厚生労働省のホームぺージと、裁判所のホームページにおいて、「意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン」が発表されました。

 

なぜこのガイドラインが発表されたのでしょうか?

 

2000年(平成12年)の成年後見制度発足以来、財産保全の観点のみが重視され、本人の意思尊重の視点が十分でないなどの課題が指摘されてきたことがある。

(中略)

民法858条、876条の5第1項、876条の10第1項においても、後見人等が本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮することが求められている。

しかし、実務においては、本人の判断能力が低下していることを理由に、本人の意思や希望への配慮や支援者等との接触のないまま後見人等自身の価値観に基づき権限を行使するなどといった反省すべき実例があったことは否定できない。

(意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン 第1 はじめに 1 ガイドライン策定の背景 より)

 

成年後見人等の仕事は、財産管理身上監護ですが、それを行うにあたっては、本人の意思を確認して尊重して、心身の状態や生活の状況に配慮して決めなければいけません。(民法第858条など)

しかし、成年被後見人(=本人)は、常に判断能力がないと審判された人(民法第7条)であるから、本人の意思を確認せずに、成年後見人が勝手に決めてきたこと(=法律違反)が、まかり通っていました。

 

さらに、成年後見人等を監督する家庭裁判所においても、きちんと財産管理しているか(不正をしていないか)をチェックすることがメインとなっており、意思を尊重しているかどうかについては、十分監督ができていませんでした。

 

そこで、平成28年に施行された成年後見制度利用促進法をきっかけとして、

平成29年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画では、

利用者がメリットを実感できるような制度・運用とするべき」という方針が示されて、

さらに、総合的かつ計画的に講ずべき施策として、

高齢者と障害者(本人)の特性に応じた意思決定支援を行うための指針の策定等に向けた
検討や、検討の成果を共有・活用する。
」ことになりました。

 

さらに成年後見制度利用促進専門家会議で、基本計画の成果指標(KPI)として、

・後見人等による意思決定支援の在り方についての指針の策定

・後見人等向けの意思決定支援研修が実施される都道府県の数 全47都道府県

・2025年度末までに認知症関連の各種養成研修への意思決定支援に関するプログラム導入

という目標が示されました。

 

そこで、以下のメンバーで構成される意思決定支援ワーキング・グループにおいて検討が重ねられて、さらに成年後見制度を利用者の団体からヒアリングを踏まえて、このガイドラインが策定されました。

・最高裁判所

・厚生労働省

・日本弁護士連合会

・成年後見センター・リーガルサポート

・日本社会福祉士会

 

このガイドラインで定義された「意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則」は、以下です。

 

(1) 意思決定支援の基本原則
第1 全ての人は意思決定能力があることが推定される。
第2 本人が自ら意思決定できるよう、実行可能なあらゆる支援を尽さなければ、代行決定に移ってはならない。
第3 一見すると不合理にみえる意思決定でも、それだけで本人に意思決定能力がないと判断してはならない。

(2) 代行決定への移行場面・代行決定の基本原則
第4 意思決定支援が尽くされても、どうしても本人の意思決定や意思確認が困難な場合には、代行決定に移行するが、その場合であっても、後見人等は、まずは、明確な根拠に基づき合理的に推定される本人の意思(推定意思)に基づき行動することを基本とする。
第5 ①本人の意思推定すら困難な場合、又は②本人により表明された意思等が本人にとって見過ごすことのできない重大な影響を生ずる場合には、後見人等は本人の信条・価値観・選好を最大限尊重した、本人にとっての最善の利益に基づく方針を採らなければならない。
第6 本人にとっての最善の利益に基づく代行決定は、法的保護の観点からこれ以上意思決定を先延ばしにできず、かつ、他に採ることのできる手段がない場合に限り、必要最小限度の範囲で行われなければならない。
第7 一度代行決定が行われた場合であっても、次の意思決定の場面では、第1原則に戻り、意思決定能力の推定から始めなければならない。
 

(意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン 第2 基本的な考え方 3 本ガイドラインにおける意思決定支援及び代行決定のプロセスの原則 より)

 

たとえ、判断能力が常にないとされた人であっても、意思決定能力があると推定することから始めなければいけません。

そして意思決定することができるように、言葉だけでなく、絵やイラストを使うなどしてあらゆる手段を尽くさなければいけません。

さらに、一見おかしい判断をされたとしても、本人にしかわからない理由があるので、おかしい判断をされた=意思決定能力がないと決めつけてはいけません。

 

第4原則以降では、代行決定する場合のルールについても、定めています。

第1原則~第3原則を尽くしてもどうしても本人の意思決定が困難だったり、本人の意思を確認できない場合に限り、代行決定することができるとしています。

 

代行決定する際には、根拠をもって本人の意思を推定しなければいけません。

例えば、家族がいれば家族に聞いてみるのもアリでしょうし、本人と長い付き合いのある友達に聞くこともアリでしょう。

 

第7原則では、意思決定の場面では、毎回第1原則から始めなければいけないとしています。

これは認知症でも本人の調子の具合は、日によって異なり、良くなったり悪くなったりすることがあるので、たとえ1回代行決定をしたとしても、次の機会では再び本人に確認することから始めなさいという意味です。

 

ガイドラインには、意思決定支援をする際に使えるアセスメントシートも添付されており、参考事例も載っていますので、一度読んでみることをお勧めします。