たまには、成年後見制度の話をしたいと思います。

一昨日(11月5日)、こんなニュースがありました。

 

最高裁が後見制度の指針概要案 利用者の意思尊重を求める(共同通信)

最高裁が後見制度の指針概要案 利用者の意思尊重を求める(佐賀新聞)

 

具体的には、11月5日に開催された成年後見制度の有識者会議(厚生労働省の成年後見制度利用促進専門家会議 第3回中間検証ワーキンググループ)において、事務局からこんな資料が配布されたのでした。

 

資料2 「後見人等による意思決定支援の在り方についての指針」の検討状況

 

1ページめだけ画像でどうぞ♪

 

そもそも、成年後見制度の基本理念は、「ノーマライゼーション」「自己決定権の尊重」「身上の保護の重視」となっています。(成年後見制度利用促進法 第4条より)

法律で規定されているにも関わらず、守らない後見人が多いと聞きます。

 

この資料が出された経緯として、今年5月末に、利用促進基本計画の進捗度合いを測るモノサシ、KPIが決められました。

それによると、令和3年度末の目標として、

◇後見人等による意思決定支援の在り方についての指針の策定

◇後見人等向けの意思決定支援研修が実施される都道府県の数 全47都道府県

となっています。

 

そのために、厚生労働省、裁判所、専門職団体、みずほ情報総研が「意思決定支援ワーキンググループ」として、指針(ガイドライン)の内容検討を始めているそうです。

 

実は、今までも、厚生労働省は、以下のように、様々な意思決定支援に関するガイドラインを策定してきました。

身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

 

また、大阪府の家庭裁判所や、大阪弁護士会、大阪府司法書士会、大阪府社会福祉士会などが作成した、

意思決定支援を踏まえた成年後見人等の事務に関するガイドライン

というのもあります。

 

成年後見制度の主管が、内閣府から厚生労働省に移りましたので、「後見人等による意思決定支援ガイドライン」も、厚生労働省が中心になって作成します。

わたしの予想では、大阪家庭裁判所などが策定したものと近いもの、になると予想しています。

後見人等という言葉は、成年後見人、保佐人、補助人、監督人、任意後見人、任意後見監督人などすべてを指しています。

 

成年後見制度において、後見人等の選任および監督という立場で、実際運用しているのは家庭裁判所です。

ですので、全国の家庭裁判所を取りまとめている最高裁判所家庭局も、今回の指針(ガイドライン)策定の中心になっていると思われます。

なぜかというと、さきほど紹介した「後見人等による意思決定支援の在り方の指針」の資料を、よぉ~く見ると、句点に「、」ではなく「,」が使われています

これは、法律に関係している職業の特徴なので、最高裁家庭局が指針(ガイドライン)の文案を作っていると思われます。

 

ここまで読んだ人の中には、なぜ指針(ガイドライン)を策定するのか?どうして法律や条例ではないんだろう?と思った人がいるかもしれません。

それぞれ一長一短があります。

指針(ガイドライン)には、強制力はありません。指針に従ったほうが良いよ、という程度です。指針に従わなくても罰則はありません。

一方、法律になると、強制力があり、従わなければいけません。罰則は法律により決められていたり、決められていない場合もあります。

指針は、比較的簡単に作成することはできますが、法律は国会で賛成多数で可決してもらうことが必要になります。

 

2年前(平成29年)の3月24日に、成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定された時には、私はここまで成年後見制度が変わるということは予想していませんでした。

なぜなら、この基本計画には、成年後見制度を意思決定支援の制度に変えるべきということは、明確には記載されていなかったのです。

この基本計画(案)は有識者が相談して決めましたが、閣議決定する際、一部の文章は削られていました。

政府にとって都合の悪いことを、削ったように見えます。

 

しかし、この基本計画には、有識者会議(最初は、内閣府で~利用促進委員会、その後厚生労働省で~利用促進専門家会議)において、検討していくことが決められています。

基本計画には5年を目標にして利用促進を進めることは記載されていますが、具体的に何をするのか、何をどれだけ増やすのかわからないという指摘が、パブリックコメントで多く寄せられたはずです。

それを受けた形で、有識者たちは、「後見人等による意思決定支援の在り方ガイドラインを作成すること」、および、「そのガイドラインを後見人が学ぶことができるようになった都道府県の数が47になること」を、KPI(目標値)として決めたのでしょう。

これにより、厚生労働省はガイドラインを策定することになりましたし、日本全国の自治体(中核機関や権利擁護団体)や士業団体は、この意思決定支援を学ぶ研修を開催する必要があります。

 

