姑獲鳥の夏
魍魎の匣
狂骨の夢
鉄鼠の檻
絡新婦の理
塗仏の宴 宴の支度
塗仏の宴 宴の始末

京極夏彦
講談社文庫

今週のお題を見て私は、何を思ったんだか「まんじゅうこわい」を思い浮かべたんである。
ので実を言うとホラーとしてこれらが怖いのではなくて、"「京極堂シリーズ」こわい"状態なんである。

実際ホラーと言うかミステリーというかそのへんのジャンルなのでぴったりだとは思うのだけれど
このシリーズのこわいところはとにかく嵌る、の一言に尽きる。
正直映画のプレビューを見て興味を持った 「姑獲鳥の夏」ですっかり京極夏彦の世界にひたってしまった。

これだけ有名になったシリーズを説明するのは野暮だとは思うんだけれど。

腹帯には「妖怪シリーズ」などと書いてあるのですっかり誤解していたが、
決して妖怪達がおどろ~と登場するわけではない。
逆に京極堂の決めぜりふ「この世には不思議なことなど何もないのだよ。」に象徴されるように
戦後の東京周辺で起きる猟奇事件を古書肆であり禰宜であり拝み屋である京極堂が
憑き物落としと称し、謎に満ちているように見える事件を論理で看破し、幕を引くというシリーズである。

このシリーズはぶ厚い。それもこわいの一つ。こりゃあ暫くもつね…とわくわくする。
ええい、読んでやろうかい、と覚悟を決めて開くのだけれど進まない。イライラする。
実のところ進んでいるんである。でも進んでいる気がしない。
いろいろなエピソードが時間の軸を前後しつつ進むのと、小さな事も逃すまいと幾度か反復してしまうので
ぜーんぜん本が進んでいないような気がするのである。
それでいて先が読みたくて、気持ちだけが急いて急いてしようがないんである。
そして後半何本かに分かれていたように思われるエピソードがだんだんと同じ方向へ向かっていき
集束した頃に京極堂が重い腰を上げ、次々と登場人物の憑き物を落とし、事件の幕を引く。
その頃にはすっかり読んでいるこっちの憑き物も落ちているという案配である。

中心を固める登場人物がまず魅力的。
京極堂はもちろん、探偵榎木津、刑事木場、小説家関口、京極堂の妹敦子。
彼らに加えて回を重ねる毎に増えていく登場人物たちがまた魅力的である。
事件が微妙に重なったり微細な糸で繋がっているのもおもしろい。
戦後という時代設定も物語を引き立てる。復興の明るさのために尚更に色濃く沈む影の部分。
ああそんなもんかもしれない人間の強さ(または弱さ)なんてと思い出させる。

ああ、今日も寝不足だぁ…などと呟きつつ、今日も重い本を持ち上げる。
腕も疲れるんだよね…でも、分冊版ではなくてこの分厚いのを敢えて読みたい。

ああ。こわい、こわい。