みなさんは、国連障害者権利条約をご存じでしょうか?
この条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置等について定める条約です。(外務省HPより)
日本は2014年1月に批准しているので、この条約を守る必要があります。
国連障害者権利条約は、
「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」
を合言葉に世界中の障害当事者が参加して作成されたのです。
締結国は、条約批准後2年後に、報告書を提出する必要があります。
→日本は2016年に政府報告書を提出しています。
さらに4年後に審査がありますが、その前に国連障害者権利委員会は日本政府に対して事前質問書を出しています。
NGO(非政府組織)がロビー活動を行い、
・政府報告ではこう言っているけど、実態はこういう問題がある。
という、NGOレポートを提出することが許されていますので、
この事前質問書は、政府報告書およびNGOレポートから、審査に向けて質問書を出したのです。
第1回政府報告に関する障害者権利委員会からの事前質問|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000546852.pdf
その中で特に成年後見制度に関係が深いのは、第12条です。
国連障害者権利条約第12条は以下の通り規定されています。
第十二条 法律の前にひとしく認められる権利
- 1 締約国は、障害者が全ての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。
- 2 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。
- 3 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとる。
- 4 締約国は、法的能力の行使に関連する全ての措置において、濫用を防止するための適当かつ効果的な保障を国際人権法に従って定めることを確保する。当該保障は、法的能力の行使に関連する措置が、障害者の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反を生じさせず、及び不当な影響を及ぼさないこと、障害者の状況に応じ、かつ、適合すること、可能な限り短い期間に適用されること並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査の対象となることを確保するものとする。当該保障は、当該措置が障害者の権利及び利益に及ぼす影響の程度に応じたものとする。
- 5 締約国は、この条の規定に従うことを条件として、障害者が財産を所有し、又は相続し、自己の会計を管理し、及び銀行貸付け、抵当その他の形態の金融上の信用を利用する均等な機会を有することについての平等の権利を確保するための全ての適当かつ効果的な措置をとるものとし、障害者がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。
これをうけて、事前質問の第12条のところを見てみましょう。このように書かれています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000546852.pdf
11. 以下のために講じた措置についての情報を提供願いたい。
(a) 障害者が法律の前にひとしく認められる権利を制限するいかなる法律 も撤廃すること。
また,民法の改正によるものを含め法的枠組み及び実践を本条約に沿ったものとすること。事実上の後見制度を廃止すること。また,代替意思決定を支援付き意思決定に変えること。
(b) 法的能力の行使に当たって障害者が必要とする支援を障害者に提供す ること。
(c) 全ての障害者が法律の前にひとしく認められる権利及び意思決定のための支援を受ける権利について意識の向上を図ること。特に,障害者とその家族,司法の専門家,政策立案者及び障害者のためにあるいは障害者と共に行動するサ ービス提供者を対象とするもの。
以上の質問に対し、日本政府は以下の通り回答しています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100359146.pdf
質問事項 11 (a) に対する回答
○民法上の制度及び趣旨
47. 我が国の民法は、「私権の享有は、出生に始まる」旨規定し(民法第 3 条第 1 項)、全ての人が権利能力を有することとされている。この点について、 障害者であることを理由とした制限は設けていない。
48. 成年後見制度は、判断能力の程度に応じた類型、意思の尊重、司法機関による審査が民法により確保されている(詳細は別添)。我が国では、成年被後 見人の自己決定権を尊重し、成年後見人が本人の意思決定を支援する形での取組を進めている。日本政府は、2022 年 3 月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画に基づき、障害者及びその代表団体の関与の下、成年後見制度の包括的な見直しを検討している。
こんな回答では、納得できないですよね。。。
日本の成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度があり、
任意後見制度は本人が決めた人に頼むので、本人の意思を尊重する制度ですが、
法定後見制度は家庭裁判所が決めた後見人(法定代理人)が、包括的な代理権を持ちますので、
本人の意思とは関係なく、後見人の判断で、代理権を行使できるのです。
でも、それは、
「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」
