9/17に開催された市民向け成年後見制度研修で寄せられた質疑応答について、ご紹介します。
※口頭で回答されたのをメモして文字に起こしたので、不完全な部分もあるかもしれません。 もし問題がある場合は連絡をください。

質問1)
「行為の取り消しが可能」とありますが、本人がネットショッピング等をしてしまった場合、どのように取り消しができるのか?


弁護士の回答)

ショッピング会社に直接交渉します。一般的に言われるのは、取り消しができる立場であるという証明書が必要だと言われます。なので成年後見人や保佐人の場合は、後見登記を法務局から取り寄せて、その後見登記にご自身の名前が載っていることを確認して、それを基に相手との交渉をしていく形になります。
交渉して、具体的に相手に渡してしまったものがあれば、そのものを取り返すことになりますし、相手に払ってしまったお金があれば、そのお金を取り返していく形になります。どうしてもそれでも返さないと言う場合は、訴訟とかになる余地もあります。

 

質問2)

家族が後見人になる場合の報酬について、どのような形態と額が妥当か?

 

弁護士の回答)

任意後見と法定後見で違います。
任意後見の場合は、具体的に金額を自分の好きに定めておくことができるので、いくらにしても構いません。なので、ご家族にする場合はいくら渡すのか、月2万なのか月3万なのかもっとなのかは、ご自身が自由に決めることができます。
一方で法定後見といって判断能力が失われてしまった後に後見人が付く場合は、家庭裁判所が報酬を決めることになるので、報酬を事前に定めておくことはできないです。

 

筆者追記)

任意後見の場合には、金額を契約で定めますので、依頼する人と受任者との間で合意する必要があります。

ご自身がどんな金額を提示するかは自由ですが、受任者に拒否されたら、契約は成立しません。

 

質問3)

報酬は仕事の種類によって決まるのか?金額は日額なのか?月額なのか?

 

弁護士の回答)

基本的には、1年間に1回、定期報告を裁判所に行うことになるので、その時にまとめて1年分を引き出すのが一般的です。
任意後見の場合は月額の金額が決まっているのでその都度引き出してもいいんですが、そうすると毎月引き出していかなければいけないですし、一般的には一年ごとに引き出すのが一番楽だし、確実なんじゃないかなと思います。
法定後見といって裁判所から決められている場合も、1年に1回裁判所に定期報告をするときに、報酬(付与)の申立てをして、(言われた金額を報酬として)もらうことになるので、決め方としては月額の金額で裁判所は決めているかもしれませんが、金額としては1年分を引き出す形になります。

 

質問4)

専門職が選任された場合の報酬額は?(持っている資格によって違いがあるのか?)

 

弁護士の回答)

専門職のバックグラウンドによって変わるってことはあまりなくて、弁護士であろうが司法書士であろうが、基本的には家庭裁判所で定められた基準に基づいて支払われますので、あまりそこに差異はないと思います。ただ裁判所で決めている話なので、確実に全部同じかというとそこは比較しようがないのでわからないです。あまり違いはないのかなという所です。

 

質問5)

お父様が判断能力があるうちに、不動産管理をお子さん(質問者)が任意後見契約を締結したいと考えている。任意後見人の仕事の範囲を教えてください。

 

弁護士の回答)

任意後見人の仕事の範囲は、契約で定めることができるので、お父様がどんなことを任せたいか、ということを事前に決めておくことになります。先ほど説明した通り、後見人の支援の内容には身上監護と財産管理の2つありますが、これ両方を定めておけば任意後見人は両方共やることができます。なので財産管理として預貯金を預かって入院の手続きとか生活費のお父様への送金とか、介護サービスの契約の締結とかを行うことができるようになります。もちろんどちらか片方だけにしておくという契約もできるので、それはお父様の気持ち次第かなと思います。

 

質問6)

不動産管理について、家族信託契約を締結しないとお父様の資産運用はできないと解釈している。(任意後見契約で)新規契約とか賃料改定とか資産運用は可能でしょうか?

