南太平洋4

 とうとう3月に入り、旅もあと2箇所の寄港地を残すのみとなった。16箇所目となった寄港地は、サモア島のアピア。観光案内所で情報を得た「美しい海」を目指して、タクシーに乗り込んだ。

南太平洋の海、美しさはどこも素晴らしかったけど、足の着く場所で見えた魚の種類は、ここサモアが一番多かった。アピアからはちょうど島の反対側に位置する「ラノマヌビーチ」でおよそ3時間、私は飽きもせず、サンゴに隠れる魚たちをずっと見ていた。青・黄色・黒と、色とりどりの魚がいたのだが、そのなかで一種類、いつ見てもにらめっこになってしまう魚がいた。

茶色っぽくて体長は7~8センチ。他の魚は、私が近づくとたいてい違う方向にスイッと逃げていくのに、この魚だけは、ぷくっとしたからだをひよひよと動かして、真正面から私を見る。またその顔が、スマートでない。どうも間抜けな感じなのだ。なんだかとても愛しくなってしまった。名前が分からないのが残念だが、私の持ち歩いていた水中カメラにはちゃんと愛らしいお顔が写っていた。もちろんしっかりカメラ目線の正面顔で。


(写真/ラノマヌビーチの美しい海。この島も地球温暖化が進めば真っ先に犠牲になる島のひとつだそうだ)