9/22(金)、私は川崎市社協・川崎市が主催した「市民向け成年後見制度研修」に参加しました。

 

その時に寄せられた質疑応答について、ご紹介します。
※口頭で弁護士が質問文を読み、口頭で回答されたのをメモして文字に起こしたので、不完全な部分もあるかもしれません。

 もし問題がある場合は連絡をください。
※担当された弁護士は、2022年9月の「市民向け成年後見制度研修」と同じ、神奈川県弁護士会川崎支部)矢口 統一(もとかづ) 弁護士です。
※「→」で始まる文章は、私が勝手に補足した説明です。

事前に寄せられた質問より
質問1)
法定後見制度でかかる費用を教えてほしい。


弁護士の回答)
後見人が選任された後の費用については、講演で説明した通りです。


参考)成年後見人等の報酬額のめやす|横浜家庭裁判所
https://www.courts.go.jp/yokohama/vc-files/yokohama/file/seinenkoukenhousyuugaku230401.pdf


もし申立書類の作成を弁護士に頼んだら、現在は各弁護士さん毎に自由に価格設定して良いことになっているので、
各弁護士さんに問い合わせてみてください。
法テラス経由で頼んだ場合は、一定の収入額にもよりますが、15万円~20万円かかります。
法テラスの金額は一般より低額なので、実際はこの金額の1.5倍~2倍程度と考えると良いでしょう。
さらに、実費として戸籍謄本などを取り寄せる費用がかかります。

質問2)
後見人にはずっと報酬を毎月払い続けることになるのですか?


弁護士の回答)
毎月ではなく、年1回12か月分の報酬を、本人口座から引き出すことになります。
成年後見制度の利用は亡くなるまで一生続きますが、専門職がつくのは一生とは限りません。
後見人が交代することはあります。本人の状況が安定したら専門職から親族に変わることはあります。
親族が後見人になった場合も、私は親族に報酬申立てしてくださいねと言っていますが、
親族が報酬をもらわない場合もあります。
また、後見人が1人とは限りません。家族さんと弁護士の2人がつく場合もあります。
その場合の報酬は2倍まではかかりませんが、約1.5倍ぐらいになります。

→複数後見人になった場合、後見人が増えたという理由で後見人報酬が増えることはありません。
 成年後見人等が複数の場合には、分掌事務の内容に応じて、適宜の割合で按分された金額になります。

根拠)成年後見人等の報酬額のめやす|横浜家庭裁判所
https://www.courts.go.jp/yokohama/vc-files/yokohama/file/seinenkoukenhousyuugaku230401.pdf


質問3)
後見・保佐・補助の違いを教えてください。


弁護士の回答)
まず入口が違います。本人の症状により診断書の内容により、後見・保佐・補助かどうか決まります。
講演で説明した通り、同意権・代理権などの違いはありますが、
実際、やっていることは違わないです。ご本人の能力に応じて必要なことをやっています。

保佐・補助の方の場合は、在宅の方が多いですが、いろんなことをやっています。他の支援者と話す機会もあります。
話している中で、アレがない、コレがない、あったほうがいいよねということもあります。
亡くなった後の火葬・埋葬などの死後事務については、講演で説明した通り、法律上、成年後見人だけが認められていますが、
実際のところは、保佐・補助においても民法における事務管理(民法第697条)ということでやっています。

後見類型の場合は、法律上、本人申立てはできますが、家裁がなかなか認めてくれないので、
お医者さんに保佐類型で書いてもらって、なんでもできるようにしてもらうこともあります。

→医師が公務所に提出する診断書や死亡証明書などに虚偽の記載をした場合、刑法160条に定められている虚偽診断書等作成罪に問われる可能性があります。
→成年後見終了後の事務については,従前から応急処分(民法第874条において準用する第654条)等の規定が存在したものの、これにより成年後見人が行うことができる事務の範囲が必ずしも明確でなかったため,実務上,成年後見人が対応に苦慮する場合があるとの指摘がされていました。(法務省のホームページより引用)