 

弁護士の回答)

後見人に財産管理を任せれば、不動産の管理自体はできます。
新規契約とか事例にも因るんでしょうけど、賃料改定とか賃料の増額をするとか、社会通念に従い周りの情勢を見ながら賃料を変えたりというのは、ある程度は任意後見人の裁量で行うことはできますが、お父様に不利な内容になってしまうとかはそういった場合には裁判所の許可が必要ですし、本当にその賃料改定が行う必要があるのかっていうのを、厳密に検討しなければいけないでしょう。
新規の資産運用というのは、確かに後見人だと難しいところがあって、ご本人の財産を運用するってなると、裁量の幅がすごく広くなってしまうので、なかなか後見人はやりづらいってことがあります。
なのでご質問にもある様に家族信託を締結しておけば、(判断能力がある)今から契約しておけばお子さんが資産の運用することができるので、そういう意味では家族信託も併用して、任意後見プラス家族信託でやっていくというのがいいことなんじゃないかなと思います。

 

筆者追記)

後見人の場合、資産運用は難しいのではなく、できないとなっています。

資産運用でプラスになることもあればマイナスになる可能性もあるので、後見人はそのようなリスクのあることはできないことになっています。

 

質問7)

審判書に対する不服申立てではどういうことで出来るのでしょうか?具体的には、希望通りの後見人が選任されない場合に、(後見開始等の)申立ての取り下げは可能なのでしょうか?

 

弁護士の回答)

たぶんご自身が申立てをしたけれども、内容に不満ですということなのでしょうか?
基本的には、申立ての取り下げは特段の事情がないとできません。いったん申立てをすると、取り下げをするには裁判所の許可が必要です。何故かというと、本当は本人保護のために後見開始の審判をしないといけない様な事情なのに、申立ての取り下げを簡単に認めてしまうと、結局ご本人のためにならない、ご本人の保護につながらないということから、申立ての取り下げで事件が終了してしまうことは相当でない場合が結構あるので、簡単に取り下げはできません。
たとえば、後見人の選任に関して候補者通りの人が選ばれなかったとか、(法定後見で)後見監督人が選任されてしまったとか、内容に対することを不服とした申立ては許可されない場合が多いのかな、というところです。
なので申立てをする段階で本当に後見人を付けるのかってのは、しっかり考えていただいて、ご自身の希望が通らない場合もあるよってことは、認識しておく必要があると思います。

 

筆者追記)

現在の法律では、後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見等の任務に適しない事由がない限り、家庭裁判所は後見人を解任することはできないこととなっています。

平成29年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画では、

本人や本人を支える家族等と後見人との間に信頼関係が形成されていない場合において、(中略)本人の権利擁護を十分に図ることができない場合については、今後、後見人の交代を柔軟に行うことを可能にする環境を整備するなどの方策を講ずる必要がある。

と書かれています。

また令和3年4月に制定された川崎市成年後見制度利用促進計画では、中核機関(川崎市の場合、川崎市成年後見支援センター)の後見人支援機能として、

状況に応じて、本人の能力や生活環境、支援関係者との関係性の変化等を把握した上で、類型の変更、権限の追加・削除、後見人の交代等を検討し、家庭裁判所に情報を提供します。」と記載されています。

今後、全国各地に中核機関が整備されていけば、情報提供された家庭裁判所から後見人に対して、辞任する様に言うなど、後見人をもっと柔軟に交代できるようになるかもしれません。

 

質問8)

任意後見監督人の業務を教えて下さい。
監督人の具体的な仕事と権限について教えてください。

 

弁護士の回答)

監督人の業務という意味なので、2つの質問を合わせて回答させていただきます。
基本的には、年に3回から4回、後見人から監督人は報告書をいただいて、そこで財産の管理がきちんと行われているのかということを見ることになります。
具体的に何をもらうかというと、ご本人の状況、今どういう風に過ごしているのかという状況の報告書であるとか、あとは財産状況とか預金通帳の写しとか、株式がある場合には株式の現在の残高とか評価額みたいなものを資料として出してもらって、その内容が間違っていないか、不正な引出しがないかなどをチェックしていくことになります。
もしその内容に問題があるって判断した場合には、(監督人は)その行為を取り消すこともできますし、家庭裁判所にその旨を告げて、きちんと調査した上で、場合によっては後見人を解任してもらったり、そういう場合もあります。これは後見人が不正をしている極端な例ですけれども、後見人の業務に問題がないかということをチェックしていく、そういう内容になります。
任意後見監督の場合も同じですね。

 

筆者追記)

法定後見の監督人の場合は、問題のある後見人についているので、就任直後は、月1回報告書を提出してもらい、問題なさそうなら3~4ヶ月に1回のペースにする、と聞いたことがあります。

任意後見監督人の場合は、元々問題がある人についている訳ではないため、年1回程度報告してもらっていると思います。

 

質問9)

任意後見制度について、本人の判断能力が落ちたら、もし本人が一人暮らしだとお子さんとかがいない場合、誰が家庭裁判所に申立てを行うのか?

