ホーム&アウェイで行われる大会の場合、大切なのは試合への入り方である。第1戦の結果を踏まえ、どう試合に入るかを判断する。この段階でミスがあれば、序盤で決着がついてしまう可能性だってあるのだ。
この試合の1stレグは2-1でホームのバイエルンが先勝した。簡単な状況をまとめると、レアルはアウェイゴールを奪っているので、1-0の勝利でも許される。しかしバイエルンに1点でも許せば、3点以上取らないと勝ち抜け出来なくなってくる。攻撃的にいくのか、守備的にいくのかの判断が難しい。
バイエルンからすれば、リードを保ちつつアウェイゴールを狙おうという姿勢になるのだが・・・。
☆ゲームをコントロールする能力
試合は序盤から大きく動いた。前半6分、ディ・マリアのシュートをアラバが手で止めたという判定でレアルにPKが与えられる。少し厳しい判定にも思えたが、序盤からレアルが怒涛の勢いで攻撃した結果である。これをロナウドが決めて1-0.この時点でレアルが1歩リードし、バイエルンは攻めざるをえなくなる。
さらに前半14分、エジルのスルーパスからロナウドが決めて2-0.盤石の戦いでレアルが電光石火の2得点を挙げる。これでバイエルンは2点以上取らなければ90分で決着をつける事は出来なくなった。
今日の試合はバイエルンが入り方を間違った印象がある。1点のリードを維持するため、様子見の姿勢で試合に臨んでしまった。しかしそれは本来の自分たちの戦い方ではなく、レアルにペースを握られる結果となった。2点のビハインドを背負ってからバイエルンは本来の姿を取り戻していく。
一方、幸先よく2点を奪ったレアルは試合をコントロールしようと攻撃の手を緩めていく。ところがレアルは試合をコントロールする能力に長けていない。一流選手がそろっているので、試合の流れを読む事は可能だ。しかし守備をしない者も存在するレアルでは、試合をコントロールするのは難しい。
レアルは上図のようにカッチリ守備を固めれば強い。レアルがしっかりとブロックを作って守備をすれば、バイエルンはゴール前に近づく事すら出来ない。ところがレアルの守備は気まぐれだ。試合をコントロールしているように見えるだけで、実はガタガタになっている。その原因を見ていく。
今日のレアルで目立ったのが最終ラインからのロングボールだ。相手DFラインの裏を狙い、後方から1本のパスで狙う。一見、相手ゴール前へボールを放り込んでいるのだから、安全なように見える。しかしこの攻撃がレアルを苦しめた。
ロングボールを相手に奪われると、レアルの前線は足を止めてしまう。赤い点線からこっちに誰も戻ってこないのだ。かろうじてエジルとディ・マリアが戻ってくるくらいだ。エジルとディ・マリアが自陣まで戻るのに時間もかかるので、実質4-2で守備をする事になる。中盤と最終ラインには距離が生まれ、バイエルンの強力アタッカー陣に自由を与える事となってしまった。
前半のボール支配率はバイエルンが58%。この数字に表れているように、レアルは試合をコントロールするどころか、ほとんどの時間をバイエルンペースで過ごしているのだ。いつ失点してもおかしくない状況でレアルは耐え忍んでいた。
そして前半27分、クロースのクロスに飛び込んだゴメスをペペが倒したという判定でバイエルンにPKが与えられる。この判定も少し厳しいように見えたが、ディ・マリアの件もあるのでチャラだ。これをロッベンが決めて2-1.1stレグと同じスコアになり、このまま終われば延長戦という事になる。
☆変化する心境
後半のレアルはモウリーニョが何か指示を与えたようで、見違えるように試合をコントロール出来ていた。モウリーニョの指示は単純で、「ロングボールはやめろ」だ。相手に簡単にボールを渡すのではなく、ボールを保持してゲームを組み立てようという狙いがあった。
後半のレアルはアロンソをDFラインに落とす事で数的優位を作り、後方でボールを落ち着かせる事に成功した。ロングボールを蹴っていた主な原因は、相手にプレスをかけられてパスの出しどころが無かったからだ。スペースと時間を作り出したおかげでレアルは急に試合巧者となった。
一方のバイエルンは大した変化は無し。と言っても心境に変化はあっただろう。現在の2-1を維持していれば負けは無い。しかし強引に点を取りに行けば確実にカウンターの脅威にさらされる。攻守ともにバランスを意識した戦い方を取った。
レアルにも心境の変化はあった。2点を先取した時、レアルの選手たちには確かな自信が生まれたはずだ。しかし不用意に与えたPKから1点を返された途端、自分たちが窮地に立たされている事に気付いた。なぜなら、もう1点奪われるとレアルは2点取らなければいけなくなるからだ。つまり、2点差をつけて勝利しないと先へは進めなくなる。そう考えると攻撃的に行けない。そんな感じだった。
さらにレアルは交代策でもマズイ部分が出た。後半30分、それまで攻守に走り回っていたディ・マリアを下げ、カカを投入。カカをトップ下に配置し、エジルを右サイドに移動させた。カカはディ・マリアよりもスペースを見つけるのが上手く、何よりエゴに走りにくいタイプの選手だ。カウンター時にチャンスを作ってくれるとモウリーニョは考えていただろう。
ところが、カカの動きが異様に悪い。私が最近過去のミランの映像を見た事で、全盛期のカカを意識してしまったのもあるかもしれないが、スピードが遅く、判断も悪い。守備面でもディ・マリアの貢献度には劣る。この交代がレアルの攻撃スピードを緩めてしまった。
後半は両チームともチャンスらしいチャンスが無く、時間だけが過ぎていった。GKが触る機会もそんなに多く無かった。試合はそのまま延長の30分間も過ぎ、PK戦へ。
PKはロナウド、カカ、ラモスとレアルが3人も外し、バイエルンはゴメス、アラバ、シュバインが決めて勝利。バイエルンが念願の決勝進出を決めた。
☆まとめ~正義と悪~
スペインでは、よくバルサとレアルが比較される。その時、バルサが正義で、レアルが悪と例えられる事が多い。昨日、正義のバルサはチェルシーに敗れた。最大の強敵が消えた事で、悪のレアルは笑えるはずだった。ところが思わぬアウトサイダーに足をすくわれる結果となってしまった。
モウリーニョ体制2年目のチームは強い。これはモウリーニョ自身が語っている事でもあり、実際今季のレアルは強かった。しかし2年前にCLで優勝したモウリーニョ・インテルほど完成度は高くなかった。これだけのタレント集団を束ね、常に悪の存在と言われながら勝利を掴むモウリーニョとレアルを私は応援していた。それだけに非常に残念な結果だ。
バイエルンは決勝戦の舞台でもあるフースバル・アレーナ・ミュンヘンへの切符を手に入れた。ホームで決勝を戦えるのは最高の事だろう。アドバンテージを考えれば、バイエルンが有利だ。しかし私はチェルシーを応援したい。考えがひねくれているかもしれないが、ホームで思惑通りに優勝するバイエルンの姿など見たくないのだ。番狂わせがサッカーの面白さの1つだ。私は決勝でチェルシーが勝利する事を期待している。