→「なんでもできるようにしてもらう」とは、すべての行為に同意権、代理権を付けることだと思われます。

 同意権、代理権を付ける際には、家裁は本人と面談して確認しますので、認められるかは家裁次第です。


質問4)
保佐・補助・後見における本人意思確認の方法を教えてください。


弁護士の回答)
後見類型の場合は、必ずしも本人の同意は必要ではありません。
保佐・補助類型の場合は、申立ての場合、同意権の申立ての時に本人に同意を取ります。

→弁護士は「本人意思確認」と質問されたのに、同意の回答をしており、勘違いしていると思われます。
 なお、弁護士は講演の中で「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」があること、
 「本人の利益を保護し、人間らしい生活を維持できるように努める
 →自己決定権の尊重 (成年後見人の考えを押し付けることをしてはいけない)
 たとえば、本人がタバコを吸いたいと言ったら、健康に悪いから吸わせないのではなく、
 本人の希望を叶えてあげるのも成年後見人の仕事である」、という説明をしていました。

ここからは講演後に集められた質問です。(1人1問限定)
質問5)
後見人は、施設に入居する際に保証人になれないのですか?


弁護士の回答)
講演で説明したとおり、「身元保証人、身元引受人、入院保証人等」にはなれません。
私の場合は、施設との書類に署名するときは、「連帯保証人」に取り消し線を引いて
「成年後見人」と書いて、署名しています。
入居費用が払えなくなった場合、後見人が代わりに払ってあげることはできないこと、
払えなくならないようにきちんと財産管理することを説明して、理解してもらうようにしています。

質問6)
親の後見人に子がなることは可能ですか?相続がある場合は利益相反で無理ですか?


弁護士の回答)
無理ということはありません。例えば、親の後見人に子がなっている場合に相続が発生したら、
相続するときだけ利益相反になるので、特別代理人を立てる手続きが必要になります。

→解説すると・・・
 母親が認知症のため、子が成年後見人になっていたとします。
 この場合において、父親が亡くなると、母親と子が相続人になります。
 遺言が無い場合、母親と子の間で遺産分割協議を行い、どの財産をどっちがどれだけ相続するか決める必要がありますが、
 母親の成年後見人(法定代理人)に子がなっているため、母親の受け取る額を少なくして、子が受け取る額を多くすることができます。
 本来こういうことはしてはいけないので、こういう状態を「利益相反(りえきそうはん)」と言います。

 成年後見人が利益相反になる行為をしたい場合、監督人がいない場合は、家庭裁判所に「特別代理人の選任申立て」をして、
 相続人以外の第三者に、遺産分割協議だけを行う代理人(母親の代理人)になってもらいます。
 この場合の特別代理人は、相続人でなければ良いので、叔父さんや従兄弟などの親族を候補者にすることができます。
 特別代理人は、目的(遺産分割協議)が終われば、辞任します。

質問7)
法定後見の場合は、本人の財産が高額になれば専門職の後見人がつくし、少なければ親族が後見人になれる。
任意後見の場合は、本人の財産が多い/少ないに関わらず、必ず監督人がつく。この認識で合ってますか?


弁護士の回答)
まず、任意後見の場合は、必ず監督人をつけなければいけません。
法定後見の場合は、そういう傾向が強いということです。必ずそうなるとは限りません。

→弁護士さんの経験上、そういう感じがするということでしょう。
 私の場合は、母親の財産はたくさんありましたが、後見制度支援信託(※)の利用に承諾をしたので、
 後見制度支援信託の手続きが終わった後、私が成年後見人に選任されました。
 このように本人の財産が高額であっても、親族が後見人に選任されることもあります。

※後見制度支援信託・後見制度支援預貯金
 2012年に運用開始した仕組み。本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な(小口の)金銭(300万円程度)を預貯金として後見人が管理し、通常使用しない(大口の)金銭を信託銀行等に信託します。
 後見制度支援信託では、信託銀行の口座からお金を下すには家庭裁判所の指示書が必要なので、もし成年後見人が横領したとしても、日常的な支払用の小口口座だけで済みます。
 さらに2018年からは同様な仕組みで、信託銀行ではなく都銀・信組・ゆうちょ銀行などに預ける後見制度支援預貯金の運用も始まっています。
 後見制度支援信託・後見制度支援預貯金をどの金融機関にするかは、基本的に親族後見人が決めます。

※参考)後見制度支援信託等の利用状況等について|最高裁判所事務総局家庭局

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/20230531sintakugaikyou_R04.pdf


質問8)
親族が申立てをした場合、申立て費用を本人の預金から支出することは可能ですか?


