→続き
自転車を捨てる、と一度は決めた私であったが、
鍵をどうこうして、また乗れるのであれば、
それにこしたことはない。
そこで、
夏の暑い日、午後3時頃、
近所の自転車やさんに行った。
私「自転車の鍵がささるけど、あかなくなったんです。。」
自転車屋「持ってきてくれたら、何とでもできるんだけどねぇ・・
これで1回頑張ってみる?」
と、超巨大なペンチ(推定重さ5キロ、大きさ50センチ)を貸してくれた。
自転車屋「家に誰かいないの?これ使うの、お姉さんじゃ無理だと思うよ。」
私「頑張ってみます!」
自転車屋「やれるだけやってみて!無理なら何とかしてあげるから!
くれぐれも警察に見られないようにねー!」
私「はい!!!!!!!」
私は、
絶対に警察にだけは見られないようにしなければならない、
と頭の中で繰り返しながら、家に巨大ペンチを持ち帰った。
>完全に犯罪者の行動
そして、5分ほどだっただろうか。
鍵を壊し終え、
巨大ペンチを前かごにのせて、
自転車屋に戻った。
>すごすぎるだろ
☆☆☆
私「いけましたーー!!!!!!!」
自転車屋「めちゃくちゃ早いな!!!!笑」
私「追い込まれたら、人間なんでもきるんですね!」
自転車屋「でも、これで、どうとでもできるよ!
新しい鍵、どうする?
何種類かあるよ。
ワイヤーの安いやつと、
元ついてたようなリング状のと、
暗証番号であけられるいいやつもある「いいやつでお願いします!!!!」
そうして、私は、
その自転車屋さんに売っている、
1番いい、
暗証番号のみで開けられる鍵を購入した。
>3200円
私の乗っている自転車は、
お店に売っている中で1番安い自転車だった。
9800円くらいの1番安い自転車。
その自転車に、私は、3200円の鍵を取り付けることにした。
自転車屋「もうこれで鍵も不要だし、鍵が開かなくなるってことはないね!!!」
私「はい!!!もう、自転車捨てようと思ってたんですよ、私!」
自転車屋「捨てるには早いでしょ笑
防犯登録の番号からして、この自転車、まだ1年も乗ってないでしょ?
まだまだ乗れるよ、もったいない」
私「・・・?
1年半とかは乗ってますけどねー
でも、ライト自動でつかないし、気に入ってないんですよー」
自転車屋「ライト変える?
LEDのライトにしたら、自動ではないけど、
摩擦ではないから、軽くなるよ「変えます!!!!!!」
私は、9800円の自転車に、3500円のLEDライトを取り付けることを即座に決めた。
ひょっとしたら、新しい自転車を買った方がよかったのではないか?
と、今なら思う。
けど、その時は、
自分はなんていい判断をしているんだ、
と自信を持っていた。
かくして、私は、
9800円の自転車に、
6700円のオプションをつけ、
ご機嫌でマンションの駐輪場に戻った。
☆☆☆
ご機嫌でマンションに戻った私は、
そこで、信じられないものを目にした。
目を疑う、とはまさにそのことを言うのだ、と思った。
改良した自転車に乗って帰ってきた私が目にした、
信じられないものとは、
マンションの駐輪場に停まっている、
私の自転車。
「え?え?え?」
信じられないことに、
つい今しがた、
鍵を壊し、
大金をかけて改良した自転車は、
他人の自転車だったのだ。
パニックになった私は、
いったん見なかったことにしようとした。
どう考えても、私がやったことは、
犯罪ではないか。
私は、犯罪者になってしまった。
・・・逃げるしかない!!!!!