成年後見制度のパンフレットを見ると、「判断能力が低下した人を支援する制度」という言葉を見ることができます。

しかし実際のところは、後見人等は、本人の意思を確認せずに、後見人自身の勝手な判断で物事を決める「本人不在の代行制度」になっています。

日弁連のアンケートによると、本人に代わって法律行為をする場合に、「本人に意思を確認しない」弁護士・司法書士が60%もいて、その理由として、「本人は合理的な判断ができないから」が75%あったそうです。

民法第858条では、「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。」と規定されています。

本人の意思を確認しないなんてことは、論外です。

このような現実を改善するために、有識者さんたちは指針(ガイドライン)を作成しましょ、うということにしたのだと思います。

 

もう一つだけ文句を付け加えるならば、ガイドラインを作成して、研修を受けさせるだけでは不十分だと、私は思っています。

私の仕事はIT関連ですが、トラブルが起きると、必ず、「作りこんだ原因」と「チェックできなかった原因」の2つの観点から、根本原因分析を行います。

「後見人が、本人に意思を確認しない」というのは、「作りこんだ原因」です。

「家庭裁判所が監督するべきなのに、本人に意思を確認したかどうかチェックしていない」というのが、「チェックできなかった原因」だと思いますので、家庭裁判所は、定期報告のフォーマットを変更して、本人に意思を確認したかどうか報告をさせるべき、だと思います。

これにより、たとえ本人の意思を確認しない後見人がいたとしても、家庭裁判所がチェックするので、後見人が改善するか、後見人を交代することになるでしょう。

 

後見人が士業であれば、士業団体が後見事務をチェックしているところもあります。(司法書士のリーガルサポート、社会福祉士のぱぁとなぁ、行政書士のこすもすなど)

後見人が法人であれば、その法人の中で後見事務をチェックするでしょう。

後見人が親族であれば、今後は、全国で整備が進んでいる”中核機関”において、後見事務をチェックすることになるでしょう。

※私は、親族後見人ですが、姉にチェックしてもらっています。(ある意味、家庭裁判所のチェックより厳しい・・・)

 

「本人の意思」という言葉を何回か使いましたが、皆さんは「意思」というとどんなことを思い浮かべるでしょうか?

法律職の人は、意思能力=事理弁識能力と理解している人が多いかもしれません。

事理弁識能力は、やさしく「判断能力」と言い換えているパンフレットが多いですが、正しくは、「この判断をすることで本人や他人がどんな影響が及ぶか考えることができる能力」、とされています。

 

わたしは、認知症の母親と接してわかったのですが、たとえ認知症で判断能力が低下した人であっても、「〇〇したい」とか、「〇〇したくない」という意思を表明することはできます。

なので、事理弁識能力が常にない人であっても、自分の意思は表明できると考えています。

現在、検討中の「後見人等による意思決定支援の在り方についての指針」でも、「全ての人は、意思決定能力があることを原則とする」と記載されています。

これは、日本が批准した国連障害者権利条約を強く意識していると思いますし、

また、2010年の第1回世界成年後見法会議で採択された横浜宣言」の基本原則の1つでもあります。

意思決定支援ワーキンググループには、士業団体も含まれていることから、成年後見法学会のメンバーもいるはずなので、この基本原則が盛り込まれたのでしょう。

 

認知症の方の多くは、記憶障害(覚えられない、思い出すことができない)、見当識障害(現在の年月日や季節、ここがどこなのかわからない)、実行機能障害(順序だてて順番に行動することができない)などがあり、さらに行動・心理症状(BPSD)として、不安、うつ、戸惑い、暴言、暴力などがありますので、認知症の方と接する場合には、ちょっとしたコツが必要になります

認知症サポーター養成講座でも習いますが、3つのない(驚かせない、急がせない、自尊心を傷つけない)などがあります。

 

意思決定支援とは「周囲がわかりやすく、ゆっくりと説明して、納得してもらえば(説得してはダメ)、判断能力が低下した人でも、普通の人と変わらず、判断できる」という意味、だと私は思っています。

すなわち、事理弁識能力が常にないと審判された人でも、周囲の人が適切にサポートすれば、その人は事理弁識することができると思っています。

ガイトラインが作成されて、後見人等が意思決定支援を適切に行うことができれば、パンフレットに書かれている文字通り、「成年後見制度は、判断能力が低下した人を支援する制度」になると、私は信じています。

 

P.S.

自分で書いておいてアレなんですが、成年後見制度や意思決定支援のことを、ここまで詳しく書ける素人(弁護士、司法書士、社会福祉士などの資格を持っていない人)は、私ぐらいしかいないのではないか、と思います(笑)。