弁護士の回答)
難しいでしょう。親族が弁護士等にお願いしたのだから、お願いした人が負担するのが当然だからです。
保佐・補助類型にして、本人申立てにしてもらえば、本人が負担することになります。
後見類型の場合は、本人申立ては家裁は消極的なので、まず認められないでしょう。
ただし、印紙代は全額、切手は使わなかった切手は戻ってきますが、本人負担とすることは可能です。

質問9)
入院・手術の承諾書は後見人は書けないのでしょうか?


弁護士の回答)
そうですね。できる限り、本人に署名してもらいます。
親族後見人の場合、親族後見人として署名することはダメですが、家族として署名することは可能です。

→医療法第一条の四の2で「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」という規定がありますので、患者本人に対して説明して理解をしてもらう努力義務があります(インフォームド・コンセント。しかし本人の代わりに家族に同意をもらっても良いという規定された法律はありません。

→「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人の意思の確認ができない場合、

①家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

②家族等が本人の意思を推定できない場合には、本人にとって何が最善であるかについて、本人に代わる者として家族等と十分に話し合い、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。時間の経過、心身の状態の変化、医学的評価の変更等に応じて、このプロセスを繰り返し行う。

③家族等がいない場合及び家族等が判断を医療・ケアチームに委ねる場合には、本人にとっての最善の方針をとることを基本とする。

④このプロセスにおいて話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくものとする。

と記載されています。

本人の意思を確認できない場合、家族に同意書のサインを求めるのは、このガイドラインに沿っているからです。


質問10)
後見監督人は何をするのでしょうか? 費用はどれぐらいかかるのでしょうか?


弁護士の回答)
監督人は後見人が悪いことをしないように、後見人を監督するのが仕事です。
監督人がついていない場合は、後見人は家裁に年1回報告すれば良いですが、
監督人がついている場合は、それに加え、後見人は監督人に年4回(3ヶ月に1度程度)報告することが必要になります。
かかる費用ですが、監督人も報酬を請求することができますので、後見人と同じぐらいの報酬です。大体、0.9掛けぐらいでしょう。

→監督人がついている場合は、後見人は監督人に報告を提出するだけで良く、後見人が家裁に報告する必要はありません。家裁への報告は、監督人から行います。
 また監督人の報酬は、「成年後見人等の報酬額のめやす|横浜家庭裁判所」で公表されている通りです。(後見人報酬の約90%ではありません)

→監督人への報告間隔は、監督人によって異なります。後見人が後見業務に慣れていない場合は、頻繁にチェックしますが、

 後見人が後見業務に慣れてきたら、半年に一度や年1回で良いという監督人もいます。

質問11)
通帳が無い場合でも申立てできますか?


弁護士の回答)
申立てする場合、すべての書類がそろっていなくても家裁は受け付けしてくれます。
ネット銀行の場合で、パスワード不明で明細が印刷できない場合などは、
後見人に選任された後に、法定代理人として通帳の再発行してもらってから、家裁に報告します。

質問12)
民法第858条で、成年被後見人の意思を尊重しなければいけないと規定されていますが、
矢口弁護士は、本人の意思を確認するために、月何回本人に対面で面会してくれますか?


弁護士の回答)
本人の状況によります。
2週間に1度会いに行く場合もあります。それは他の支援者とも相談して、そうしたほうが良いとなればそうしています。
在宅の場合だと、1,2ヶ月に1回というケースが多いです。施設の場合だと、半年に1回というケースもあります。
また、申立てに関与している場合なら、申立てる前にかなり頻繁に合って、本人のこれまでの生活状況を聞きだすようにしています。
申立てに関与していなくても、親族と会って確認する場合もあります。
申立て前に頻繁に会って本人の意思確認できれば、開始後は頻繁に会っていません。

→本人の意思は、状況や周りの環境によって変わります。

 「ピンピンコロリで死にたいから救急車は呼ばないでくれ」と言っていた人が、いざ呼吸困難になると苦しくて「救急車を呼んでくれ」と、言うことが変わったという話はよく聞きます。

 昔頻繁に会ったから、最近は頻繁に会わなくて良い(どうせ本人の意思は変わらないだろう)という考えは、間違っていると思います。

参考)認知症の人の日常生活・社会生活における 意思決定支援ガイドライン|厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000307503.pdf

 

質問13)
将来が不安で仕方ありません。とりあえず今日は何を覚えておけば良いでしょうか?


