第二部「地上最強の傭兵が異世界を行く-2-14-51」 | pegasusnotsubasa3383のブログ

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「魔族の子供クリア」

 ゼロとマーカスは暁のダンジョンの町ローテンを離れたがその事は特に冒険者ギルドのギルドマスターには告げなかった。その内グレノフ達から知らせが入ると思っていたので。

 町を離れてしばらくしてゼロは森の方に向かった。

「おいゼロ、街道はこっちだぞ。森に入るのか」

ゼロは森に少し入った辺りで、
「マーカス、お前棒手裏剣持ってるよな。一本貸してくれ」
「あるけど、そんな物なんにするんだ」

 そう言ってマーカスは一本の棒手裏剣をゼロに渡した。この棒手裏剣もまたその投げ方もゼロが教えた。

 ゼロはその手裏剣を手にすると後ろも見ずに投げた。するとその手裏剣はかなり離れた木の幹に突き刺さった。その手裏剣はリスのような動物の頭の上1ミリの所に刺さっていた。

「動くな、今度動いたら心臓を一刺しだ」

わわわわと言ってそのリスは固まってしまった。

「おい、何でリスがしゃべってんだ」
「そいつはリスじゃない。魔物か?いや違うな。お前は何だ。そして何で俺達の後をつけている」
「えっ、こいつ俺達の後をつけてたの。知らなかった」

 ゼロが近づいて正面に立つとそのリスは震えながら頭を地面に擦り付けて土下座の様な格好をしていた。

「お前は何だ」
「は、はい。僕はクリヤと言います。すみません。すみません。すみません」
「わかった。もう謝らなくていい。で、お前は何だ」
「あのー僕殺されちゃうんですか」
「殺さないからしゃべれ」
「僕は魔族です」
「何、魔族だ。リスが魔族なのか」とマーカスが言った。

「いえ、リスじゃないです。あのー擬態魔法を解いていいですか」
「ほー擬態魔法を使っていたのか、いいぞ解いて」
 擬態魔法を解いたリスは10歳くらいの男の子になった。

「何で魔族がリスの格好なんかしていた」
「その方が見つからないでつけられると思ったから。でもだめでしたよね。ぐすん」
「何だそれは。何で俺達をつけてるんだ」
「それは・・何となくと言うか」
「殺すぞ、ガキ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
「マーカス、もう脅すな。うるさいわ」

「確かお前、俺達があのダンジョンで悪魔人と会ってた時からつけてたよな」
「わかっちゃってたんですか僕の事。わーそれってすごいです。今まで誰にもばれたことなかったのに」
「確かにお前の隠形魔法は完璧だったよ」
「でしょう。でしょう。えへん」
「だが完璧過ぎた」

 ゼロも隠形の法を使う。しかしゼロの隠形とこのクリアの隠形には決定的な違いがあった。

 それはクリアのそれは完全に自分自身を滅してしまう隠形だった。だがゼロの隠形は姿をかくして周りの自然の中に溶け込む。だから気配も悟られない。しかしムリアのは気配のない空間を悟られてしまうのだ。

「なんでなんでですか、それってずるいじゃないですか」
 そこでゼロからゴチンと拳骨をもらった。

「うえーん、痛いですー」
「うるさい。それで何故俺をつけたか言ってみろ」
「あのーもしかしたら僕のお兄様に辿り着けるかもしれないと思って」
「お前の兄って誰だ」

「僕のお兄様はアスルって言うんですけどすごく強いんです」
「それと俺とどう言う関係がある」
「だって貴方は悪魔人の事を知ってたじゃないですか。あれって悪魔と魔人だから、魔人の事も知ってるのかなと思って」

「悪いな、あの悪魔人の事は聞いた事があったが魔人は知らん。いや、一人いたか。スレイヤーズと言う町で大武術大会があって、そこで準々決勝で戦ってたやつが確か魔人だったと思う」
「それ、それきっと僕のお兄様です。それで今何処にいるんですか」
「知らん」
「知らんって冷たいじゃないですか。教えてくださいよ」
「知らんものは知らん。かってに探せ」

「勝手に探せって冷たいじゃないですか。じゃ僕勝手について行きますから」
「ガキ、ゼロは知らんと言ってるだろ。だから消えろ」
「リスは何処に行くのも自由ですから僕勝手に自由します」
「リスの丸焼きって旨いのか、ゼロ」

「あっ、あっ、動物虐待者だ。貴方だって動物のくせに」
「何だと何で俺が動物なんだ」
「だって貴方は虎獣人なんでしょう」
「何だと、何で知ってる」
「わかりますよ。獣人の匂いくらい」
「なぁ、ゼロ。俺ってそんなに匂うか」
「そう言う意味の匂いではないと思うぞ。こいつが言ってるのは」

 ゼロはこの時、この子供の能力を大まかに把握していた。そしてもしかするとこれは使えるかも知れないと思った。

「お前が勝手について来るのを邪魔しようとは思わん」
「わーそれって僕はもう仲間って事ですよね」
「馬鹿かお前は、そこまでは言っとらんだろう」
 とマーカスはこの少年の厚かましさにあきれていた。

 そう言う事があってこの少年クリアはゼロ達の旅に同行する事になった。

「おいガキ、何で俺の頭の上に乗ってんだ」
「だってその方が足手まといにならなくていいじゃないですか」
「そう言う問題か。降りろ」
「またそんな同族嫌悪みたいな事を」
「何が同族嫌悪だ。串焼きにするぞ」