の理念とは、かけ離れています。
ということで、最初の報告から4年後の、2021年8月に、日本に対する建設的対話(審査)第1回が予定されておりましたが、新型コロナウイルスの影響により延期され、
ようやく2022年8月22日~23日に建設的対話(審査)が行なわれました。
審査はスイスのジュネーブの国連欧州本部で、2日間にわたり行われ、
3時間×2=合計6時間の長い会議でした。
国連TVのサイトから、アーカイブ(録画)を見ることができます。
1日め
2日め
※どちらも英語ですが、ボリュームの隣にある地球のマークを押して、「Original」を選択すると
日本語の同時通訳を聞くことができます。
私は、2日めの第12条関連の日本政府からの回答(24:30~28:50)を文字起こしました。
※法務省1人めは英語で回答しており、以下はその同時通訳を文字起こししたものです。
法務省:
法務省から答えたいと思います。
代表団は質問と懸念を、トリホス委員、トンガイ委員から受け取りました。
それと石川 准 障害者政策委員会副委員長からも回答しました。
日本政府は、現在包括的な検討を行っているところです。
成年後見制度について、検討・見直しをしているところであります。
行為能力 制限と撤廃の可能性も否定しない形で行っているところです。
そして、障害者権利条約の趣旨を考慮しつつ、
日本の障害者対策に適合した制度の在り方を、真摯に検討しているところであります。
現行制度のもとにおいても、我が国は、本人の意思決定支援を
障害者権利条約第12条に趣旨に含めて、成年後見制度の運用改善に向けて
取組みを進展しています。
その中では意思決定支援や身上保護などの観点を重視しています。
また、成年後見制度の見直しに関与する当事者からは、後見類型の撤廃ではなく、
適切な時期に必要な範囲、期間で利用することを可能とする制度を求める声もあります。
本当に果たして代行類型を撤廃することが本当に障害者の保護に資することか
障害者の皆さまの意見を十分聴取し、日本の障害者政策として適切な制限を
設計をすることが必要であると考えております。
日本政府は、権利者権利委員会がその一般的意見において、
支援付き意思決定モデルへの転換を前提に、意思決定能力がある本人に対する
法的行為能力の制限を撤廃すべきとの意見を示していることはよく理解しております。
その上で日本としては、諸外国に対する障害者権利委員会の勧告状況や
権利者権利条約への対応の状況を十分に調査し、
さらに、日本においては、法的行為能力の制限は本人保護の要請からくるもので
あるということを踏まえ、法的行為能力を撤廃することにより
障害者の経済的な損失を被ることにならないかどうかも含めて、
十分に検討する必要があります。
最期に、基本計画は2022年4月からの5ヵ年計画であり、政府としては
その期間内、つまり2027年3月までの見直しを目指しているところです。
ありがとうございます。
※法務省2人めは以下は日本語で回答
法務省:
たとえば民事手続きにおいては、LOI回答でも述べましたが、
一定の場合に保佐人とともに裁判所に出頭することができます。
刑事手続きにおいては、知的障害者が被疑者または被告人となった場合
一定の場合に国選弁護人の選任により権利が守られます。
特に裁判所は心神喪失者または心神耗弱者に疑いがあるときなどは
職権で国選弁護人を選任することができます。
法務省が承知しているところでは、裁判官は知的障害者に対し、
そのコミュニケーション能力に応じた適切な質問や説明をしています。
日本司法支援センターは、知的・精神障害者に対して支援を行なっています。
具体的には障害者の居住場所などで法律相談の援助を行っております。
また日本司法支援センターには、常勤の弁護士がおり、
自治体や福祉団体と連携し、積極的に法的サービスを提供しています。
法務省の人権擁護機関も障害者の人権問題について相談に応じています。
電話、Web、手紙など障害者自身が選択しやすい体制を整えています。
日本政府は、以上の様な様々な配慮により精神・知的障害者が司法アクセスの観点で、
不利益を受けることがないように、努力しております。
回答は以上になります。
===
いかがだったでしょうか?
事前質問では、「民法の改正によるものを含め法的枠組み及び実践を本条約に沿ったものとすること。事実上の後見制度を廃止すること。また,代替意思決定を支援付き意思決定に変えること。」を求めていますが、日本政府は成年後見制度を廃止するつもりはなく、
それよりは、適切な時期に必要な範囲、期間で利用することを可能とする制度に法改正したいと考えていることがわかります。
実際に、2022年6月から、商事法務研究会において「成年後見制度の在り方に関する研究会」が開催されて、法改正に向けて検討が行われています。
成年後見制度の在り方に関する研究会|商事法務研究会
https://www.shojihomu.or.jp/kenkyuu/seinenkoukenseido
見直しに関する主な論点は以下の通りです。
※2022.05.18 第13回成年後見制度利用促進専門家会議 資料2-2より
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000938658.pdf
厚生労働省の専門家会議(成年後見制度利用促進専門家会議)の中でも、
委員の中から「国連障害者権利条約の審査結果を受けて、成年後見制度を見直すべきだ」という意見が相次いでいました。
2000年に始まった成年後見制度、22年経ってようやく法改正の方向になったのです。
話は戻りますが、今回の日本の審査は、2022年9月中には障害者権利委員会から日本政府へ「総括所見(勧告)」が出される見込みです。
2022.9.14追記
8/22と8/23の建設的対話(審査)をすべて文字おこししてくれた方がいましたのでご紹介します。