けど、私は知っていた。
逃げたら逮捕される可能性が高まることを。
逮捕されて、その後、10日勾留されて、
さらに10日の延長されることを。
>勾留延長までされるのかよ
これは逃げてはいけない。
けど、私は自転車の持ち主を知らない。
どうやって連絡をすればいいのか分からない。
迷った私は、
いったん部屋に戻り、
「この自転車の所有者の方へ
お忙しいところ、大変お手数をおかけして申し訳ありません。
お伝えしたいことがございますので、
この番号に連絡ください。」
と手紙を書き、自転車のかごの中にガムテープで張り付けて、その場をあとにした。
☆☆☆
幸いにも、私は、
周囲に弁護士が多い、という恵まれた環境にあった。
何人かの弁護士に、自分の行った犯行を告白し、
助けを求めた。
ある人は、
「器物損壊と窃盗は、過失では罰せられないから大丈夫だよ」
と言ってくれた。
しかし、
別のある人は、
「そんな不合理な弁解を誰が信じるんだ。
罰金50万だ。」
と言った。
もう、心臓が壊れるかと思うくらいドキドキしていた。
罰金50万って・・・
労役場留置で100日も出てこれないの・・・!?
>払えないのかよ
☆☆☆
そのまま、連絡を待っていることもできたのかもしれない。
ただ、私の不安はとまらなかった。
その人は、
鍵もライトも変わってしまったその自転車をみて、
果たして、
自分がその自転車の所有者とわかるのだろうか。
もし、反対に、その人が私の自転車に乗るようになったとして、
>どういう状況
警察にとめられたとき、その人は防犯登録の名前を答えられない。
・・・新たな犯罪者を生む可能性・・!!!
誤認逮捕・・!冤罪・・!!
再審・・・!!!!
>どこまでいくつもりだよ
とても不安になった私は、
その日の夜、家に帰り、
自転車の所有者の方・・
いや、被害者の方へ、事情を丁寧に説明する手紙を書くことにした。
「にわかには信じられないと思いますが、
私の自転車と、貴殿の自転車を取り違えて、
鍵とライトを交換してしまいました。」
と、自転車の暗証番号を書き、被害者が自転車に乗れる状況を作っておけば、
最低限、被害者が自転車に乗れなくて困る、という状況は避けられる。
被害を最低限に食い止めることができる。
書いた手紙を友達に読んでもらい、
ふざけている、とやり直しさせられ、
非常に改まった文章の手紙を書きあげた。
自分の犯行を丁寧に詫び、
直接謝罪をさせてほしい、と書いた。
そして、深夜、
私は、その手紙をもって、こっそりとマンションの駐輪場に行き、
被害者の自転車のかごに、ガムテープで貼り付けた。
>行動が犯罪者
あとは連絡を待てばいいだけ。
☆☆☆
それから数日。
自転車に貼りつけられた手紙はそのままだった。
私は、気が気じゃなかった。
いつ逮捕されるのか、と怯えていた。
そして、手紙を張り付けて数日後。
被害者の自転車のかごから、
ついに手紙がなくなった。
さらに、自転車もなくなった。
どうやら、被害者は、自転車に乗れたようだ。
ということは、手紙も読まれているはず。
私は、電話を待った。
☆☆☆
その週の週末だった。
知らない番号から電話がかかってきた。
私は、電話に出られなかった。
私は、半日程度たって、電話をかけなおしたが、
知らない番号の人は、電話に出なかった。
いくらなんでも、
マンションの駐輪場に停めた自分の自転車の鍵とライトが取り換えられていたら、
恐怖しか感じないと思う。
世の中に、
「見知らぬ人が自分の自転車のライトと鍵、
グレードアップさせてくれてるー!!
ラッキー!!!!」
なんて思うお気楽な人はいないはずだ。
きっと、被害者は、不安な毎日を過ごしているんだ。。
なんて申し訳ないことをしたんだ、私は・・・。
☆☆☆
それからしばらくたつが、
被害者から電話はないし、
マンションの駐輪場の様子からすると、
被害者は、どうやら改良された自転車を使いこなしているらしい。
被害者、お気楽な人だったーーー!!!!!
ラッキー!
もう、今後、他人の自転車の鍵を無断で取り換えたり、
他人の自転車のライトをLEDのものに交換したり、
絶対しないようにします!!!!!
この度は、誠に申し訳ありませんでした!!!!
>裁判になったときのために用意してた言葉
☆☆☆
↑これは、2019年の夏のお話です。
なんと、いまだにその被害者の方は、私が改良した自転車に乗ってくださっているようです。
なお、私は、悔しいからそこからも改良前の自転車に乗り続けました。