小田原に引越してきて以来、行きたいと思いながらまだ行けていないところは多々ありますが、この春ぜひともやりたいのがお茶室めぐり。
小田原は近代三茶人の別荘や茶室があり茶道とはゆかりの深い街。
私自身は茶道の経験はないのですが、思わぬきっかけで興味を持ったのです。
小田原図書館の郷土本コーナーで見かけたこの本。
茶人野崎幻庵物語
菜穂女につかわす
新井恵美子 著
野崎幻庵こと野崎廣太(こうた・1859~1941)は、中外商業新報社(日本経済新聞社の前身)、三越呉服店(現三越伊勢丹)の社長を務めた実業家。
引退後は小田原に住み、鈍翁、松永耳庵(じあん)とともに小田原三大茶人の一人に数えられています。
そんな小田原三茶人の一人、野崎幻庵の邸宅に、女中として仕えることになったある少女(菜穂)の第二次大戦もはさんだ一代記がこの本。
幻庵さんに茶道のいろはを教えこまれ、やがて右腕として茶事も取り仕切るようになり、大きな信頼を得る菜穂さん。しかし年の差もある幻庵さんに先立たれると、父幻庵と折り合いの悪かった息子に、幻庵さんからもらったものすべてを奪われてしまう……。
戦後はさらに困窮のなか、生き延びることに精一杯だった女性の人生。
幻庵さんが財界引退してなお中央政界とも接点の多い人物なので、歴史上の事件も描かれ、また当時の小田原に別荘を持った素封家の暮らしぶりも覗けて、とにかく面白かったです。
実話と創作の境い目が私にはよくわからなかったのですが、幻庵さんと菜穂さんの結びつきも、尊敬と愛情と主従関係が入り交じった通りいっぺんではないものでした。これだけ心から尊敬できて安らぎを感じられる人に出会えて、そして茶道という文化を身につけて菜穂さんは幸せだったのだろうなと思います。
そんな本筋とは少しずれるのですが、私が興味を引かれたのは、幻庵が大人の女性になった菜穂に着物を選んでやるくだり。
お前のような知の勝った顔には花柄ややさしい色や柔らかな模様は似合わないよ
そう言って縞の着物を選んでやる。
当代きってのセンスの塊、目の肥えた茶人が、女性に選ぶ着物。選ばれた縞の着物も、知が勝っているという菜穂さんの風貌もすごく気になる。実物を見てみたい。
ついでに自分は花柄か縞柄か、どちらが似合うんだろう?幻庵さんのような茶人に着物を見立ててほしい……そんな想像まで。
せめて茶人のセンスが垣間見られそうなお茶室を見てみたい。
そんなわけで、冒頭のお茶室めぐりを思いたったわけです。
この本、Amazonなどにもなくて買えないのが残念なのですが、新井さんの他のご著書も読んでみたいと思っています。