久しぶりに「成年後見制度」のお話をします。

令和4年3月25日に「第二期成年後見制度利用促進基本計画」(以下、第二期計画)が閣議決定されました。

※岸田総理は、ベルギーでのG7(主要7か国首脳会議)出席のため不在でしたが、
  官房長官が代理で閣議決定した模様です。
 

主な閣議決定・本部決定 | 内閣 | 首相官邸ホームページ (kantei.go.jp)

 

新聞記事でも各社が報道しています。

共同通信

 

東京新聞

 

毎日新聞

 

ご存じの方は少ないかもしれませんが、「第二期・・・」の前に「成年後見制度利用促進基本計画」(以降、第一期計画)がありました。

 

第一期計画は、平成28年に可決・成立・施行した「成年後見制度利用促進法」に基づき、

平成29年3月に閣議決定されて、平成29年度から令和3年度までの5ヶ年の期間で、

(1)利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善

(2)権利擁護支援の地域連携ネットワークづくり

(3)不正防止の徹底と利用しやすさとの調和

などが進められてきました。

 

具体的には、

(1)-1. 180を超える法律において、成年被後見人・被保佐人の欠格条項が削除される。

(1)-2. 厚生労働省主催で、後見人等を対象にした意思決定支援研修が始まる。

(2)全国の市区町村(1,741自治体)のうち、264市町村で中核機関、414市町村で権利擁護センターが設置される(令和2年10月1日現在)※1

(3)後見制度支援信託または後見制度支援預金が、1,192金融機関のうち、64.9%(令和3年3月末時点:個人預貯金残高ベースの割合)の金融機関に導入されました。※2

 

※1 施策の実施の状況|厚生労働省 より

https://www.mhlw.go.jp/content/000839218.pdf

※2 令和3年8月21日の成年後見制度利用促進専門家会議 金融庁提出資料より

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000818905.pdf

 

私が住んでいる川崎市においても、中核機関として、令和3年7月1日に

川崎市成年後見制度支援センターが設立されました。

 

 

第一期計画により、各地域で相談窓口の整備や判断能力が不十分な人を適切に必要な支援につなげる地域連携のしくみが整備されつつある一方、

後見人等が意思決定支援や身上保護を重視しない場合があり、利用者の不安や不満につながっているといった指摘や、
成年後見制度や相談先等の周知が未だ十分でないなどの指摘がされたことも、事実です。
また、地域連携ネットワークなどの体制整備は、特に小規模の町村などで進んでいないのが現状です。

第二期成年後見制度利用促進基本計画の策定について(計画の概要)

より一部抜粋
 

引き続き、各施策の段階的・計画的な推進が必要であるため、第二期計画が閣議決定されたのでした。

 

第二期計画のポイントは、厚生労働省が発行している成年後見制度利用促進ニュースレターに記載されています。

成年後見制度利用促進ニュースレター 第 31 号
ポイント1:副題(サブタイトル)に注目!

ポイント2:全体の構成に注目!

ポイント3:地域連携ネットワークの機能に注目!

となっています。

 

私は別の視点で、3つの点に注目しました。

1.地域共生社会を目指すことが明記された
2.後見人の交代について、一歩踏み込んで記載された
3.国連障害者権利条約について記載された

 

1.地域共生社会については、元々、成年後見制度利用促進法において、

第一条(目的)

この法律は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより財産の管理又は日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うことが、高齢社会における喫緊の課題であり、かつ、共生社会の実現に資すること(中略)

と記載されているため、それに従っただけですが、

第一期基本計画では、「地域共生社会」について一言も記載されていませんでした。

そこで第二期基本計画では、計画の概要で以下の図が掲載されています。

意思決定支援、権利侵害への回復支援などの「権利擁護支援」が、

権利擁護支援の地域連携ネットワーク」を支えることで、

成年後見制度利用促進法の第1条(目的)に規定された「地域共生社会の実現」につながる

という図になっています。

 

2.後見人の交代については、第1期計画でも記載されていましたが、たった2ヵ所しかありませんでした。

1ヵ所め

2ヵ所め

補足説明すると・・・、

後見人を解任するには、後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見等の任務に適しない事由がない限り、解任させることはできない(民法第846条)とされていますが、