 

弁護士の回答)

確かにお子さんとか近くに親族の方が住んでいなかったら、なかなか難しいかもしれません。
そういった場合は、本人の判断能力が落ちてるということは、例えば介護の方を頼んでいるとか、デイサービスとかに通っているとか、そういった例もあるかと思います。あと、本人の生活状況が芳しくないということで、区役所の方、障害課とか高齢課とかの方が担当でついて、ご本人の様子を見たりということもあります。なので、そういった関係機関が事前に任意後見契約をしているということをできるだけ、周りの人に信頼できる自分の周りの方に言っておくことで、何かご本人の判断能力が落ちたときに動けるようにしておく必要があります。
なので後見契約を結んだということをわからないと、最終的に後見人がつけないという問題になるので、誰かに言っておいて、何か自分にあったときに事前に頼んでいる人がいるんだよということをわかっておく必要があります。
実際に任意後見人として、契約の中に書いてある人に、連絡を取ってもらって、その人が裁判所に申し立てれば自分が後見人につくことができる、もちろん監督人も付きますけれど、付くことができて業務を開始できるので、周知というか、周りの人にわかっておいてもらうことが大事になると思います。

 

筆者追記)

移行型任意後見では、任意後見契約とは別に、見守り契約、財産管理委任契約、死後事務契約を一緒に結びます。

こうすることで、判断能力が低下する前から支援をうけることができ、判断能力が低下したあとも引き続き支援をうけることができるからです。

見守り契約を結んでおくと、定期的に受任者が本人のお宅を訪問して状況を確認しますので、判断能力が低下したと思ったら、家庭裁判所へ申立てをすることができます。

ただしこの移行型任意後見は、判断能力が低下する前から財産管理ができるため、判断能力が低下した時、家庭裁判所への申立てをしなくても、監督人がいない状態でお金を下ろしたりできる(本来は任意後見契約に違反している)ので、信頼できる人に頼むことが重要です。

弁護士の先生は、移行型任意後見をやったことがないのか、見守り契約を結べば良い、と紹介しませんでした。

 

質問10)

民事信託の契約は、公正証書で契約書を作成するだけで、家庭裁判所への提出は必要ないということで良いでしょうか?

 

弁護士の回答)

そうです。民事信託(家族信託)の契約は、家庭裁判所への提出は必要ないので、あくまでも契約の中でやっていただくということで、公正証書で作成するだけで大丈夫です。

 

筆者追記)

民事信託の契約書は必ずしも公正証書で作成する必要はありませんが、弁護士は公正証書で作ったほうが安心、と説明していましたので、この回答でも公正証書で作成するだけ、と説明したと思われます。

 

質問11)

任意後見を依頼していて、報酬が発生した時に、監督人にも報酬が発生するということでしょうか?友人が司法書士のように専門職の場合でも、監督人が付くのでしょうか?

 

弁護士の回答)

任意後見人に専門職が就いた場合でも、監督人が付くかというご質問ですね。
監督人が付きます。任意後見の場合は必ず監督人が付くので、任意後見人として誰が選任されていても、誰が指定されていても監督人は付きます。
実際に私も、司法書士の方が後見人で、私が監督人になっているという事案を、今もやっています。そういった事例もたくさんあります。

 

筆者追記)

任意後見監督人の報酬は、監督人が報酬付与の申立てを行い、言われた金額を本人の財産から引き出すことになります。報酬要らないなら報酬付与の申立てはしません。

法定後見の場合は、軽微な不正をした後見人や、後見制度支援信託/預金の利用に従わなかった後見人に、監督人が付けられます。(要は見張り役)

任意後見の場合は、悪いことをしていないのに、任意後見契約を発効する時には、必ず監督人が付きます。

きちんとやっている司法書士などの任意後見人にしてみれば、監督人が付くなんて納得できないかもしれませんね。

 

以上です。

申込時に受け付けた質問には答えてくれませんでした。(まだこだわってる笑)