また成年後見制度のお話です。

 

皆さんは「後見制度支援預金」をご存じでしょうか?

成年後見制度自体もあまり普及していないので、知っている方は少ないかもしれません。

 

2000年4月に始まった成年後見制度は、認知症などで判断能力が低下した人が利用する制度ですが、代理人となった後見人の横領も後を絶ちませんでした。

そこで導入されたのが、「後見制度支援信託と後見制度支援預貯金」でした。

※成年後見制度とよく比較される「家族信託」とは全然別のものですので、ご注意ください。

 

被後見人さんの預貯金が、東京では500万円以上、東京以外では1200万円以上ある場合、家庭裁判所は、親族に対して、後見制度支援信託または後見制度支援預貯金の利用を薦めます。断ると監督人が付きます。

 

後見制度支援信託(後見信託と略します)は、平成24年(2012年)から始まりました。

後見制度支援預貯金(後見預金と略します)は、平成30年(2018年)から始まりました。

なぜ、最初に後見信託が始まったかというと、当初、この仕組みを全銀協に持っていったら断られたので、信託銀行協会に話をして採用されたそうです。

有識者会議(内閣府 成年後見制度利用委員会)において、信託銀行をのぞくすべての金融機関に要請することが決まり、財務省・金融庁から全銀協、地銀協、ゆうちょ銀行、信用金庫、信用組合、JAバンクなどに依頼されたのでした。

 

後見信託と後見預金の仕組みは、↓こんな感じです。

※2019.12.26 厚生労働省成年後見制度利用促進専門家会議の資料より

 

(1)まず被後見人さんが持っている預金を、小口預金1つと大口預金1つに分けます。

(2)自動振込・自動引き落としで指定する小口預金には、100~500万円(※)を残します。

東京家庭裁判所 後見センターレポートVol.10より

(3)その他の預金は全て大口預金として、信託銀行に預けるのが「後見信託」、普通の金融機関に預けるのが「後見預金」です。

※この3つの行為は、家庭裁判所から選任された専門職後見人(弁護士または司法書士)しかできないとされており、この行為に対する付加報酬が20~30万円と言われています。

 

もし後見信託を利用すると、被後見人さん名義の預金は小口預金を除きすべて解約して、信託銀行に移すことになります。

被後見人さんが信頼して預けた金融機関から、よく知らない信託銀行に口座を変更することは、もし自分だったら嫌なことです

解約された金融機関にとっても、運用資金が減るので、経営が厳しくなります。

 

小口預金は後見人が管理しますが、後見信託・後見預金は金融機関が管理することになり、大口預金からお金を引き出したり預けるときには、家庭裁判所の指示書が必要となります。

こうすることで、たとえ後見人が横領をしたとしても、被害金額は500万円以下に抑えることができます。

※500万円でも私にとっては大金ですが・・・。

 

もし、本人が入院した、施設に入居した、不動産を改修したなどの理由で、まとまったお金が必要になるときは、家庭裁判所から指示書を発行してもらいます。

もし、月々の収支がマイナスであり、小口預金の残高が少なくなっていく収支計画の場合は、後見信託・後見預金から定期的に手数料無料で送金してもらうこと(定期交付または定期送金※)ができます。

※金融機関の中には、定期送金を実施していない金融機関もあります。

もし、月々の収支がプラスであり、小口預金の残高が一定金額(300万円など)をこえたら、家庭裁判所に指示書を発行してもらい、後見信託・後見預金に預けなければいけません。

 

この後見信託・後見預金が導入されてから、不正は少なくなってきたのでしょうか?

2019.12.26に開催された有識者会議(成年後見制度利用促進専門家会議 第4回中間検証WG)で、発表がありました。


黄色の棒グラフ後見信託の契約者数、赤色の棒グラフ後見預金の契約者数、

青色の線グラフ不正件数です。

※この不正件数は、以前の有識者会議で公表された数字より1割ぐらい多いです。

 不正件数は平成23年分から公表されましたが、平成23年は305件でした。

※平成27年から急激に増えているのは、新規の成年後見利用者だけでなく、すでに成年後見を利用している人にも勧めるようになったからと思われます。

 

徐々に減ってきていることは減ってきているのですが、約200件で横ばいになっているのはチョット気になります。

 

後見信託は、三井住友信託銀行、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、りそな銀行、千葉銀行、中国銀行にあります。

後見預金は、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、阿波銀行、静岡中央銀行、東京スター銀行、城南信用金庫(※)、山梨信用金庫、東京都内24信用金庫、静岡県内12信用金庫、福井県内4信用金庫、東京都内12信用組合、大阪府内6信用組合、鳥取県内3信用組合、石川県内5信用組合、東京都内10JAバンクなどにあり、どんどん増えてきています。

※城南信用金庫は任意後見人向けの後見預金であり、家庭裁判所の指示書ではなく監督人のハンコが必要です。

 

私の母親も後見信託を利用しています。

成年後見制度の利用を始めた時には、後見預金はありませんでしたので、大口預金分は三井住友信託銀行に預けています。

もし秋田銀行でも後見預金を始めたら、家庭裁判所に、秋田銀行に移してもいいか聞いてみようかな。。。