3月末に、母親が施設で転倒し頭を打ったことに伴い、私の心の中で、決めていたことがありました。

 

それは、「母親本人の意思を尊重すること」です。

 

本人が認知症になっていると、「周りの人間は、何かしてあげなきゃ」という気持ちになりがちですが、私はそれは間違っていると思います。

私は、母親がアルツハイマー型認知症になっても、そうじゃないときと同じ様に、接しています(接しているつもりです)。

 

あるとき、テレビで「認知症の予防には水分をたくさんとると良い」と聞くと、

母親にお茶を飲ませようと考えた私は、施設に行ったとき、

「お母さん、一緒にお茶っご、飲まない?」と誘い、本人が「いいよ」と言ったので、

近くの自販機でペットボトルのお茶を買ってきて、一緒に飲んだこともあります。

※認知症になる前は、「一緒にお茶飲もう」と誘ったことはありません(笑)

 

3月末に母親に「慢性硬膜下血腫」が見つかり、一部急性のものもあるかもしれないと診断されたとき、私は、医師に検査入院を勧められました。

でも私は、「(不穏になっており、)本人が施設に帰りたがっているから」と言って、入院を断りました。

医療法第1条の四の2で、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」(=インフォームド・コンセント)なのに、この医師は家族に同意をもらおうとしていた、という理由もあります。

 

あきらめの悪い医師は「それじゃお母さん本人に確認して、いいよと言ったら入院するでいいですか?」と聞いたので、私は「はい」と答えました。

母親のところに戻ると、母親は点滴の管を自ら抜き、洋服を真っ赤に染めていたので、医師は入院を勧めることをあきらめました。

※認知症の方が入院すると介護が必要になるので、普通の病院は、認知症の人の入院を嫌がります。

 

4月17日の検査で、「慢性硬膜下血腫」が広がっていることがわかり(広がったということは「急性」だったということ)、このまま広がりつづけると手術になると聞いた時も、私は母親に説明して、それでも母親は手術したくないと言ったら、私は母親の意思を尊重するつもりでした。

結局、4月24日の検査で、「慢性硬膜下血腫」が小さくなっていたので、手術は回避されましたが。

 

前回、5月8日に帰省したとき、もう1つの"事件"がありました。

母親の入れ歯の前歯が抜けてしまったのです。

 

さすがに食べづらそうにしているので、私は母親に聞きました。

「入れ歯の前歯、取れちゃったんだって?」

母親は、前歯の取れた部分を触りながら、ニヤリとしました。

「前歯がないと、食べづらいでしょ?」

「うん」

「これ付けてもらうには、歯医者に行かなきゃいけないんだけど、行く?」

「ん?」

「入れ歯治すには、歯医者さ、行がねばいげねぇんだ。」

「うん」

「僕が一緒に行くから、歯医者行ぐが?」

「うん」

病院嫌いな母親が、まさか行くと言うとは思ってなかったので、私はビックリしましたが、

私は本人が納得するまで説明して、母親本人の意思を確認したつもりです。

 

でも、母親は、成年被後見人です。

成年被後見人とは、成年後見制度の後見類型の審判をもらった人で、「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(民法第7条)、すなわち「判断能力が常にない人」です。

ですが、上の会話を見てわかるように、成年被後見人になっていても、わかりやすく説明すれば、納得し、本人は意思表示をすることができます。

 

日弁連が2015年に、後見業務を行っている弁護士、司法書士に対してアンケートを取ったところ、、「本人の意思確認をしない」と回答した割合は15%、「しないこともある」が50%で、理由は「本人は合理的な判断ができない・しにくい」が75%で最も多かった、という結果が出たそうです。

ヨミドクター 2018/5/1~成年後見制度「本人の意思尊重を」…大阪家裁が指針より)

 

でもこれは、本人の意思を尊重するように定めた民法第858条(*)に反する行動なのです。

 

第858条

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

 

専門職後見人は、民法第858条を知らない訳がありません。

民法第858条があると知っていながら、「本人は判断能力がない人だから」と決めつけ、

(だって家裁がそう審判してるんだからと、言い訳もします)、

「本人に意志確認をしていない」のです。

そして、本人の最善の利益(ベスト・インタレスト)になるからと、勝手に、なにもかも、後見人が決めてしまいます。

本人の意思を確認せずに行なった行為は、本人にとって最善の利益(ベスト・インタレスト)になる訳がありません。