$basuku-doのサッカーブログ

何が何でも勝利する・・・。スペイン人はそういったサッカーを好まない。だからこそビルバオのパスサッカーに酔いしれ、歓喜する。たとえバルサに負けたとしても。

対して、アトレティコのシメオネが遂行するハードな守備を信条とするサッカーをとことん嫌う。今回のEL決勝は、そんな対照的なチームスタイルの戦いになった。

☆両者の4-1-4-1

両チームともシステムは4-1-4-1.しかし中身はまるで違う。パスを主体とした攻撃を展開するビルバオは、基本的にこの4-1-4-1で戦う事が多い。対するアトレティコは4-2-3-1で戦う事も多く、4-1-4-1で臨む事はあまり予想されていなかった。しかしすぐに答えは出る。

$basuku-doのサッカーブログ

決勝戦は並々ならぬ緊張感が漂っているので、先に主導権を握れるかがカギだ。この試合の主導権を握ったのはアトレティコだった。アトレティコは上図のようにプレスをかけ、ビルバオの中盤に自由を許さなかった。中盤でのパスワークを売りにしているビルバオのサッカーを封じ込めにかかったのだ。この戦い方はハマった。

ビルバオは思うようにパスが繋げず、アトレティコがインターセプトする場面が多く見られた。アトレティコの選手には守備の意識が行き届いており、インターセプトを狙うタイミングが上手い。恐らくシメオネは試合開始10分間に最大限の力でプレスをかけるように指示を出していたのだろう。序盤はアトレティコが圧倒する。

☆プラン通りの先制点

アトレティコは前半7分にファルカオの美しい左足シュートで先制する事に成功する。守備的に戦うチームにとって、先制点は非常に重要だ。リードを巧みに守りながらカウンターを狙う。自分たちの最も得意な形で試合を進める事が出来るからだ。

シメオネのプランはこの時点で90%程度完成していたはずだ。残る問題はビルバオの攻撃を凌ぎ、追加点を奪う事。対するビルバオの監督・ビエルサは、ボールを持ってアトレティコの選手のスタミナを削り、徐々に自分たちの時間を作ろうと考えていたはずだ。それを実現するだけのチーム力も備わっている。

ビルバオにはまだまだ希望があった。それは最終ラインでポゼッション出来る事である。アトレティコは4-1-4-1の陣形を崩さずにプレスをかけてきていたため、最終ラインではビルバオが数的優位に立っていた。CB2枚VSファルカオの構図が出来上がっていた訳だ。ビルバオのCBにはビルドアップ出来るマルティネスもいるので、ビルバオはここでのポゼッションを軸に試合を進めていく。

しかしアトレティコの守備は巧みだった。試合開始時のような激しいプレスは鳴りを潜め、自陣に撤退して守備を行うようになったのだ。そしてビルバオがアトレティコ陣内に入った瞬間にプレスをかける。これで走る距離が短くなるし、限定されたエリアなのでプレスがかかりやすい。アトレティコのプラン通りに試合が進む・・・。

そして前半34分、再びファルカオのゴールが決まって2-0!この時点でアトレティコの勝利は揺るぎないものになっていた。なぜならビルバオはまだ1度しかアトレティコのゴールを脅かしていないのだから。チャンスはほとんど作れず、アトレティコのカウンターに耐えるだけだった。

☆後半のシナリオ

$basuku-doのサッカーブログ

ビルバオも状況を打開するために動いていた。上図はアトレティコのインサイドハーフの裏にムニアインが顔を出すシーンなのだが、ビルバオの選手はポジショニングが非常に上手い。チームとしてどう動くのかが決められていて、的確に繋いでくる。ムニアインはその大黒柱でもあった。

ビルバオは幾度となくアトレティコのような守備を受けてきた。だからムニアインが中央に侵入する事で状況は変わるはずだった。しかしアトレティコの守備は想像以上に堅く、崩せる気配が無い。