本人や本人を支える家族から後見人が信頼されなくなったら、本人の権利擁護を十分に図ることができないため、(民法第846条以外の理由で)後見人の交代できるように方策を講ずる必要があり、中核機関は家庭裁判所との連絡調整を行う、となっていました。

 

第二期計画では、後見人の交代に関する記述が、なんと32ヶ所(目次除く)に増えました。

代表的な部分を紹介すると・・・

P7 (1)成年後見制度等の見直しに向けた検討

「本人が必要とすべき身上保護や意思決定支援の内容やその変化に応じて後見人等を円滑に交代できるようにすべき、という様な、成年後見制度の見直しに向けた検討」を、国は実施します。

→各社新聞記事を読むと、成年後見制度を必要な時だけ利用できるという”小さな成年後見”になる様に読めますが、今すぐなることはありません。検討を始めると言っているだけです。

 

P13 (2)適切な後見人等の選任・交代の推進等

(中略)

後見人等の選任・解任については、家庭裁判所の専権事項ですが、

本人の状況の変化等を踏まえて、後見開始時は、紛争があり弁護士などの専門職が必要だった事案でも、紛争が解決すれば専門職後見人でなくても良いため、後見人を市民後見人等に交代するなど、

本人のニーズ・課題や状況の変化に応じた柔軟な後見人等の交代や追加選任を行う、としています。

 

もちろん、民法第846条以外の理由では解任することは出来ませんので、

・あらかじめ後見人選任時に、課題が解決すれば辞任してもらうことを、家庭裁判所から説明しておく

・実際に課題が解決したら、家庭裁判所が後見人に辞任を促す(解任ではない)

ことになります。

 

私も、母親に成年後見人をつけた時は、

「遺産分割と後見制度支援信託の口座開設が終われば、成年後見人を親族(私)に交代すること」

を、事前に、家庭裁判所から後見人(司法書士)に説明してあったので、

私は、スムーズに成年後見人を引き継ぐことができました。

 

この「課題が解決すれば専門職後見人から市民後見人に交代すること」については、

2021年6月28日に開催された「第8回成年後見制度利用促進専門家会議」において、

最高裁判所が、「市民後見人の選任の拡充に向けた取組 ~ リレー事案の例 ~」として

資料を提出していました。

 

私が所属している市民後見団体の仲間から聞いた話でも、

川崎市においても、「裁判をする必要があったので、最初は後見人には弁護士が選任されたが、裁判が終わったので、市民後見人に交代した例がある」と聞いていますので、

すでに、専門職後見人→市民後見人へ交代をやっているところはある様です。

 

3.国連障害者権利条約については、

日本は2013年に条約を批准しておりますので、この条約に従う必要があります。

第1期計画でも条約について少し触れられていましたが、

現在、国連障害者権利委員会による審査が行われており、審査結果によっては日本に対して厳しい勧告が出るだろう、ということは触れられていませんでした。

第2期計画では、P7 (1)成年後見制度等の見直しに向けた検討 の中で、

「障害者権利条約に基づく審査の状況を踏まえて見直すべきとの指摘(中略)がされている。国は、(中略)こうした専門家会議における指摘も踏まえて、成年後見制度の見直しに向けた検討を行う。」となっています。

 

国連障害者権利委員会から日本政府への事前質問(2019/10/29)については、

先日2022年3月18日に開催されたリーガルサポートの意思決定支援シンポジウムで、

専門家会議委員の水島俊彦 弁護士が紹介していました。

基調講演3「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインを読み解く」 資料

 

これによると、障害者権利委員会から、「事実上の後見制度を廃止すること、また代替意思決定を支援付き意思決定に変えること、について講じた措置を情報提供してほしい」と質問されていたそうです。

事前質問ですが、事実上の勧告に近い内容です。

実際の勧告は、今年夏ごろになるのではないか、とのことでした。

 

もしこのような勧告がされた場合、日本では成年後見制度の廃止(特に、後見類型は廃止)を含む大きな変化があるのではないか、と思います。