俺の名は雷帝の騎士。
かつてレコ鯖で最強の要塞クラブのマスターを務め、
騎士として最高の称号"Sir"の称号を手にしていた。
もちろんその称号は女王陛下から授かったものではなく脳内だが。
しかし鯖内では俺の名を知らない奴はいなかった。
俺達の圧倒的な力の前に鯖内に敵は無く、

最早このゲームはクリアしたも同然だった。
そして俺は頃良くこのゲームに見切りをつけ、俺の力はゲーム内だけでなく
リアルでも相当なものだという事を思い知らせるために
俺はTWを引退して大学受験に励む事にした。




だが思いの他受験というものは強敵で、さすがの俺も一度はその壁に阻まれた。
しかし、一度受験に失敗したぐらいで俺の騎士としての魂は屈する事はなかった。
俺は力を蓄えるために浪人生活に入り、来年再び挑戦しようと誓った。
そして、志望校のレベルを下げた事で2回目の挑戦はなんとか成功する。
2回目落ちたら実家が経営している駅前でティッシュ配りの仕事を継ぐ
という約束で浪人生活に入ったので少々冷や汗ものではあったが。

まぁともかくこれからはバラ色の大学生活が始まる。
まずは外出用の服を買って、

美容院で髪型をキメてこのオタク臭い外見を改造する。
少し茶髪にでもしてみるか。
眼鏡ももっとお洒落なやつを買おう。
あとは外で軽くジョギングでもしてこの肥満の体を引き締め、
引き篭もり生活のせいで真っ白な肌を適度に日焼けさせる。
ルックスの準備ができたら適当なサークル入ったり、
バイトでも始めればあとは彼女ぐらい簡単に作れるだろう。
いよいよ俺も童貞を捨てる日が来るのかと思うと胸が熱くなった。




しかし、
現実はそう簡単ではなかった。
見た目はばっちりキメているはずなのに誰からも声をかけてもらえない。
こちらから声をかけるとなぜか相手の顔が引きつって、
早くその場を逃げたそうにしているのがいるのが判る。
なぜだ。
俺のファッションがどこかおかしいのだろうか。
コンビニで立ち読みしたファッション雑誌を手本としたのに。
俺の入った飲み会サークルでも、小遣いを稼ぐために始めたマックのバイトでも
なぜか俺の存在がスルーされている。
だれからも話し掛けてもらえない。
いや、一人だけ話し掛けてくれる人がいた。
バイトのマネージャーがいつもなにか俺に罵声を浴びせている。
俺の仕事ぶりが気に入らないのだろうか。
俺は真面目やっているつもりなんだがね。
どうやらこのバイトは俺には向いていなかったようだ。
もうやめよう。
俺の居場所はここじゃない。
もっと俺に相応しいバイトがあるはず。
同じような理由で飲みサークルもやめた。





さて、次になにかをやろうと思ってもやる気が起きない。
俺に相応しいバイトもサークルも、ましてや彼女もまだいない。
世間の女どもは見る目が無い。
俺のように誠実に童貞を守り続けた男がここにいるというのに
奴らがチヤホヤするのはいつもチャラ男ばかり。
こんなクソ女どもはこっちから願い下げだ。
そうして俺は大学生活に入って数ヶ月でまた元の引き篭もり生活に戻った。




久しぶりにやってみようかな・・・
俺が昔やっていたゲーム。
俺が唯一輝けたあの場所。
あの世界に帰れば俺は再び騎士としての名誉を持って生きていける。
あぁ・・・
俺にはリアルに居場所がなくてもテイルズウィーバーがあったんだ・・・




そして俺はPCの電源をONにした。
あの世界に帰るために。