本日開催された「市民向け成年後見制度研修(基礎編)」で寄せられた質疑応答について、ご紹介します。(もし問題がある場合は連絡をください)

 

質問1)
自分の後見人として子供になってもらうため備えて準備するにはどうしたら良いか?

 

池田弁護士の答え)
任意後見契約を利用するのが良いでしょう。本当ならご自身の財産・借金も子供に開示しておくのが理想だけど、実際私は親の財産がいくらあるのか、借金もいくらあるか知らないので、難しい問題です。

 

 

質問2)
兵庫県明石市では川崎市とほぼ同じ件数の市長申立てがあった。川崎市のほうが人口が5倍多いのに、人口比でいえば川崎市は少ないのではないか。ニーズがあるのに見逃しているのではないか?

 

池田弁護士の答え)
川崎市は年間100件程度の市長申立てがあると聞いており、多い方だと思います。
ご本人が成年後見制度を利用すべきとなったとき、まず四親等以内の親族に申立てをしてもらうようお願いしており、親族に協力が得られないときに、市長申立てとなるため、川崎市は親族が協力的なのかもしれない。

 

 

質問3)
専門職後見人(弁護士・司法書士)はなぜ民法第858条を守らない人が多いのか?

 

池田弁護士の答え)
大変、手厳しい質問です。民法858条では本人意思尊重を規定されています。私はご説明した通り、本人の意思を尊重しているし、本人が「あー、うー」しか言えない人だと、家族の意見を聞いて決めることもあります。私の仲間の弁護士も、本人の意思を尊重していると信じています。そもそも、本人とケンカしたら後見人はできないと考えています。

 

 

質問4)
両親二人とも判断力が低下してきています。両親の片方だけ子供が後見人になることはできるのか?両親同時に申し込まないといけないのか、片親のみ本制度を利用することで不都合が生じることはあるのでしょうか?

 

池田弁護士の答え)
成年後見制度を利用する理由があれば、片親のみ利用することも可能です。両親二人とも利用することもできるが、後見人は同じ人になる場合もあるが、違う人になる場合もあります。実際、私は双子の方の両方の後見人になっています。

 

 

質問5)
高齢の父親が高齢者施設に入居したが、空き家になった自宅マンションを売却したいが、後見制度を使わなければいけないのか、他の手続き方法があるか?

 

池田弁護士の答え)
ご本人の判断能力の程度が後見相当なら、成年後見制度を利用するしかありません。もしまだ元気でいたらご本人が売却をすればよいし、任意後見契約を結んでお子さんが売却しても良い。

 

筆者追記⇒成年後見制度を利用した場合、本人の居住用不動産を売却するには、売却する正当な理由(売却しなければ施設の代金を払えない等)と、家庭裁判所の許可が必要になります。

家族信託契約でも、受託者(受任した人)が本人名義の不動産を売却することができます。家族信託の場合は、家庭裁判所の許可をもらう必要はありませんが、信託監督人がいればその監督人の同意をもらう必要があります。

 

 

質問6)
認知症の母親がいます。父親が亡くなったため相続の話し合いを兄弟3人でしました。その時に母親に後見人をつけなければいけないことを知らずにすすめて手続きをしてしまいました。今後母親に後見人をつけたいと考えていますが、兄が母親の通帳を開示せずに困っています。どうしたらいいでしょうか?

 

池田弁護士の答え)
母親は存命なので、子供が銀行に行って開示してくれと言っても開示してくれません。もし後見人がつけば、後見人の権限を使って調べることができます。
ただし後見人には守秘義務に近い義務がありますので、後見人をつけたとしても、後見人は親族に残高を教えることはありません。私も親族に教えることはしません。
ただし正当な理由があり、親族全員の同意があれば、親族全員に開示することはあります。
また、後見人が家庭裁判所に提出した書類を、閲覧謄写する方法もあります。この書類の中には通帳のコピーも含まれています。親族からの依頼であれば、原則、閲覧謄写の許可は下りるのですが、本人のプライバシーに関わる問題については、裁判官が許可しない場合もあります。

 

筆者追記⇒後見人には守秘義務はありませんが、善管注意義務があります。弁護士、司法書士などの士業には、業務上知りえた情報を他人に漏らしてはいけない守秘義務があります。

 

 

質問7)
成年後見制度に至る前の段階として任意後見制度がありますが、両者それぞれのメリット・デメリット、制度の対比について教えてほしい。

 

池田弁護士の答え)
一番大きな違いは、後見人を家裁が選ぶ、後見人を本人が選ぶ、でしょう。
報酬についても、家裁が決める、本人と受任者との間の契約で決める、という違いがあります。
任意後見のデメリットは、任意後見契約と任意後見監督人の選任と、2回手続きが必要なこと、登場人物がとても多いことです。
また任意後見契約と一緒に財産管理委任契約を結んでいる場合、任意後見監督人を選任しなくてもご本人の口座からお金を下ろせるので、身寄りがいない場合誰もチェックできないので、みんな不正しているとは言いませんが、危険だと思います。

 

筆者追記⇒任意後見制度では、本人が行った不利益な契約を取り消すことができないというデメリットもあります。

 

 

質問8)
子が親の後見人になるために必要なことはなんでしょうか?

