衣替えにかこつけて
新年度、新学期にかこつけて
いろんなものをなかったことにして
ぐちゃぐちゃになってたものを
ぐちゃぐちゃなまま高温で溶かして
スッキリしたふりをして
ニセモノの新しい日々を始めていく。
だから春が嫌いだ。
何にもなかったことになんてならない、
高温で溶かしても融解し切らなかった小さな黒焦げの塊が
世界の片隅に放り投げられる
その塊にはわたしもいる
苦い思い出がある
貸した本、待ってた言葉、
来るはずだった約束を
春にかこつけてなかったことにしようとしたって
そうはいかないんだから。
悲しいことも胸の締めつけも
傷つけられたことも傷つけたことも
見てたはずの夢も、途中だった努力も
全部春のせいにして忘れていく
春がそうさせるだけであって、
僕は、わたしは、そんな薄情者じゃありませんって顔して
いとも簡単に切り替えて裏切っていく
その些細な揺れを、衝突を、
感じてしまうから、春は大嫌いだ。