そして2-0のまま迎えた後半、ビエルサが動く。

$basuku-doのサッカーブログ

あまり動きがよくなかったイトゥラスペに代えてイニゴ・ペレスを投入。さらに左SBのアウルテネチェに代えてイバイ・ゴメスを投入。一気に2枚の交代カードを切ってきた。さらに後半18分にエレーラ→トケーロ投入し、2トップに変更する。上図はその後のビルバオの動き方を表している。

両ウイングのムニアインとスサエタが中央でプレーし、SBが共に高い位置を取って攻撃に参加する。ビルバオの攻撃枚数は増え、中央はカオス状態になっていた。それに対してアトレティコもファルカオ以外全員が守備に戻り、徹底抗戦となる。そしてビルバオの犯したリスクを突いていく。

☆ビルバオのリスク

$basuku-doのサッカーブログ

ビルバオの犯したリスクはやはり両SBの裏のスペースだろう。実質後半はCB2枚+アンカーの3枚で守備をしていたので、アトレティコのカウンターは非常に危険だった。そのビルバオのリスクをファルカオがどんどん突いていく。ファルカオがカウンター時にサイドのスペースに飛び出し、そして中盤の選手が中央から前線へ抜け出していく。この形でアトレティコは幾度かチャンスを作っていく。

ロスタイムには中央でフリーでボールを受けたジエゴが個人技から3点目を奪っている。

☆ビルバオの誤算とアトレティコの妙技

シメオネのプランが100%完遂されたのだとしたら、ビエルサは15%程度しか完成しなかった。ビルバオにはある誤算があった。それは非常に単純な事だが、アトレティコが上手かった。アトレティコの中盤の選手は狭いエリアでもボールを持つ事が出来、パス精度も高い。アルダ・トゥランやジエゴはビッグクラブでも充分やれるレベルだ。

ビルバオのような攻撃的なサッカーは、攻め終わった後の守備への切り替えが勝負となる。たとえば、

$basuku-doのサッカーブログ

上図の赤いサークルの位置でビルバオがボールを失ったとしよう。この場合、ビルバオはボールを奪われた瞬間に周りの選手がプレスをかけに行く。前線に人数を集めているので、ここでの効果的なプレスでボールを奪えれば、波状攻撃が可能となる。いつものビルバオならここでボールを奪えるはずだった。

しかしアトレティコはそのプレスを個人技などでかわし、的確にファルカオへと繋いできた。それどころかアトレティコの2点目は、ビルバオが自陣PA付近で不用意にボールを失って取られたものだった。自分たちが目指すサッカーをアトレティコにやられてしまったのだ。ビルバオのようなパスを繋ぐチームは、自陣でも無理に繋ごうとするところがある。そこが決勝戦で出てしまった。危険な時はクリアー。基本だ。

この時点でビルバオのプランは狂っていた。常に攻撃を続ける事がポゼッションサッカーの強みだが、1プレーごとに攻守が入れ替わるハードな展開に持ち込まれてしまった。泥臭くも強いアトレティコのサッカーにビルバオは完敗したのだ。

まとめ~過去の自分~

試合終了後、ビルバオの選手は泣いていた。サポーターも泣いていた。ビルバオの選手は緊張からか、少し調子が悪かった。しかし志向するサッカーの美しさならビルバオが勝っていた。これまでの戦いぶりは見ていて非常に楽しかった。しかしスペインでは邪道といわれるアトレティコのハードスタイルにビルバオは手も足も出なかった。

元はといえば、ビルバオもアトレティコのようなハードなサッカーをするチームだった。それをビエルサが改革し、ついにELの決勝までたどり着いた。昔のビルバオから成長しているはずが、昔の自分たちのようなサッカーをするアトレティコに敗れてしまった。

いくら泥臭い勝利しか要らないと言っても、決勝では誰もが勝ちたい。今回の王道VS邪道の戦いはそういったプライドが見え隠れした試合で非常に面白かった。今季の欧州の戦いは邪道が勝っている。超守備的に戦ったチェルシーにバルサも敗れた。スペインではバルサは王道の存在だ。

泥臭さが美しさを凌駕する。そんなサッカーを見るのも楽しい。