 そう言われたクリアはちょっと肩をすくめて今度はマーカスの肩に乗った。「おい」と言ったが足元をリスに纏わりつかれるよりはましかとマーカスは諦めた。

 街道の途中で立ち止まった宿では小さなリスだったので特に文句も言われずにクリアも同室していた。そして食事の時も傍にいて一緒に食べていたが別に何も言われなかった。

「お前、結構図々しい奴だな。ただ乗りにただ食いかよ」
「僕は子供ですから」
「都合の良い時だけ子供かよ。親の顔が見たいもんだ」
「見ますか」
「いらんわ」

 マーカスとクリアは口ではいつもこんな調子だがそれなりに仲良くやっていた。3人だけの時にゼロはこんな事を聞いた。

「お前は前に自分の事を魔族だと言ったが、それは魔人とは違うのか」
「基本的には同じです。魔族は属名で魔人は種族名です。獣族が獣人であるように」
「では人間は人族と言う事か」
「そうですね。でも人間はこの世界で一番多いので種族名は略して人と言うようです」

 なるほど、では人は人族でもいいのかとゼロは思った。今の地球ではまず呼ばない属名だ。そもそも言葉を話す他種族など地球にはいないのだから当たり前だ。

「この人間の国に殆ど魔族がいないのはどう言う事だ」
「それはですね、大体500年前に人間と魔王様との間に大戦争がありまして僕達魔族の多くが魔王様側についたんです。それを勇者様に魔王様と一緒に滅ぼされてそれ以来魔族は人間の敵になっているんです」
「事実なんだろう」
「そうですね、事実半分、嘘半分と言う所ですかね」
「どう言う事だ」

「みんながみんな魔王様についた訳じゃないんです。魔王様を嫌って敵対した魔族もいましたし、どちらにもつきたくないと言う者達もいたんです。でも当時の魔族の王様は魔王様の崇拝者でしたので多くの魔族が魔王様側について人間と戦ったんです。それ以来魔族は今でも人間の敵になってます。だから僕達魔族は人間の前に出ると殺されるんです。それで生き残った魔族は人間に見つからない様に隠れて住んでるんです」
「つまりお前のように人間に敵対しない魔族もいると言う事か」
「はいです。でも怖いから正体を隠さないといけないんですけどね」
「おい、それは本当かよ。俺の聞いた話とは大分違うな」
「まぁ戦争の真実なんてみんなそんなもんだ。事実や歴史は勝者が作り上げるからな」

 ゼロはそう言うのを嫌と言うほど元の世界で見て来た。それに加担して闘った事も多くあった。

「まぁ言われてみればそうかも知れねーがよ」
 マーカスは少し考え込んでいた。

「しかしお前は子供のくせに良く知ってるな」
「はい、僕はお兄様のように武術が強くないのでその分誰にも負けない様に一生懸命勉強したんです」
「なるほどそれでこんなにこまっしゃくれているのか」
「それって酷くないですか。幼い子供心が傷つきます」
「ゴツン!」
 マーカスにゴツンとやられた。

「痛いです。同輩」
「うるさいわ。何が同輩だ。殺すぞ」

 ゼロはこのクリアが優れた知能や知識を持っている事は見抜いていたがそれだけではない事もわかっていた。それは魔法の能力だ。相当なレベルの魔法が使えるようだと理解していた。

 それからまた何日か旅を続けてクレニングスと言う町に到着した。ゼロ達は一旦こここで落ち着いてみようと言う事にした。

 宿を取り観光も含めて町を歩いてみた。しかしこの町は何となく寂れた感じがした。さほど小さな町ではないが町全体に活気がない。

 冒険者ギルドはある事はあったがここもまた覇気がない。この周囲に魔物は出るようだ。それなら冒険者の必要性もあるだろう。なのに何故か冒険者の数も少なく依頼の票も何日もそのままになってる物も多くあった。

 その点をゼロが受付で聞いてみると、どうやらこの町そのものが豊かではないので冒険者もあまり居着かないと言う事だった。

 冒険者も人だ、いくら依頼があっても住む所が豊かではなく面白味のない町ならその町で働きたいと言う気も失せるだろう。

 しかしとゼロは思った。人口もそれほど少なくなく冒険者への依頼もある。なのに何故この町には活気がない。

 ゼロ達が町を見て回ったら一応のものは揃ってる様だったが町の規模にしては数が少ない。特に飲食店や各種専門店、特に生活に密接する薬や医療所の数が極端に少ない。

 まして娯楽や夜の店ともなると皆無に近かった。この町の住人は娯楽を好まないのかと思える程だ。

 この町の主要産業は農業だと聞いた。そう言えば町の外側には大小の農園や果樹園が至る所にあった。

 だからこの町の住人の多くがそう言う所で仕事についているようだ。それはそれで何処にでもあるような農業地帯の町としては健全はあり方だろう。

 この町にある数少ない酒場で酒を飲みながら周囲の様子を見てみるとやはり酒場と言う雰囲気ではなかった。

 普通酒場はもっと賑やかで喧噪としているものだ。しかしここにはそれがない。まるでお通夜の時の通夜振るまいのような感じだった。

 近くにいた冒険者風の男に酒を奢ってそれとなく話を聞くと、この町は物凄く重税のきつい町だと言った。

 だから農園で働く者達は日々の生活が精一杯でとても遊ぶような余裕はないと言う。町の大半を占める人口の生活状態がそうなら確かに町も活気がなくなるだろう。

 ならこの男はどうしてこの町から離れないのかと聞くと、ここで生まれて家族もいるので離れられないらしい。

 そして冒険者をやっているのも家族の家計を助ける為だと言った。なるほどそれでは湿った酒にもなる訳だ。

 ただ彼が言うにはこの町には防壁の内側にもう一つ防壁があり、その中はこの町の重鎮や貴族、金持達が住んでいて一般の平民ではとても中には入れないらしい。

『ほー、もろテンプレみたいな所だな。一度行ってみるか』