朝日新聞一面に、こんな記事が載りました。

成年後見人には「親族が望ましい」 最高裁、考え方示す

 

この記事は、Yahoo!ニュースにも載りましたので、インターネットでも読んだ方が多いと思います。

 

士業の皆さんは、この記事を見て、

・今までも、親族がいれば親族を選任してきたじゃないか。

・親族が後見人になりたくない場合に、専門職を選任してきたじゃないか。

・なので、今と変わらない。

・心配することはない。(成年後見業務を主な業務にしている)士業に大きな影響はない。大丈夫だろう。

という意見が多いと、感じています。

ですが、それは違うと思います。

 

理由をこれから書きます。

 

そもそも、最高裁は何故こんなことを言ったのでしょうか?

それは、平成28年5月に「成年後見制度利用促進法」が施行されたことが、きっかけです。

この法律にのっとって、有識者会議(成年後見制度利用促進委員会)が開催され、最終的にその有識者会議の意見が、平成29年3月に「成年後見制度利用促進基本計画」(国の基本計画)として、閣議決定されました。

これをもとに、各市町村では、市町村の基本計画を策定する努力義務があります。

 

この国の基本計画には、次のような文章があります。

 

②後見人の選任における配慮

○ 後見人は、本人の自己決定権を尊重するとともに、身上に配慮して後見事務を行うべき義務を負っているところ、後見人がこのような事務を円滑かつ適切に遂行するためには、本人はもとより、親族、福祉・医療・地域の関係者等の支援者とも円滑な関係を築き、本人の意
思決定を支援していく体制の構築が重要である。
○ このため、家庭裁判所において適切な後見人を選任できるよう、地域連携ネットワークや中核機関が、本人を取り巻く支援の状況等を家庭裁判所に的確に伝えることができるようにするための検討を進める。

 

さらにこんな文章も・・・。

 

③利用開始後における柔軟な対応
○ 後見等が開始されると、本人の判断能力が回復しない限り、後見等が継続することになるが、相当期間が経過した後も、本人や本人を支える家族等と後見人との間に信頼関係が形成されていない場合においても、後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見等の任務に適しない事由がない限り、家庭裁判所が後見人を解任することはできないこととなっている。
○ こうしたケースのうち、本人の権利擁護を十分に図ることができない場合については、今後、後見人の交代を柔軟に行うことを可能にする環境を整備するなどの方策を講ずる必要がある。

 

これらを、基本計画の概要では、こんな感じにまとめられています。

「利用者がメリットを実感できる制度・運用の改善」を目的として、「適切な後見人の選任・交代」するべきだと言っています。

逆に言うと、利用者がメリットを実感できなければ、後見人を途中で交代させることができるようにする、ということです。

 

「文章だけではわかりづらいよ~」という人のために、3月16日に、中央大学で、厚生労働省 成年後見制度利用促進室の梶野室長が説明した図だと、こんな感じです。

現状(左図)は、今まで家庭裁判所は、利用者がメリットを実感できないような後見人等を選任してしまうことがありました。

その場合でも、後見人等を交代させることはできませんでした。

横領など不正なことがない限り、交代させることはできなかったのです。

 

目指すべき姿(右図)は、中核機関(成年後見支援センターなど)が、受任者調整を行い、適切な後見人候補者を家庭裁判所に推薦することで、家庭裁判所は、適切な後見人を選任するようになるし、もし利用者がメリットを実感できなければ、途中で交代させることもできるようになるのです。

 

そして、3月18日の有識者会議(第2回成年後見制度利用促進専門家会議)において、最高裁は、以下の資料を使い説明しました。

○ 本人の利益保護の観点からは、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい

○ 後見人選任後も、後見人の選任形態等を定期的に見直し、状況の変化に応じて柔軟に後見人の交代・追加選任等を行う

とあります。

 

この説明を、わかりやすく説明するために朝日新聞は、大部分をはしょって、

「成年後見人には親族が望ましい 最高裁、考えを示す」という見出しをつけたのでした。

 

この情報は、すでに今年1月に各家庭裁判所に情報提供されていることから、すでにこの運用が始まっています。

しかし、成年後見支援センターのような中核機関は、現在整備中であり、中核機関がある市町村は、79の市町村(約4.5%)しかありません。

↑この数字は、3/18の有識者会議の資料にありました。

 

なので、各家庭裁判所は、今年1月から、親族等の身近な支援者がいるかどうかを確認しているはずです。

もし身近な支援者がいれば、その方を後見人に選任するでしょうし、

もし身近な支援者がいなければ、第三者の士業や、市民後見人などを選任するでしょう。

 

しかし、家庭裁判所の人的資源は限られています。

ただでさえ、少ない人たちで、成年後見を運用してきたのに、やることが増えたのです。

なので、各自治体は、なるべく早く中核機関を設立して、利用者がメリットを実感できる適切な後見人を、中核機関が調整することが必要となります。

 

成年後見人等をしている皆さんは、利用者さんにとってメリットを実感できる適切な後見人になっていますでしょうか?

成年後見人の仕事は、財産管理と身上監護といいながら、財産管理だけしていないでしょうか?

財産管理は、ご本人の資産を減らさないことを最優先にして、ご本人の意思を確認しない、または、無視していませんか?

 

もちろん、私も母親の成年後見人をやっていますので、母親本人にとって良い後見人になっているか、今一度、自分の胸に手を当てて、じっくり考えようと思います。