地上から生ぬるい風が吹き込んでくる。お世辞にも爽やかとはいえないが、籠った熱を感じない確かな秋の風だ。新富町の駅。1番出口へは階段しかなく、季節をはずした真っ白なロングスカートの裾を気にしながら、私は階段を上がる。

地下鉄の構内も明るい。でも日差しの強さは別物だ。目を細めてサングラスをかけ、安心を手に入れる。目的地までの地図を示した掌の液晶がブラックアウトする。3・2・1。着信まできっかり3秒かかって通話相手が画面に現れる。「コセキノフヒョウ」についての問い合わせ。「コセキノフヒョウ」に何が載っているか私は知らないが、相手の望む答えをしたとみえ、通話が切れた。

電話をしながら大きな日陰に入った。うっすらと日焼けした腕をさすりながら。なんだか外国みたいな雰囲気がする。東京だけど知らない場所。普段訪れることのないところ。もう降りることはないかもしれない駅。すごく遠くに来てしまったみたいな感じがして落ち着かない。振り返ると日陰を作っていた「中央区役所」の文字が控えめに掲げられている。

ナビは頼りない。でも私の勘はもっと頼りない。仕方なく右手に順路を表示したまま歩き出す。迷っていた地図の中の小さな人は、自分の位置を見出だし、胸を張って歩き始める。

3分ほどだった。あっけなく、目指すその書店にたどり着く。店内には3名の先客。うち2人はツーリストのようだ。へぇ。外国人ツーリストもこの展示を見に。聞けば、本屋をめぐるツアーがあるのだという。ツアーでなく訪れる者も多いらしい。外国で、本屋を訪れたくなる気持ちは感じたことがあるなと思い出す。


1週間に1冊。火曜日から日曜日の間。この本屋は開いている。今週は松岡正剛の『編集手本』の番。銀座の校長先生は、レジに置かれたiPadの中で「声の文字」について語っていた。

「会期中に、ふらっと来られるみたいなんです。でも、ふらっとだから、いつかはわからなくて」日本人形みたいにきれいな髪をした店員さんがなぜだかとても申し訳なさそうに教えてくれた。

1枚の紙から折りだけでできている『編集手本』。フラグメントとパースペクティブの文字に心がざわざわして、家に連れ帰る。