弁護士の回答)
本人意思を尊重する制度として任意後見があるということを考えてほしいです。詳しくは次回の講演にて説明します。
あとは、家族信託でも良いでしょう。

質問14)
本人が金銭管理ができない、高額のお金を使ってしまう場合なら、法定後見制度を利用可能でしょうか?


弁護士の回答)
法定後見は、知的障害・精神障害・認知症などの精神上の障害がある方が利用できますので、そういう診断書をもらえれば可能です。
精神上の障害がない、判断能力の低下と関係ない場合は無理です。

質問15)
親に成年後見制度を利用させたいと思っていますが、親本人はしっかりしているつもりです。対策を教えて下さい。


弁護士の回答)
保佐・補助類型の場合、本人の同意が必要となりますので、本人が利用に反対している場合は無理でしょう。
福祉関係の支援者と相談してみてください。本人の説得が必要でしょう。

質問16)
市民後見人になるにはどうしたら良いですか?


弁護士の回答)
川崎市では川崎市社会福祉協議会にて市民後見人の養成を行っています。
今年度は養成研修はありませんが、来年度以降に案内があると思います。

→川崎市市民後見人は、第1期(H25~H26年度)から第6期(R4~R5年度)まで養成されており、

 現在、約40名の方がバンク(家裁登載名簿)に登録されています。


質問17)
親の後見人になる方法を教えてください。


弁護士の回答)
成年後見制度が始まった当初は、9割は親族後見人が選任されていました。
しかし事件にならない横領が多かったので、これは親のお金は家族のお金だという認識から起きたと思われます。
成年後見制度を利用すると、親のお金と家族のお金を分けて管理しなければいけません。
親族後見人の横領が増えたので、専門職後見人が増えていますが、専門職だけでは制度が回らないということもあり、
最近は親族後見人も増えています。

本人の資産が多いと専門職が後見人になる傾向がありますし、利益相反があると専門職が後見人になりますし、
また親族間で対立があると専門職が後見人になります。
それ以外では親族後見人になるので、現状では約20%の方が親族後見人になっています。
どうすればなれるというより、消去法でこういう条件がなければ親族後見人になれると思います。

→親族後見人が選任された割合は、令和2年:19.7%、令和3年:19.8%でほんの少し増えましたが、
 令和4年:19・1%であり、減少傾向が続いています。
 矢口弁護士は、最新(令和4年)のデータ(成年後見関係事件の概況)をチェックしていない、というがわかります。
→親族が後見人になるためには、まず申立書の後見人候補者の欄に親族の氏名を記載する必要があります。
 次に親族間で対立が無いことを示すために、本人の推定相続人(本人が亡くなった時に相続人になる人)から
 同意書(親族の意見書)を書いてもらう必要があります。
 同意書の内容は、「本人が後見・保佐・補助を開始することに賛成するか」、「後見人候補者が後見人になることを承諾するか」です。
 同意書の内容に反対と記載された場合や、同意書の提出がない場合は、申立て面談で理由を聞かれますが、
 家庭裁判所は、申立人と家族で意見が異なるので、親族間で対立がある、と判断するでしょう。
→申立て全体のうち、親族後見人が選任されたケースは約20%(令和4年:19.1%)というのは合っていますが、
 この数字は、申立書の後見人候補者の欄に親族の名前が記載されていないケースも含まれています。
 申立書の後見人候補者の欄に親族後見人の名前が記載されているケースは、申立て全体の23.1%ありますので
 親族が後見人候補者になれば、19.1/23.1=0.83なので、約83%の確率で後見人に選任されたということになります。

参考)成年後見関係事件の概況-令和4年1月~12月-|最高裁判所事務総局家庭局
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/20230317koukengaikyou-r4.pdf

→親族が後見人候補者になっても後見人に選任されなかった残り17%の方は、弁護士の説明通り、
 ・親族間で対立があると判断された。(前述の同意書で反対された、申立時に親族の同意書を提出しなかった)
 ・本人の流動資産(預貯金・現金)がたくさんある。
  ※ただし本人の流動資産がたくさんあっても、前述の後見制度支援信託・預貯金の利用に承諾すれば、成年後見人に選任される場合もあります。
 ・親族が遠距離に住んでいる
  ※ただし私の様に遠距離介護していても、定期的に面会していれば成年後見人に選任される場合もあります。
 ・利益相反になる
  ※利益相反な状態が一時的であれば、利益相反の状態が終われば成年後見人に選任される可能性はあります。
 場合などが考えられます。

いかがでしたでしょうか?(^_^)