今回は法定後見制度のお話です。

 

成年後見制度には、法定後見制度任意後見制度があります。

法定後見制度は、すでに判断能力が低下した人が利用できる制度で、四親等以内の親族などが、医師の診断書などの書類をそろえて、家庭裁判所に申し立てをすると、本人の判断能力の程度により、後見なら成年後見人、保佐なら保佐人、補助なら補助人が本人の法定代理人としてつく制度です。

 

成年後見制度のデメリットとして、

・一度利用を始めると、本人の判断能力が回復するまで、利用をやめることができない

⇒アルツハイマー型認知症の場合は、進行型の病気なので、一生やめることができません。

・親族が後見人に立候補しても、選任されるとは限らない

⇒親族が後見人に選任されたのは、23.2%(H30年)でした。

・専門職(弁護士、司法書士)が後見人になると、本人になかなか会いに来ない場合がある

・後見人が横領したなどの不正行為をしない限り、後見人を辞めさせることができない

・後見人は本人の財産を守ることだけを頑張ることで、家族と対立することがある

というのがあります。

 

私の母親の場合も、遺産分割のためだけに法定後見制度を利用しましたが、遺産分割が終わっても利用が続いていますし、前の後見人の司法書士は、在任期間10ヶ月で母親に会いに来たのはたった4回でした。

※リーガルサポートが会員に配布しているガイドラインには、「月1回はご本人と面談するべき」と記載がされているそうです。

 

成年後見人の仕事は、財産管理身上監護と言われていますが、すでに施設に入居している場合は、家庭裁判所は身上監護は不要と判断して、身上監護が苦手な弁護士や司法書士などの専門職を後見人に選任する傾向があるからです。

 

しかし、風向きが少し変わりつつあります。

2016年5月に、成年後見制度利用促進法が施行され、

2017年3月に、成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されました。

 

この基本計画では、利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善として、

・財産管理のみならず、意思決定支援・身上保護も重視
・適切な後見人等の選任、後見開始後の柔軟な後見人等の交代等
・診断書の在り方の検討

と、明記されています。(基本計画のポイント・3枚版概要より)

※後見人等の報酬金額の見直しも検討されていますが、基本計画に記載はありません。

 

このうち2番目「適切な後見人等の選任、後見開始後の柔軟な後見人等の交代等」についての進捗状況が、2019.11.20に開催された有識者会議(成年後見制度利用促進専門家会議 第3回中間検証WG)で発表されました。

資料はこちら⇒資料3 裁判所における取組の状況について(診断書の在り方等の検討、適切な後見人等の選任及び交代、後見人等の報酬)

 

一部ですが紹介すると・・・。

現状は、「財産活用の観点で、利用者がメリットを実感できないような後見人等の選任が起こってしまうことがある」と認め、目指すべき姿として、「中核機関が受任者調整を、求められる後見活動や本人の状況に合わせた適切な後見人候補者の検討」して家庭裁判所に推薦することで、適切な後見人の選任ができるようになる」、そして「メリットを実感できない場合には、交代の相談も可能」としています。

 

現状、「相当期間が経過した後も、本人や本人を支える家族等と後見人等との間に信頼関係が形成されていない場合」があっても、、

・本人の判断能力が回復しない限り、後見等が継続する
・本人等と後見人等との間に信頼関係が形成されていないという情報が、家裁にきちんと伝わらない
・後見人等に不正な行為等の任務に適しない事由がない限り、後見人等が解任されない

などがあり、それがそのまま”成年後見制度の不満”(=メリットを感じない制度)になっていました。

 

目指すべき姿は、「本人を後見人等とともにチームとして支える」ために、「福祉関係者、親族、医療関係者、民生委員・ボランティアを支援」したり、「中核機関に相談があれば助言したり、必要に応じて家庭裁判所と情報共有して、新しい候補者を推薦して交代したり、類型変更できる」ようになります。

 

有識者会議では「家庭裁判所が本人に合った後見人をコーディネイトするべき」という意見もありましたが、基本計画から家庭裁判所の予算や人員を拡充することは削除されたので、中核機関を整備して、中核機関にて本人に合った後見人を推薦して、家庭裁判所が誰を選任するか決める形となっています。

※法律上、後見人の選任・解任は家庭裁判所だけができます。中核機関は後見人を選任することはできません。あくまでも推薦するだけです。最終決定するのは家庭裁判所です。

 

これらを実現するためには、全国の地方自治体で「○○市成年後見センター」と呼ばれるような”中核機関”を整備することが必須、となります。

人口の多い市町村では、単独で中核機関を設置できるかもしれませんが、人口の少ない市町村では、広域で(複数の自治体が集まり)、中核機関を設置することもOKとしています。

 

中核機関の整備状況として、令和元年7月1日現在では、全国の地方自治体1,741のうち、中核機関があるのは139の自治体(8.0%)、権利擁護センターがあるのは、434の自治体(24.9%)となっています。

合計573の自治体のうち、「受任者調整会議を実施している中核機関または権利擁護センター」は、279の自治体となっています。

 

各市区町村では、首長申立てをして市民後見人などが選任されることがありますが、この受任者調整の対象は、首長申立てのみ実施しているのは57自治体、首長申立て以外も実施している自治体は168自治体になっています。

 

先見事例として、品川区の例です。品川区には、「品川成年後見センター」があります。

ケース会議は月2回、方針決定会議は年4回、受任調整会議は年4回開催されているそうです。

 

みなさんの住んでいる市区町村で、「○○市成年後見センター」などの”中核機関”が整備されているかどうか、一度調べてみてください。

 

川崎市の場合は、社会福祉協議会の中に”あんしんセンター”というのがあり、ここで成年後見制度相談に乗ったり、市民後見人を養成したり、法人後見を受任したり、しています。

なので、川崎市は中核機関はまだないが、権利擁護センターはある、受任者調整は行われていない、になると思います。