もう一度 | ツールボックス

もう一度

ここ最近で彼は気付いた、日々無意識の内にとても大事にして来ていたある物が、彼の手を離れて行った事を。
学生の彼は反発をしない、静かで優しい子で、歯の噛合わせの悪さにも無関心な滑稽な感性で先生を信じて慕っていた。頭はさほど良くなかった。
一日講義中頭の中で性交の事を考えたり、教科書によだれを垂らして暇を弄んだり、他の生徒が携帯に没頭する姿を見て阿呆を見極めていたりしていた。
彼は特に自分の部屋から物が無くなるのを嫌った(その原因の殆どが、彼自身によるものだったと思っていい。然るべきは、論より証拠であり、彼は口を一度開けば非常に難解な話をしだして事実を煙に巻こうとする面があった為、誰からの信用も得られはしなかった)、過去に彼の部屋の扉近くに散漫しているゴミの中からCDが50枚程無くなっていた。彼は自信の目を疑い扉から出ては入ったり、窓を何度も開けたり閉めたりした。部屋にいる時彼は穴の空いたジーンズを二枚重ねではき、少し大きめで赤黒ボーダーの上着を着ていた。部屋からものが無くなったと思い込んだ彼の怒りは、誰にも訴えられる事はなかったが、気晴らしに散歩に出た近所の線路沿いで地面を呪った。
社会に消えて行った、先生を慕った感情。他にも自然とわいた感情を言葉にしてこなかったものが、次第に消えて行った