 

池田弁護士の答え)
子供が後見人になる確実な方法は、任意後見契約をすることです。
さきほど説明した通り、子供が後見人候補者で、親族全員の同意書があっても、本人の財産が多ければ、専門職が後見人に選任される場合が多いです。
本人の財産が少なく、親族全員が同意すれば、子供が後見人に選ばれるでしょう。

 

 

質問9)
任意後見人になっていただいた時の毎月のお支払する金額と、初期費用の金額についていくらかかるか知りたい。

 

池田弁護士の答え)
任意後見の報酬額は契約で決めますので、ご本人と受任者が合意すればいくらでも構いません。私が聞いた中で最高額は月20万円です。ただしこの方の場合は、賃貸の不動産をたくさん持っており管理するのが大変だということでした。
任意後見の初期費用については、先ほど説明した通り、3万~5万円です。公証役場に電話をして、聞いてみると良いでしょう。

 

 

質問10)
独居の方が成年後見制度が必要になった場合はどうされるのか?

 

池田弁護士の答え)
まず判断能力が低下したら必ず成年後見制度を使用しなければいいけないということはありません。
制度の利用が必要な場合、四親等以内の親族がいればその方に申立てをしてくれと頼みます。もし身寄りがいない場合や、親族の協力が得られない場合は、川崎市長が申立てをします。

 

 

質問11)
もし後見人と監督人が共謀して不正をしたらどうなるのでしょうか?家裁の責任は問えるのでしょうか?国家賠償請求できるのでしょうか?

 

池田弁護士の答え)
私の知っている限り、国家賠償請求が認められたのは2件ありますが、どちらも家裁の責任はないとされ、監督人の責任を認めた例があります。

 

 

質問12)
子供が後見人候補者になり申立てをした後、第三者が後見人に選任されたら、成年後見制度の利用をやめることはできますが?

 

池田弁護士の答え)
残念ながらできません。

 

 

質問13)
昨年民法が改正されて150万円までを預けておいて葬儀できるようになったと聞いていますが、その手続きの方法を教えてほしい。

 

池田弁護士の答え)
そのような改正は、まだ施行されていないと思います。
ご本人が死亡したら後見人の仕事は終わりになりますが、4年前に法律が改正されて家裁の許可をもらえば、後見人も葬儀をすることができるようになりました。でも家裁の許可を待っていたら、葬儀できないんですよ。
相続人がいれば、葬儀をするのは相続人の役目です。でも相続人の方はご本人が亡くなった直後はとても忙しいので、相続人から葬儀を依頼されることが多い。そんなときは、銀行に亡くなったことを知らせずお金を下ろして、葬儀をすることもあります。

 

筆者追記⇒民法の改正で成年後見人ができるようになった死後事務は、火葬と埋葬だけで、葬儀はできません。ただし成年後見人が後見事務とは別に、個人として参加者を募り、参加者から徴収した会費を使って無宗教のお別れ会を開くことは可能と考えられます。

2020/2/16筆者追記

2019年7月より金融機関の仮払い制度が始まっています。これにより亡くなった人名義の口座から、相続人が他の相続人の同意なしに最大150万円まで引き出すことができる制度です。

質問した方はこのことを質問していたと思われます。

 

質問14)
任意後見監督人の候補者を指名できますか?

 

池田弁護士の答え)
任意後見監督人の選任申立書は裁判所のホームページからダウンロードできますが、書式を見ると指名できないことがわかります。
任意後見人と監督人が知り合いだと、不正をする可能性があるからです。

 

 

質問15)
現在、専門職後見人が付いていますが、後見制度支援信託を利用してもらうことはできますか?

 

池田弁護士の答え)
親族としてお願いすることはできますが、後見制度支援信託を利用したほうが良いと決めるのは家庭裁判所なので、家庭裁判所次第でしょう。

 

 

質問16)
子供に任意後見人をお願いしようと考えています。子供複数いるのですが、任意後見人は複数できますか?

 

池田弁護士の答え)
複数でもできますが、揉める可能性があるので、分担を決める必要があるでしょう。
なので、できれば1人に任せて、その人ができなくなったら次の人、という様にしたほうが良いと思います。

 

みなさん、参考になりましたでしょうか?